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表現の自由、”自粛”、忖度。―読み返したら、現代にピッタリだった『図書館戦争』

がっつりアクションSFと激甘ラブコメとが、
きちんとまとまって共存した大作『図書館戦争』シリーズ(有川浩さん)。

久々に読み返してみたら、
コロナ禍で余裕をなくしている昨今(特に匿名可のネット社会)に、ぜひ学びと気付きを得たい作品だった!という話題です。

【ざっくりあらすじ】『国による検閲』がまかり通るようになってしまった社会で、『図書館内だけ銃火器の使用を許可された自衛部隊』が、表現の自由と知る権利を守り戦う【別冊2巻を含む全6巻完結】

有川浩さんと言えば、この『図書館戦争』はじめ、
実写、コミック、アニメ化などメディアミックス作品も有名です。

軽い伏線解きが入ったスリリングさ、
ハラハラすれ違ってお約束展開が可愛いラブコメ要素、
『自分本位な人あるある』をスカッと成敗する要素…などがテンポよく入った、面白い作品が多いです。

図書館戦争は、(恐らくわざと)ライトノベル気味に書かれた作品で、子供さんでも読めると思います。

ライトノベル要素は2点あって、1つはラブコメの部分。
もう1つは「話を進めるためにぶっ飛んでる常識」。
ですが幅広い層の方にお勧めしたい。だから1巻で挫折されないように予め言う。ちょっと子供っぽいの苦手な方も、常識の箇所はファンタジーと思って頂いて。お勧めいたします。

個人的にも「私はもう子供は卒業した」とイキってた年齢あたりは、気恥ずかしくて読めない時期がありました笑。
が、そこをさらに卒業した年齢でまた読めるから大丈夫!
何と言ってもストーリーが本格。骨太。
パラレル平成の『検閲と戦う』ストーリーが本当に面白いのです。

この『検閲と火花(マジで)散らして戦う』図書館員たちのお話。考え学ぶ部分として、
【過去設定】
・大衆メディアが視聴率を求め炎上案件叩き
・その陰でスルッと憲法違反スレスレの意訳法律が可決
・人々が政治に興味なさすぎ問題
まずこの時点で、この問題ちょっと見覚えあるな?となります。

【現在】
・子供に悪影響を与える作品に発禁をかけることは正義か(1,3巻)
・「表現の自由」を盾に何をどう書いても良いのか(2巻)
・正義とか真実ってなんだ(全巻)
・差別用語とは?(2,3巻)
・「女の子は女の子らしく」攻撃をする親(2,3巻)
・正義と利益がぶつかった時の折り合い(3巻,別冊2)
・表現の配慮は、誰のための配慮か(3巻)
・表現の”自粛”は相手の為か自分の為か(1,3巻)
・良かれと思って正義を振りかざす人々の姿(2~4巻)
・ルールを守ることが手段ではなく目的化してないか(全巻)
・利権の絡む無茶法律を通しているのは私たちではないのか(1,3,4巻)
・テロの参考文献になってしまった作品の著者は叩かれて当然か(4巻)
・悪法が誕生する時、それを知らず知らず後押ししているのは我々一般人の意見ではないか(1~4巻)
・ぽろっと一言の意見や感想が『大衆の意見』扱われる怖さとは(2,4巻)

等々…。
これが、2006年スタートの全6巻シリーズで描かれているのです。

凄いと思います。
パラレルとは言え「現代」を表現した作品に『検閲』ですよ。大戦中の単語で物々しい。
でも「現代」に紛れ込んだ危機の「未来かもしれないもの」が、たくさん散りばめられている作品です。

昨年の人類初めての外出規制時にもだいぶウンザリしましたが、
2011年の東日本大震災の後もウンザリしませんでしたか。

私はしたよ。
『自粛しない奴は罰せられるべき(俺・私が裁く)』
みたいな奴が一定数涌くことに。

しかも2011年は、メディアとCM出稿企業が動きました。
あれビックリしませんでしたか?私はたまげました。ぽぽぽぽーん♪

あの「社会常識」が微妙に歪んだ感じ。
私は本当に怖かった、日本の深淵だと思った。
あれ以降の大きな災害後に出稿自粛した企業は何件あるのか(なくていい)、
そのことを”自粛警察”した人はいるのか(いなくていい)。

なぜあの時だけああなったのか。

『図書館戦争』は、それらについて(3.11だけじゃないよ)、
客観的に考えさせてくれる本だなと思います。
まだ世界的に未熟な「NET社会」を泳いでいくために、余裕のない社会で一度立ち止まるために。

直近で言うと、Cakesで人気連載だった『(幡野広志さんの)なんで僕に聞くんだろう。』。なんやかんやあって最終回を迎えましたが…。
炎上騒ぎになった2件について、私個人の感想は、最初の1件は「残念」でしたが、2件目の方は「えっこれも燃える?厳しすぎない?」です。

ああした1件についても、考えさせてくれるストーリーだと思います。
SNSに触れる機会のある方には、特にお勧めです。
気付きや学びを感じられる作品だと思います。

【オススメにあたって】
ラノベ無理な方へのお勧めは別冊1だけ飛ばす方法です。作者ご本人が別冊1のあとがきで「苦手な方は回避を」と仰っています。
ベタ甘摂取して幸せを味わえる方は、全6巻を文庫で。あとがき後の書下ろしまで網羅するのがお勧めです。数多くのハッピーエンドに胸が温まる。
この作品ファンでいらした故・児玉清さんの対談も収録されています。
【最後までお読み頂けることを願って注意書き】
シリーズ1作目が世に出たのは2006年です。
ベタ甘ラブコメ箇所は、平成前半の月9に憧れた世代がドンピシャ、という表現が豊富です。
【例:男性からの「お前」呼ばわり、イラつく女性は要覚悟】
「現実では許さなくとも、時代背景は分かる」と思います。その点だけ予め、時代観をご理解の上で、何卒。
ストーリー本筋は面白いし、2020年現代の世相を考えるにピッタリです。

最後に。ツンデレ好きな方には問答無用でおすすめします。

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