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【映画感想】ラーゲリより愛を込めて

第二次大戦後の1945年。
舞台は零下40度、厳冬の世界・シベリア。
わずかな食料に過酷な労働…死に逝く者が続出する
強制収容所(ラーゲリ)。
絶望する抑留者たちに訴え続けた男。山本幡男。
「生きる希望を捨ててはいけません。 
    帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」

・目の前の出来事に
    傍観者で在り続けようとする松田。
・旧日本軍の階級を振りかざす軍曹の相沢。
・クロという子犬をかわいがる漁師の子・新谷。
・過酷な状況で
    変わり果ててしまった同郷の先輩・原。

ラーゲリ内で生活を共にする者たちは、
その劣悪な環境下で、誰もが心を閉ざしていた。
それでも。いつかダモイの日が来ることを信じ、
希望を捨てなかった山本幡男の運命とは ━━━━

Amazon Prime Video 参照

※ネタバレ含みます※


〜ざっくりと感想〜

大した知識があるわけでもないのに、
小さい頃から捕虜生活の描写が得意ではなく、
シベリア抑留に関する映画と知り、
観るまでに時間がかかりました。

やっとの思いで観られたこの映画は、
史実を連ねた作品というより、
この時代を生きていた人々の言葉
映像化した作品のように感じました。

捕虜として扱われていた描写を少なくしていたのはその時生きた彼らの想いだけでもまずは届けたい。という意図なのでは、と個人的に感じるほどです。

映画の原作では捕虜生活についても、
詳細に書かれているそうです。


強く印象に残ったシーンは2ヶ所


ずっと軍隊の感覚のままだった軍曹・相沢が

名前を呼ぶ、ただそれだけのシーン。

相沢は入隊してすぐの頃、
日本にとっての捕虜を殺さなければいけなかった。
その時、自分は人間であることを捨てたそうです。
生きるために人間を捨てた相沢が、
病床に伏せっていた主人公を「山本」と呼んだ時、
人間を、心を取り戻した瞬間だと感じました。

名前を呼ぶ
という今では当たり前のその行為に、
鳥肌が立つと同時に
改めて戦争の惨たらしさ・恐ろしさを感じました。


「もう戦後ではない」という新聞紙面。

日本で生活をしていた妻・モジミが、
山本は死んだとの知らせを受け取った後、
野菜を包む新聞紙面で発見した言葉。

言葉は発さない "日常" のワンシーンでしたが、
憤りを隠せないような、
矛先が分からない何かを抱えた表情をしているように感じました。

第二次世界大戦といっても
終わりがどこなのかはその人それぞれで、
生きている人間の数だけ有るんだろうと思います。

きっと夫が死んでも
彼女の中でのわだかまりが消えない限り、
前を向けない限り、
「戦後」になることはないのだと思いました。

が、もしかしたら "戦後" なんて感覚は
無いのかもしれないとも同時に思います。
それはきっと経験した人にしか分からない。

ただ1つ言えることは、
モジミが再び希望を持つきっかけとなったのは、
この映画のクライマックスともいえる、
記憶の遺書が届いたことでしょう。


記憶の遺書

ラーゲリ内で最期を迎える山本は
同郷の先輩・原から遺書を書くよう勧められます。

しかし、
文字に残しておくと検査で没収されかねない。
その時、原たちは日頃から山本が言っていた、
『頭の中にあるものは誰にも奪えない』
という言葉を思い出し、
彼の「家族への遺書」を記憶します。

ダモイ後、
家族の元に届く愛の込もった言葉たち。
この記憶の遺書の分担も秀逸でした。

遺書を分け、届けた4人は、原、松田、新谷、相沢。
4人それぞれの人生を追体験するかのような分担に、感動なんて言葉では片付けたくないほど、
言葉や想いの強さを感じました。


衝撃を受けたラストシーン

ラストは山本の長男が、
祖父として孫の結婚式に参列し、挨拶するシーン。
2022年の出来事です。

ハッとしました。
シベリアで抑留されていた方々を親に持つ方が
今もまだご健在であること。

それが今はまだ有り得る事実であること。

戦後79年。
シベリア抑留が終わったとされるのはその11年後。つまり、
引き揚げが完了して、まだ68年しか経っていない。

映画の中で山本の長男は当時20歳前後だったはず。そうすると、2022年のシーンでは88歳だとして、
ご健在であることに何ら不思議はありません。

戦争が昔のものでは無いと。
分かってはいましたが、
風化し始めていることに気づかされました。

どう生きていたのか、どう生きて欲しかったのか。知りたいと思いました。

しかし、
当時を生きていた人たちが
高齢化していることもまた事実です。

生の声を聴ける時間は限られています。


《最後に》

どの時代も "言葉" に想いを託す


それが伝わる映画でした。

記憶が、言葉が届けてくれる希望は、
いつも変わらずあるのかもしれません。

新しい戦争映画だと思います。
素晴らしい作品をありがとうございました。

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