トマト

詩人が百人、トマトが一つ

六十人は、トマトの水々しい果肉、目の冴える赤色、ヘタの微妙なうねり、その甘さ、または酸味などについて歌った。

三十人は、トマトに内在する自分自身の影を追った。トマトが自己に及ぼす影響と、自己がトマトに及ぼしている影響、トマトと自己の一致、または不一致などについて思考して、頭痛に苛まれた。

八人は、トマトをハンマーで叩き潰したり、車で轢いてみたり、空高くに放り投げてみたり、火炎放射器で焼き尽くしてみたりして、ただ楽しんでいた。

残りの二人の内の一人は、トマトとコンビを組んで漫才をする道を選んだ。

もう一人は、トマトになる覚悟を決めて、それから先の人生をトマトとして過ごしていった。

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