満天の星の下で 第3話【小説】

2017年1月4日

 夢を見た。嬉しいような悲しいような様々な想いの交錯する夢で、身体を起こすと涙が頬を伝った。

 気が付くと私は新幹線の車内にいた。どうやら東京行きの東海道新幹線のようだ。隣りを見ると優希子が眠っていた。外は暗い。スマホをポケットから取り出し、時刻を確認すると19時過ぎで日曜日だった。ロックを解除して、写真のフォルダを見ると京都の写真がたくさんあった。土日を利用して彼女と旅行をしていたようだ。ただ、おかしい。私のスマホにあるはずの写真が無い。
「もしかしたらこれは夢かもしれない。」そう思ったが、
「だとしても続きが気になる。」この世界の住人として留まることにした。車内の電光掲示板には三河安城を通過したと表示されていた。
寝ている優希子を起こすのも悪いのでスマホの写真を確認してみることにした。鴨川沿いの景色に貴船や鞍馬の写真がたくさんあった。美しい景色や建築物、お互いに撮りあった写真もあったが2人で写っているものは1枚もなかった。SNSを一通りチェックして、スマホをポケットにしまうといつの間にか眠りに落ちていた。

 誰かの声がする。肩を揺すられている。
「もうそろそろ着くよ。起きて。」
凄まじく眠くて、まぶたが重い。車内の人が少し減っている。
「なぜこんなに疲れているのだろう。」
そう思いながら、意識を取り戻した。新横浜に着いたみたいだ。
「まだ新横浜じゃん。もう少し寝かせてくれよ。」
「だって、目が覚めちゃったんだもん。あと少しなんだからいいじゃん。」
「そうだ。優希子と一緒にいたんだった。」思い出した。
スマホをいじる彼女の横顔を見る。
「ん、何?」
視線に気付いてこちらを向く。
訊きたいことはたくさんある。
「なんで一緒に旅行しているんだっけ。俺たちどういう関係なのか。いつからこうしているのか。」
しかし、全てが野暮ったい質問であったし、知るには時間が足りなさそうだった。
「いいや、なんでもない。」
品川に着きそうなことに気付いて咄嗟に答えてしまった。
「そう。」
もう東京に着く。通路に列ができる。降りる支度をする。この旅はいつまで続くのだろうか。列車が止まり、ドアの開く音がする。席を立ち、後ろを振り返るとそこで目が覚めた。最後に見たのは優希子の小さい手だった。

 か細く綺麗な手だった。日曜夜の東京駅、全てを捨てて彼女の手を握ることができたのなら、何かが変わっただろうか。もし、古いドラマにあるように「私を連れて逃げて。」と言われたら私はどうしただろうか。彼女の手を取って走り出せただろうか。
考えても仕方ない。会社に行かなくてはならない。久しぶりに体が重い。ベッドから出て洗面台に向かう。冷静に朝の日課をこなしつつも、消えたはずの心の火が再び燃え始めたのを感じずにはいられなかった。

第1話:https://note.com/light_cobra3799/n/naec0982af1e4
第2話:https://note.com/light_cobra3799/n/n3f50839382ca
第3話:現在地
第4話:https://note.com/light_cobra3799/n/n9496262580d0
第5話:https://note.com/light_cobra3799/n/n2df3248b6a3f
第6話:https://note.com/light_cobra3799/n/nbee7ecba7d4a
第7話:https://note.com/light_cobra3799/n/n845430e9ef1d
第8話:https://note.com/light_cobra3799/n/nb3b5937754d2
第9話:https://note.com/light_cobra3799/n/nd82c0efc8a25
第10話:https://note.com/light_cobra3799/n/n085176c49803
第11話:https://note.com/light_cobra3799/n/na4cd46a10e51
最終話:https://note.com/light_cobra3799/n/n268a2ef79919

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