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【書籍内容公開】競争が激化するエンジニア採用市場で、優秀なエンジニアを獲得するには?


作家のエージェント、遠山怜です。この度、大和賢一郎氏の書籍『小さな会社がITエンジニアの採用で成功する本』のプロデュースさせて頂きました。2019年6月20日に発売された本書籍の内容を、noteで一部公開します。

企業のIT化に伴い、激化するエンジニア採用市場。勢いのあるスタートアップや大手企業が、優秀なベテランエンジニアや将来有望な新卒を獲得していくなか、業績が好調でも地名度の低い中小規模の企業は、採用に苦戦しています。

大手のように採用に巨額の資金を投入できないとき、どうやって有望なエンジニアを採用できるのか?

その秘訣を現役フリーランスITエンジニア大和賢一郎氏が解説します。エンジニアを採用する側・採用される側ともに豊富に経験してきた大和氏が語る、エンジニア採用の秘訣とは?

(本記事は書籍『小さな会社がITエンジニアの採用で成功する本』より一部抜粋でお送りします。なお、インターネット公開に際し、内容は書籍より一部編集しています)

第1章 自社に合ったエンジニアを見つけるために

1-1組織にとってよいエンジニアとは何か
優秀なエンジニアを雇いたければ、まずは自社にとっての「優秀の定義」を決めましょ う。他社にとっての優秀は、あなたの会社にとっては優秀ではないかもしれないし、その逆もあります。目的と状況によって最適な道具が異なるように、エンジニアも、会社が置かれているフェーズや進もうとする方向次第で、何が優秀なのかは変わります。 私はITエンジニアの仕事を20年以上経験してますが、ある時「オーバースペックだから」という理由で参画を断られた企業がありました。私のようなベテランのエンジニアは、 幅広い業務に対応できる分、単価も高いので、企業によっては「それほど難しい技術は要求されない仕事だから、もう少し安いエンジニアでも十分」というケースがあるのです。

しかしこのようなケースは「高レベルの技術に対応できるエンジニアはすでに雇っている」ので「アシスタントが何人か欲しい」という規模の会社であり、複数のエンジニアを抱える金銭的余裕が実はあるのです。あまりお金を出せない小さな会社で、「まだ何をやるか具体的な計画が決まっていない」「何人も雇う余裕はないし、人数が増えてもそれを統率するマネジャーがいない」という状況では、1人のベテランエンジニアに仕事をすべ てお願いするほうが効率は上がります。

本章では、エンジニアの採用に慣れていない小さな会社が、どのような観点でエンジニ アを探して選べばよいのかを解説します。本章を読めば、金額、技能、雇用形態(正社員、 フリーランス、アウトソーシング)などの観点から、あなたの会社に最適なエンジニアを見つける方法がわかります。

1-2 エンジニアの年収と開発に必要な月額人件費の考え方
エンジニアの求人サイトでは「年収300万~1000万円(スキル見合い)」といった表記をよく見かけます。つまり、持っている技術や経験によって3倍以上の差が出るのです。サイトの作成など、IT開発にかかるお金は、ほぼすべてが「エンジニアの人件費」 であり、IT化を覚悟した会社の成否はこの人件費で決まります。まさに「人件費を制する者がIT開発を制する」のです。単に「安くすればいい」という話ではありません。300万円のエンジニアよりも、1千万円のエンジニアのほうが、 倍以上のパフォーマンスを出すことは珍しくないからです。

必要な人件費の見積もり方
では結局、エンジニアを雇うためにはいくら必要なのでしょうか。仮に1億2千万円の資金があったら、アマゾンや楽天のようなショッピングモールをゼロから作れるでしょうか。サイトの開発期間を2年と仮定すれば、1カ月に使える資金は500万円です。例として、5名体制でのスタートを想定してみましょう。

まず、どのようなウェブサービスを作るにしても、見た目のデザインが必須です。カラーリング、ボタンの配置、文字のフォントやサイズなど、より見やすく、美しくするための構成を考える のが、デザイナーの仕事です。 そして、デザイナーが考えた見た目を、パソコンやスマホで実際に表示できるようにするのが、フロントエンドエンジニアの仕事です。パソコンではブラウザ、スマホではアプリにて表示しますが、それぞれ開発手法や言語が微妙に異なるので、別々のスキルが要求されます。 さらに、画面から入力されたデータをサーバに保存する、ログインやログアウトができるようにする、ショッピングサイトならクレジット決済を実装するなど、画面の向こう側で動く機能を開発するエンジニアが必要です。それがバックエンドエンジニアであり、サーバサイドエンジニアインフラエンジニアに分かれます。

サーバサイドエンジニアはデータの処理がメインで、インフラエンジニアはサーバサイドの機能を動かすためのハードウェアの構築やOSの設定を担当します。 さて、1カ月に使える資金が500万円なら、5名であれば1人あたり100万円まで出せる計算になります。しかしこれは「スタート時」の話なので、開発が進むにつれて増員も考慮しなければなりません。

計画当初は2年でリリースできる見込みだったとしても、見積もりが甘すぎたり、予期せぬ技術的なトラブルで開発が行き詰まったりなど、想定外の問題が起きるのは避けられないからです。その時「当初の予定は延ばせない。何としてもリリースさせる」となれば、 増員でカバーするしかありません。1人で3カ月かかる作業なら、「3人にして1カ月で終わらせる」という計算です。つまり、開発当初から「増員する可能性」を考慮した資金 計画が必要なのです。

サービスを軌道に乗せる費用も

そして、この金額はあくまで「開発のみ」の話です。開発したサービスを「お金を稼ぐレベル」まで有名にしたければ、営業、宣伝、継続的なサービス向上の施策など、やることはさらに増えます。最初の2年で運良く開発できたとして(現実には多くのプロジェクトが予定どおりに進みませんが)、次の1年でマネタイズに成功したとしても、最初に投じた数億円を回収できるまでに何年かかるでしょうか。その間、競合サービスが登場しない保証はありません。

本業で十分な利益を上げていて、たとえ新規のITサービスの開発が赤字で終わったとしても会社は潰れない、それだけの体力があれば問題ありません。しかし、まだなんの収入源もない、起業したての小さな会社なら、投資家からの支援が必須です。経営者本人が望むか否かにかかわらず、ベンチャーキャピタルや事業会社との付き合いは欠かせなくなります。社長は資金調達に時間を取られ、社内のフォローに手が回らなくなります。採用の面接もできなくなり「人事担当者さえ見つからない」と嘆くでしょう。新規サービスの開発は「危険すぎる博打」に思えるかもしれません。

「そこまでリスクは負いたくない」という場合は、まずは「社内のアナログな業務をIT化する」ことから始めましょう。

第1章 残りの項目一覧

1-3使えない「自称エンジニア」と重宝する「本物のエンジニア」を見分ける方法
1-4エンジニアの人件費を「コスト」ではなく「投資」と考える
1-5「月額30万のエンジニア3人」と「月額90万のエンジニア1人」どちらを雇うべき?
1-6即戦力を求めるなら技術力を重視してコミュニケーション能力は妥協する
1-7フリーランスを説得するのに必要な条件は「お金」と「スキルアップ」

第2章 採用以前にしておくべき、ITエンジニアに頼みたい業務の洗い出し方

2-1 IT開発は 「治療」「改善」「拡張」で考え、 会社に見合った仕事から着手する
会社として「やりたいことが決まっていない状態」でエンジニアを雇っても失敗します。 先にやりたいことを決めて、それに見合ったエンジニアを探す必要があるのです。やりたいことは、次の3段階で考えましょう。

【治療】ー今すぐなんとかしたい、社内で困っている面倒な作業を効率化する
【改善】ー既存の商品を拡販するためなどに、少しずつサービスを良くする
【拡張】ー新しいビジネスを立ち上げるなどして、もっと大きな規模で稼ごうとする

ここでは、鮮魚店のIT開発を例に考えてみましょう。

【治療】を実現するのに必要な人材
・店内のパソコンやネットワークを設定して、メンテナンスができる人材
・売上や取引先の管理を、表計算ソフトではなく便利なウェブサービスで実現できる人材
・顧客リストなどの重要なデータを、バックアップできる仕組みを作れる人材

【改善】を実現するのに必要な人材
・どの魚を仕入れるか、過去の売れ行きデータから自動で算出する仕組みを作れる人材
・納品先の飲食店ごとの売上季節変動を、スマホからグラフで見られるようにできる人材
・一般消費者向けの、お知らせ機能付きのポイントカードアプリを開発できる人材

【拡張】を実現するのに必要な人材

・楽天のようなショッピングモールに出店するためのページ制作や設定ができる人材
・店舗で販売している鮮魚を冷凍して全国に通販できる自社製ウェブサイトを作れる人材
・漁師と鮮魚店がネットでダイレクトに売買できるフリーマーケットアプリを作れる人材

ただし、ここで挙げた分類はあくまで「ざっくりと概要を分けただけ」に過ぎません。

実際はもっと細かい条件や仕様を検討しなければならないことを理解しておきましょう。あなたの会社がどのレベルでITエンジニアを探しているのか、それが決まらないと求人広告の文面も書けません。また、エンジニアの側も「この会社は、何がやりたいのかよくわからない」と感じて応募を躊躇します。

人材紹介会社を使う際の注意点
人材紹介会社に頼む場合も、エンジニアに求めるスキルと経験を具体的に説明しなければなりません。ただし「どのように説明すればいいのかわからない」という心配は要りません。人材紹介会社はプロですから、会社にどんな人が必要なのか、上手にヒアリングしてくれます。逆に言えば、会社の希望をうまく引き出してくれない「質問が下手な人材紹介会社」は避けたほうが無難です。 事前に求人の準備しておきたければ、他の会社が出している求人情報を参考にして、「どのような技術用語が用いられているか」を確認しておきましょう。そして、その技術用語が何を意味するのか、ざっくり概要を押さえておくと、話がスムーズに進むでしょう。

2-2社内のパソコンやネットワークの整備を誰に頼むのか決めておく
すべての会社は、業種や規模を問わず、社内でパソコンやプリンタをネットワークに接続して作業をしています。個人事業主でさえ、もはやパソコンとインターネットがなければ仕事は成立しません。そして、社員が増えるごとに、社内では次のような作業が必須になります。

・社員が増えたとき、その社員が使うパソコンのスペックやメーカーを選定して、必要台数と金額を見積もり、購入する。プリンタや共有ディスク(NAS)、LANケーブルなど、パソコンの周辺機器も、必要に応じて買いそろえる

・パソコンや周辺機器を開封して設置し、社内のネットワークに接続する。有線でも無線でもつながるように設定する。社内のネットワークがまだ構築されていない場合は、 Wi-Fiルーターやスイッチングハブなども購入してセットアップする
・パソコンを起動して、初期セットアップを行う。社員のアカウント(ログインIDやパスワード)を設定して管理する

・社員のパソコン同士で通信できること、およびインターネットに接続できることを確認する。かつ、通信速度が業務に耐えうる十分な高速回線であることを確認する

・メールの送受信や、社内チャットでのやり取り、ブラウザでの社内ウェブアクセスおよび社外ウェブアクセスができるように設定する

・プリンタを設置して、全社員のパソコンから印刷できるように設定する。必要に応じて、 印刷時のパスワード設定などセキュリティ対策を施す。スキャナを使う場合は、スキャンしたデータを社員のメールアドレスに添付ファイルで送信できるように設定する

・社内用の共有ディスク(NAS)を接続してセットアップし、社員がファイルを読み書きできるようにする。給与データなどの機密情報は特定の社員しかアクセスできないように権限を設定する

・業務に必要なソフトウェア(表計算ソフトなど)をインストールして使えるようにする。 あらかじめパソコンに入っているゲームアプリなど、業務に不要なソフトウェアを削除する

・日々の業務で発生する「起動しない、接続できない、遅い、重い」などのトラブルを解決する

一般に、このような「社内のIT環境整備」を担当する部署を「情報システム部」、略して「情シス」と呼びます。社員が数百名規模の会社では、専門の部署として存在しますが、小さな会社では、情報システム部を維持するほどの人件費を捻出できません。 そのため、このような会社では、次の3つのいずれかの方法で対応することになります。

・パソコンに詳しい社員に片手間でやってもらう
営業や企画などの社員でもITに詳しい人材がいるかもしれません。その社員に兼任してもらうのが一番簡単です。しかし会社の規模が大きくなると、片手間で対応できるレベルの作業量をはるかに超えてしまうので、本来の業務が手薄になり、結果として情報システムの専任者になってしまう可能性もあります。それなら別の人材を雇ったほうがいい、という考え方もあります。

・情報システム担当者を専任で雇うか、情報システム作業のみを外注する
情報システム部門の仕事は、ITシステムを開発する仕事ではないため、プログラミングのスキルや経験がなくても対応できます。そのため、開発要員としてのエンジニアよりも安い単価で採用できます。もしくは、情報システム部門の仕事に特化したアウトソーシングもありますので、雇うか外注するか、自社の規模や予算に応じて決めましょう。

・情シスも開発も両方できるエンジニアを採用する
特に社員が少ないIT企業の場合は、部署ではなく「情報システム担当エンジニア」が1人だけいて、かつ、普段はプログラミングを担当している開発部のエンジニアなどに兼任してもらうケースが多いです。

私が参画した、あるIT企業は、社員数が25名で、開発エンジニアは8名いました。その8名の中に、開発から情シスまで、なんでもこなせる上級エンジニアが1名いたので、専門の情報システム担当者を雇わなくても、開発の片手間で対応できていました。ただし、そのようなハイレベルなエンジニアは単価が高く、しかも多くの求人が殺到するので、採用するのはなかなか難しいといえるでしょう。

2章 残りの項目一覧
2-3迷ったらまずアナログな作業の自動化からはじめてみる
2-4社外向けITビジネスを始める前に 「会社をどこまで大きくするつもりか」 を考える
2-5ITエンジニアは職種によって「専門分野」と「守備範囲」が違う

第3章 よいエンジニアにどうアプローチするか

3−1小さな会社が考えがちなエンジニア採用の7つの誤解
「エンジニア採用の鉄則」として、一般的に次のようなことが言われています。それぞれの質問に、Yes/Noで答えてみてください。

1自社のホームページをきれいに作らなければエンジニアから見向きもされない
2優秀な人材は有名な大手企業に取られるから、無名な中小企業には回ってこない
3複数の求人サイトに多額の広告費を投下しなければエンジニアが応募してこない
4社長がIT技術に詳しくなければエンジニアは集まらない
5社内規則や福利厚生などの制度を整えなければエンジニアは集まらない
6自宅に持ち帰らせてまでエンジニアに仕事をさせる会社はブラック企業だ
7仕事が遅いのをパソコンのスペックのせいにするのは無能なエンジニアだ

答えはすべてNoです。それぞれ、なぜダメなのか、見ていきましょう。

1自社のホームページをきれいに作らなければエンジニアから見向きもされない
エンジニアの集め方として最初に思いつくのが「自社のホームページを作って募集要項を載せること」でしょう。しかし残念ながら、そう簡単にエンジニアが集まるなら誰も苦労しません。自社のホームページ作成に時間をかけるより、直接会って話す時間を確保するようにしましょう。 そもそも「会社のホームページに採用情報を掲載すれば、エンジニアが見てくれる」というのは間違いです。会社のホームページを見てもらうためには、会社名で検索してたどり着いてもらう必要があります。
しかし、エンジニアが会社を検索する以前に、その会社の存在を知らなければ、探しようがありません。ですから、有名な大企業ならともかく、 無名で小さな会社のホームページは、エンジニアとの「出会いのきっかけ」には成り得ないのです。 それ以前に「セミナーで社長と名刺交換をした」とか「過去に仕事をしたことがあるエ ンジニアから紹介された」などのアナログな出会いがあり、そこで興味を持ってもらって、初めてホームページへのアクセスがなされるのです。 

つまり「ホームページでの告知は無駄」ではないのですが、「ホームページでの告知だけで応募者が集まる」わけでもないのです。「社長や人事担当者が、候補者と直接会って話をする」などの地道な活動が欠かせません。

2優秀な人材は有名な大手企業に取られるから、無名な中小企業には回ってこない
「優秀なエンジニアは有名な大手企業に行きたがる」というのは誤解です。経験豊富なエンジニアほど、あえて大企業を避けたがる傾向があります。学生なら新卒採用で大手に憧れる可能性はあります。しかし即戦力となる経験者ならば、「大手はルールが厳しくて自由な開発が難しい」という傾向を知っているので、逆に大手を避けるケースもあります。 分厚い中間管理層に阻まれない「社長直属でスピード感のある開発」を担当したいから、 あえて中小企業やベンチャーに入りたいと考える人材もいるのです。

3複数の求人サイトに多額の広告費を投下しなければエンジニアが応募してこない
求人広告への過度な投資は、巨額を使える大企業と戦っても勝てないので、小さな会社が取るべき戦略ではありません。特に、不特定多数への定型メッセージはエンジニアからスルーされがちです。エンジニアの側も、広告はきっかけに過ぎず「不特定多数に送っているメッセージだから、自分にマッチしている可能性は低い」という冷めた見方をします。 

逆に「SNS経由で社長からダイレクトにメッセージが来た」などは、「自分のことを調べたうえでオファーをくれた」と思うので、無名な会社だとしても会ってみたくなるものです。

4社長がIT技術に詳しくなければエンジニアは集まらない
社長がIT技術に詳しくなくても、エンジニアの採用が不利になることはありません。 エンジニアの側もそのような事情を知れば、「会社として技術力がほしいからエンジニア を採用するのであり、社長は自社の弱みを認識している」と解釈します。 大切なのは「社長の強み」を伝えることです。営業力、資金調達力、会計スキルなど「エンジニアが持っていない強み」があればいいのです。

5社内規則や福利厚生などの制度を整えなければエンジニアは集まらない
社内規則や福利厚生の整備は、会社の収益が安定してからでも遅くはありません。そのような待遇面を重視するエンジニアは、そもそも小さな会社には来ないからです。特にフリーランスのエンジニアはその傾向が強いです。残業が多くてもいい、休日も家で仕事する、そんな気概のあるエンジニアにとって、福利厚生はオマケみたいなものです。

6自宅に持ち帰らせてまでエンジニアに仕事をさせる会社はブラック企業だ
エンジニアが最高のパフォーマンスを発揮するために必要なのは「規制の緩和」です。 例えば、セキュリティなどの社内事情もあるかもしれませんが、「休日に家で仕事をしてはいけません」と一律に禁止するのは、エンジニアの自由を奪うものです。モバイル環境が普及した今、どこでパソコンを開いても、仕事の環境は瞬時に立ち上がります。家でも、 カフェでも、本人が最も効率的に作業できる空間、それが最良の職場なのです。

7仕事が遅いのをパソコンのスペックのせいにするのは無能なエンジニアだ
福利厚生の充実度を気にしないエンジニアでも、開発に使うパソコンやモニタなどの充実度は非常に気にします。小さな会社ほど「エンジニアが気持ちよく仕事を進められる環境の整備」には気を使いましょう。「会社のパソコンが遅い」という理由で辞めるエンジニアもいるのです。安物のパソコンが不満でエンジニアが辞めてしまったら、パソコンの代金よりも、別のエンジニアを採用するコストのほうが大きな負担です。

3–2エンジニアの採用に会社の規模は関係ない
昨今、会社の規模を問わず、エンジニアの争奪戦が繰り広げられています。エンジニアが集まらないのは、会社が「大手じゃないから」「無名だから」という理由だけではありません。社長1人で立ち上げたばかりのベンチャーでも、社員50名前後の中小企業でも、 数百人の大企業でも、エンジニアの採用と離職は常に課題であり、資金のみならず、多くの時間と労力が費やされているのです。

これほどまでにエンジニアの採用を難しくしている理由は主に3つあります。

1そもそも、エンジニアの不足は慢性的に続いている
大手転職サイトが公表している「業種別の転職求人倍率」では、エンジニアが常に高い位置をキープしています。私自身、IT業界に入ったのは1998年ですが、当時から叫ばれていたエンジニア不足の状況は、20年以上経った今になってもそれほど変わっていません。むしろ、インターネットやスマートフォンの普及で、ウェブ、アプリ系のエンジニアは、当時よりもさらなる売り手市場になっています。

物販やサービス業でさえ、インターネットやスマートフォンを無視したビジネス展開は考えられない時代です。それらを開発するニーズが限りなく湧いてくるのは仕方がないことでもあります。

2大手で働くエンジニアのすべてが満足しているわけではない
「資金力のある大手なら簡単にエンジニアを集められる」というのは誤解です。なぜなら、 エンジニア側の意識が「大手志向」から「ベンチャー志向」に流れつつあるからです。 私も、かつて大企業で正社員のエンジニアとして働いていましたが、大きすぎる組織の雰囲気に嫌気がさし、辞めてフリーランスになりました。今では多くても社員が100人以下のベンチャーを選んで参画しています。 似たような話は周りのフリーランス仲間からもよく聞きますし、学生からも「大手よりベンチャーを選んだほうが成長できそう」という意見を耳にするようになりました。この流れは、大手企業であれば逆風かもしれませんが、小さな会社にとっては追い風といえるでしょう。

3未経験の新卒を採用しても戦力化までに最低3年はかかる
「エンジニアになりたい」という学生が、「エンジニアとして即戦力になれる」わけではありません。先輩の指導やフォローがなくても単独で開発できるレベルになるまでに、少なくとも3年、一般には5年以上かかります。当然のことながら、「優秀な指導者の下に付くことができれば」の話です。 新人に育成コストがかかるのは技術職に限った話ではありませんが、エンジニアは特にそれが顕著です。そして、戦力化したら、本人は自分のスキルが引く手あまたであることに気づきます。他社が好条件で転職のオファーを投げてきたら、なびくのは自然といえるでしょう。採用しても育てるのが大変で、育てても辞めてしまうリスクがある。だから採用に慎重になり、決断が難しくなるのです。

3章 残りの項目一覧
3-3求人広告費をかけずに優秀なエンジニアと出会う確実な方法
3-4経営者として「IT以外の得意分野」を明確にする
3-5社内ルールはむしろ未整備なほうが効果的
3-6エンジニアに時間と場所の自由を与えつつサボりを防ぐ方法
3-7エンジニアに貸与するパソコンやモニタのスペックをケチらない


第4章 採用すべき人材の見抜き方

4-1会社の成長フェーズによって「よいエンジニア」の定義は変わる
ITを活用したビジネスモデルは、大きく分けると2つあります。 1つは、製造業や流通業など、既存の商品で利益を上げている会社が、エンジニアを採用することで、ITを活用してさらなる売上増加や業務効率化をめざすケースです。IT 自体で儲けるのではなく、ITによって既存商品が拡販できたり、人件費が節約されたりすることで儲けよう、という考え方です。

もう1つは、ウェブサービスやスマホアプリなどをゼロから開発して注目を集め、広告掲載や有料課金で儲けよう、という考え方です。製造業と違って物理的な商品在庫を抱えるリスクはないものの、参入障壁が低いため、競合が多く、世界中がライバルとなります。 後者は、いわゆる「ITベンチャー」なのですが、「起業したてのITベンチャーがど のようにエンジニアを採用しているのか」について知れば、他業種の小さな会社においてもエンジニア採用のヒントになります。

まず、ITベンチャーの成長フェーズは次の4段階に分類できます。各フェーズに応じて最適なエンジニアを採用するのが成功の秘訣です。

①シード(Seed)......アイデアはある。試作品もある。利益はない
②アーリー(Early)......初めての資金調達。軸は定まりつつも赤字は続く
③グロース(Growth)......営業活動と組織づくりが課題。さらなる大規模資金調達
④レイター(Later)......黒字化達成。上場準備。企業としての社会的責任

それぞれのフェーズに求められるエンジニア像を見ていきましょう。

①シード:1〜2年目くらい。プロトタイプ開発に資本金をつぎ込む時期
創業者のアイデアがきっかけとなり、サービスの開発に着手する第一段階です。ただし プロダクトの品質は最悪です。試行錯誤の中、走りながら考えるため、仕様も二転三転し、 バグだらけで売り物にはほど遠いレベルです。1千万円程度の自己資金を用意しても、またたく間にエンジニアの人件費に消えます。

この時期に必要なエンジニアは「非正規」で「幅広い技術に対応できるフルスタックエンジニア」です。即戦力が必要であり、フリーランスなどの業務委託を使うのが一般的です。開発力のみならず、ビジネスモデルを意識した会話ができる人材、かつ、たび重なる仕様変更に柔軟な対応ができる精神力も欠かせません。技術領域も、フロントからサーバサイド、インフラまで幅広く、なんでもこなせる人が必要です。エンジニア経験10年以上のベテランが理想的でしょう。 シード期には、このようなスペシャリストが1人いればよく、逆に新卒レベルの見習いエンジニアが複数名いてもプロジェクトは回りません。

②アーリー:3年目くらい。赤字は継続するが、仕様やプロダクトは徐々に安定する
この時期になっても赤字は続きますが、プロダクトは徐々に安定してきます。会社の方向性や商品コンセプトの軸が定まり、仕様のブレも減ってきます。その結果、バグも少なくなり、プロダクトはそれなりに使えるレベルへ進化します。資本金はすでに底をついているので、追加の資金調達(5千万円から1億円程度)を済ませているのが一般的です。 エンジニアは3〜5名ぐらいの体制になり、少しずつ分業化が進んでいきます。 

この時期に必要なのは、シード期に作り上げられたプロダクトの土台をメンテナンスしつつ拡張できるエンジニアです。万能なフルスタックである必要はありません。IT業界で最低でも3年程度の経験があれば、チーム内で力を発揮してくれます。なぜなら、そのくらいのレベルのエンジニアならば、自分でゼロからプログラムを考えて書くスキルはまだ低くても、「すでに誰かの手によって作られたプログラムを読み解いて、それを改良するスキル」あるいは、「既存の処理を真似して類似機能を量産するスキル」を持っているケースが多いからです。

③グロース:4〜5年目くらい。黒字化を見据え、営業力やブランド力を強化する
この時期になると、プロダクトは「無料なら誰もが使いたがる」かつ「一部のヘビーユーザはお金を払ってくれる」というレベルまで成長しているでしょう。開発系とマーケティング系の分業化が進む時期でもあります。

シード期やアーリー期では、作り手のアイデアで「こんな機能があれば必ず使ってくれるはず」という博打的な開発が主流になりますが、グロース期で利用者もある程度増えてくると「どの機能が使われており、どの機能が使われていないか」という、データ解析に基づいた開発計画が求められます。 このような手法を「データ・ドリブン」と呼びますが、それをやるためには「最もアクセスの多いページはどれか」などの事柄を計測しなければなりません。

計測データの取得にはプログラミングの知識が必要ですが、それだけではなく、マーケティングでいう「カスタマー・エクスペリエンス」(顧客体験)の観点でデータを分析する能力も求められます。 プログラミングのスキルと、マーケティングのスキル、その両方を兼ね備えたエンジニアはまれなので、開発系とマーケティング系での分業化が進みます。よって、この時期には、データ集計や分析系の技術、ネット広告に明るいエンジニアの採用も積極的に実施されます

④レイター:5年以上。完全黒字化し、組織整備をして上場を見据える
プロダクトから安定的な利益が生まれるようになり、社員数も開発と営業を含めて 50名を超える規模に成長している時期です。上場に向けた具体的なマイルストーンが置かれ、 社内組織の整備が求められます。これまで自由度や柔軟性を重視していた経営から、秩序や安全性を考慮する運営にシフトチェンジせざるを得なくなるでしょう。

「サービスをダウンさせない」「利用者の信頼を裏切らない」などはもちろんのこと、顧客データの漏洩などにも気を付けなければなりません。 「セキュリティを意識できる」かつ「社内の運用ルールを遵守できる」といった「真面目さ」が、この段階になると特に求められるようになります

例えば、プログラミングにおいても「このソースコードの書き方ではセキュリティ上の欠陥があり攻撃を受けやすい」などの視点で開発できるか、といったことが問われます。 社外に機密情報を開示できなくなるため、これまで業務委託に頼っていた部分は、少しずつ正社員に任せていく必要があります。中途採用のみならず、新卒採用からの育成も視野に入れ始めます。企業に文化を根付かせるためには、新卒を教育するのが有効だからです。

成長に伴う悩みのタネ
ITベンチャーの成長は、大きく分けると以上のような4フェーズがあるのですが、成長に伴って、経営者を悩ますタネは大きく2つあります。 1つは「仕様が二転三転する」という問題です。何が当たるかわからないから、手当たり次第で機能を追加し、気づいたら当初の計画とは全く違うサービスができ上がっていた、 というケースです。機能が増えれば、それをメンテナンスする工数も増えるので、当初の人員計画が変動し、追加のエンジニアを採用せざるを得ない状況に陥ったりします。

もう1つは「アクセスが増えない」、つまり「サービスを認知させるのに莫大なコストがかかる」という問題です。どんなに優れたウェブサービスやアプリを開発しても、利用者に知ってもらわなければ、誰もアクセスしないのはもちろん、ダウンロードもしません。 利用者が増えなければ、広告も受注できず、有料課金も絵に描いた餅です。

では、この2つの問題点をクリアするために、どのようなエンジニアを採用すればよいのでしょうか。観点は「実装能力」「調整能力」「マーケティング力」です。 仕様が定まらない時期は、実装能力としてのプログラミングのスキルに加え、意見調整のスキルが必要ですから、マネジメントやファシリテーションの経験が活きます。しかし仕様が安定してくれば、プログラミングの実装スキルが主力になるので、調整作業はそれほど大変ではなくなります。 

マーケティング力については、ゼロから立ち上げる商品なら、いかにして世に広めていくかを考えるスキルが求められます。SEO(検索エンジンの検索結果で上位に表示され るためのノウハウ)や、SNSなどを用いたインターネット広告の手法に強いエンジニアは重宝します。一方で、すでに認知されている商品を扱うのであれば、広告のスキルはそれほど重要視されません。

この考え方は、ITベンチャー以外の小さな会社にも適用できます。これから始めようとしている開発について、「仕様が決まっているのか」そして「どの程度の宣伝が必要か」 を判断し、状況に応じて、採用するエンジニアの実装能力と調整能力、マーケティング力を見極めるのです。 例えば「ウェブを活用した社内の業務効率化」であれば、現状困っている業務が明確なら仕様は固まりやすいでしょうし、利用するのは社内の人間ですから宣伝も不要です。その場合は、エンジニアのスキルとして、マネジメント能力やマーケティング力は、必須ではありません。

4-2社内の業務効率化が目的なら 実装系より管理系のエンジニアを検討する
IT企業としてゼロからプロダクトを開発するのではなく、すでにIT系以外で軌道に 乗っているビジネスがある会社の場合はどうでしょうか。その場合、エンジニア採用の目的は、「社内の業務効率化」や「既存商品の拡販」などが多いでしょう。そこで考えていただきたいのは、その目的を達成するための手段として「エンジニアを採用するのが最適解か」という点です。

例えば、社内の業務効率化としてよく挙げられるのは、紙で処理している請求書、顧客リスト、社員の勤怠、経理情報などのIT化です。表計算ソフトではなく、ウェブで管理し、モバイルで外出先からも参照できるようにしたい、などの要望は、業種を問わず多くの会社の社員から出ています。そして、そのような仕組みは、すでに誰かが開発して販売している場合が多いのです。

エンジニアに作らせる必要があるかを考える
自分の会社が困っていることは、他の会社も困っているはず。よってニーズがあるので、 それを商品化している会社があるはず。そのように考えれば、エンジニアを採用してイチ から作らせるよりも、既製品を買ってきたほうが早いかもしれません。 「どの製品を選べばいいのかわからない」とか、「価格の妥当性が計算できない」などの悩みがあるなら、そのような目利き力のあるエンジニアをスポットコンサル的に採用すればよいのです。この場合は、プログラマというよりは、システムエンジニアやプロジェクトマネジャーなど、上流工程の経験者が理想的です。自分で手を動かして実装するスキルは必要ありません。自社の要件に合った商品を探して、比較検討し、見積もり金額を確認して発注する。ITコンサルティングにも近い仕事です。

管理系のエンジニアが望ましいとき
一方で、ある程度の規模の会社なら「既製品は導入済みだが、今の業務に合わなくなって使いづらいので、カスタマイズしたい」もしくは「ゼロから作り直したい」という要望もあるでしょう。その場合でも、必ずしも実装スキルのあるエンジニアを雇わなくても、外部の受託開発業者に発注する方法があります。その際、発注するための要件定義書などを作成し、業者と打ち合わせをして仕様を詰めていくという作業が必要になりますので、そのような経験がある管理系エンジニアを雇うのが正解でしょう。

いずれにせよ「自社専用のITシステムをゼロから開発せざるを得ない状況」でない限りは、プログラミングスキルの高いエンジニアを採用してもミスマッチになる可能性が高いので注意してください。

4章 他の項目一覧
4-3エンジニアに求められるコミュニケーション能力は営業マンのものとは違う
4-4エンジニアとの仕事の会話は「曖昧の排除」と「統一性」を意識する
4-5エンジニアが「どんな資格を持っているか」は気にしなくていい
4-6エンジニアの実務経験レベルは4段階に分けて判断する

ーーーーーーーーーーーー(書籍内容公開、ここまで)ーーーーーーーーーーーー

以降は、下記の内容を書籍内で解説しています。エンジニア採用の具体的な面接方法、雇用形態の使い分け、長く居続けてもらうための秘訣を解説しています。

第5章 面接に役立つ、採用側が知っておきたい「データベース技術力の確認方法」

第6章 面接に役立つ、採用側が知っておきたい「サーバサイド技術力の確認方法」
第7章 仕事への姿勢を見極める面接テッパン質問集
第8章 「正社員」「フリーランス」「アウトソーシング」の上手な使い分け方
第9章 採用後のエンジニアを正当に評価し、会社に長く居続けてもらう方法

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◾️著者プロフィール
大和賢一郎(やまと けんいちろう)
フリーランスITエンジニア。1977年生まれ。国立八代工業高等専門学校・情報電子工学科卒。日立製作所に14年勤務後、2012年に独立して「東京ウェブ制作」を設立し、代表を務める。2013年より常駐案件に参画。取得資格は、テクニカルエンジニア(ネットワーク)、第二種情報処理技術者、MCP認定技術者。
近著は『エンジニアがフリーランスで年収1000万円になるための稼ぎ方』(技術評論社)、『ハイペース仕事術』(すばる舎)など。
HP:https://kenichiro-yamato.jp/cms/

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