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交差点の事象1

真夜中の交差点で、僕はあり得ない事に思いを馳せる

存在しないバス停に忘れられた傘
存在しない国の明日の天気予報
存在しない永久機関の歯車の回転、そこに降りかかる存在しない重力
存在しない男女の愛の囁き
存在しない草原が、存在しない焦土に変わったら、存在しない女の子はどれほど哀しむだろうか

真夜中の交差点で、僕は現実に目を向ける

ポケットに入っているくしゃくしゃの千円札
遠い国で見たストリートチルドレンの眼差し
取り壊された秘密基地と新品のビジネススーツ
皆んな誰かのフリをする
生きるとは、月面に建てられた旗ではない。
朝露に白む森の、陰湿に濡れた土の上にある、獣の足跡だ。

真夜中の交差点で、僕は昨日の夢に想いを馳せる

その夢の中で読んだ幻想詩集の一節が、あまりにも美しかったので、
思考の砂浜に落ちている貝殻を拾って耳に押し当て、もう一度聞き出そうとした。
しかし、そういうものは元来、二度と掴む事はできないのだと言わんばかりに、貝殻は沈黙を貫いていた。
わかっている、だから美しいんだ。
それでも、僕はしばらく心の海岸を歩き続けるだろう。
いつか、前から歩いてきた誰かと、行きずりに服の袖が触れ合った時にでも、あの存在しない詩が蘇るような気がしてならなかったからだ。

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