満天の星の下で 第2話【小説】

2016年12月29日

 社会人1年目もあと3か月で終わる。実家へ向かう電車の中で私は晴れやかというか安堵というか限りなく無に近い感情で青空と太陽を見つめていた。冬の西日は強い。実家に帰るといっても1時間弱、乗換なしで着く。しかし不思議なもので近いと意外と帰らなかったため、両親に会うのは5月の大型連休以来だ。
 実家の最寄駅に着く。生まれてから20年ちょっと住んだ場所だ。ホームから改札を出て家までの道は体が覚えている。今日明日と実家に泊まり、大晦日は一人暮らしのアパートに帰り、彼女と静かに年を越す予定だ。明日の夜は地元の友達と飲みに行く。
 軽い足取りで歩いていると、1台の自転車が私を追い抜いて止まった。
こちらを振り返る。
「こっち帰って来てたんだ!久しぶりじゃん!」
久しぶりに聞く声、優希子だ。
「おお、久しぶり。買い物帰り?」
「うん。駅前のスーパーにね。」
彼女は自転車を降りて隣りを歩き出す。
「帰ってくるなら言ってくれれば良かったのに。飲みにでも行きたかったし。」明るい声で言われる。
「すまんすまん、年末は家族とも過ごしたいし、恒例の飲み会もあるから。」私も連られて声が上ずる。
「毎年やってる男3人の忘年会ね。さすがに私は参加できないし、あんた達も参加して欲しくないでしょ。」と笑う。
 そんな他愛もない話をしながら、分かれる場所まで来た。
「じゃあ私こっちだから。」
そう言って優希子は自転車に跨る。
「今日は家で夕食食べるから飲みには行けないけど、まだ少し時間あるから喫茶店でもどう。」
私も彼女とはもう少し話したいと思い、誘ってみる。
「うーん、そうね。じゃあそうしよっか。荷物置いたら行くわ。どこにする。」矢継ぎ早に短い言葉が飛んでくる。
「大通り沿いのカフェは。」と地元で私のお気に入りの場所を提案する。
「オッケー。じゃあ先行ってて。あそこならすぐ行けるから。」
彼女と一旦別れ、私は実家とは別方向に歩き出す。

第1話:https://note.com/light_cobra3799/n/naec0982af1e4
第2話:現在地
第3話:https://note.com/light_cobra3799/n/n7f017105f79c
第4話:https://note.com/light_cobra3799/n/n9496262580d0
第5話:https://note.com/light_cobra3799/n/n2df3248b6a3f
第6話:https://note.com/light_cobra3799/n/nbee7ecba7d4a
第7話:https://note.com/light_cobra3799/n/n845430e9ef1d
第8話:https://note.com/light_cobra3799/n/nb3b5937754d2
第9話:https://note.com/light_cobra3799/n/nd82c0efc8a25
第10話:https://note.com/light_cobra3799/n/n085176c49803
第11話:https://note.com/light_cobra3799/n/na4cd46a10e51
最終話:https://note.com/light_cobra3799/n/n268a2ef79919

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