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静寂の映画館

リエム

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インドの娯楽といえば映画…は、もはや常識になりつつある。コルカタでも映画の人気は高い。いわゆるボリウッド映画とは別ベンガル語の映画もある。しかも、トリウッド(多くのベンガル語映画がトリガンジ地区で製作されているため)という名称まで存在する。このハリウッドの響きにあわせた「○○ウッド」という呼称、インドではこのトリウッドが最初だったといわれており(1932年)、ボリウッドがトリウッドにならっているともいえる。

街に出てみればベンガル語映画の看板やポスターをあちこちで見かける。しかし、街中に点在する古めかしい映画館は人もまばらだ。多くの人々はショッピングモールに併設された映画館を利用しているとのこと。私はふと思い立って、廃墟のような古い映画館を訪ねた。

古い映画館のチケットカウンター(筆者撮影)

正面ホールには、近所のおじいさんたちが椅子を一列に並べて座っていた。「もう、この映画館はやっておらんよ」と、一人のおじいさんが声をかけてくれた。「古い映画館はどんどん閉まってしまってねぇ…」と、溜息をついた。「昔は良い映画がたくさんあったんだよ。この映画館だって、いつもお客でいっぱいだった」と、分厚いメガネをかけた男性が続けた。おじいさんたちの許可を頂いて館内を見てみると、綺麗なシャンデリアや、鮮やかな色をしたタイル、何千人も腰掛けてきたであろう木製のイスが残っていた。静かな館内には、外から聞こえてくる雑踏の音が響き渡り、まるで賑わっていた日々の観客の声が染み付いているように感じられる不思議な空間だった。

映画館場内(筆者撮影)

80年の歴史をもつ映画館メトロ・シネマが閉鎖するというニュースが流れた時。どうやらスクリーンを増やすなどの改築のための一時閉鎖で、外観は残す予定だとのこと。伝統と映画を愛するコルカタの人々らしい選択だ。そのニュースを見ながら、私は訪れたあの映画館の静寂を思い出していた。

街中を歩いていると、道端で大荷物をもった男性がいた。荷物をよく見てみると、無数の円盤が積み重なっている。「映画のフィルムだよ」と、額の汗を拭きながら男性が答えた。「昔の映画。引き取り手もいないからね。今から廃棄処分所に持っていくところなんだよ」と、男性が一本のフィルムを缶から取り出して見せてくれた。陽にかざしてみると、美しく着飾った一人の女性が中央に佇んで、こちらをじっと見つめていた。「昔は、みんな映画館へ通ったもんだよ。今は、家でもインターネットでも見れるからなぁ」と、大荷物を眺めながらタバコに火をつけた。通り過ぎる人々も同じように足をとめて、フィルムの山を眺めている。そのうち、これは何の映画だとか、女優の誰々が出ていたとか、映画の話が始まった。あの分厚いメガネをかけた男性が観た「良い映画」も、この積み重ねられた山のどこかにあるのかもしれない。

映画のフィルムを運ぶ人(筆者撮影)

映画の楽しみ方は、ここ数十年で大きく変わっている。しかし、昔ながらの映画館やフィルムがなくなったとしても、人々の映画を愛する気持ちはどんな世代でも変わらず続いていくのだろう。

昔の映画について話が弾む(筆者撮影)

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