オズボーンのチェックリストとサメ映画
アイデアが浮かばない時がある。
一人でうーんと唸って考えていても、なかなかよいひらめきが出てこない。
そんな時、考え方の切り口として用意されている9つのチェックリストがある。提唱したアレックス・F・オズボーン氏の名前を取って、オズボーンのチェックリストと呼ばれている。
アイデアの宝庫・サメ映画
オズボーンのチェックリストは、アイデアが出ないと困っている事柄に対し9つの質問を投げかけ、半ば無理矢理アイデアを生み出そうとする方法である。
また、全く新しいアイデアを生み出すというより、すでにある商品・サービスを、改良、改善、変更することで新しい価値を生み出せないか?という発想法になる。
つまり「0から1を生み出す」のでなく「1を10にする」発想法といえる。
サメ映画という特殊なジャンルの作品群は、この「1を10にする」方法による様々なアイデアで溢れている。
サメ映画の原点は、スティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975年)になる。「海でサメが人間を襲う」というシンプルなストーリーを、スピルバーグの恐怖演出によって人々を恐怖に陥れた。
『ジョーズ』以降、サメが登場する作品が多く作られることになった。しかし「海でサメが人間を襲う」だけではつまらない。また、『ジョーズ』と同じことをしていても、決して『ジョーズ』を超えることはない。
そのため、サメ映画には「海でサメが人間を襲う」だけの映画を面白くするため、「1を10にする」にする方法によって、無理矢理なアイデアが詰まっている。つまりサメ映画の切り口は、オズボーンのチェックリストで捉えることができる。
オズボーンのチェックリストとはどういうものか、サメ映画を知ると理解が進む。
オズボーンのチェックリストとサメ映画
1. 転用
「転用」は、既存の商品をそのままに、展開できる他の市場はないか?と考える切り口になる。
サメ映画の場合、サメがいるのは海である。常識で考えると、海以外にサメがいることは考えられない。しかし、サメがいると想像できない例えば雪山にサメが登場し、人間を襲ったら面白いのではないか?それが『アイス・ジョーズ』(2013年)である。
他にも、サメが海以外に登場し、人間を襲う作品は多くある。『ビーチ・シャーク』(2011年)では砂の中をサメが泳ぎ、『シャークネード』(2013年)では街の道路にサメがわんさか登場する。さらには、竜巻にのってサメが空から降ってくるのである。
2. 応用
「応用」はつまり、パクリのことである。そのままパクるのでなく、他の商品やサービス、もしくは過去の商品やサービスから応用できるアイデアはないだろうか?
サメ映画に限らず、映画は多くの「応用」が行われている。過去作品から影響を受け、部分的に、もしくは多くの部分を「応用」した作品は多い。
サメ映画でもやはり「応用」を用いている作品は多い。むしろ、サメ映画にとって「応用」は得意分野といえるかもしれない。それらの中で何かあげるとすれば、最近の流行から「応用」した『シン・ジョーズ』(2016年)となる。
3. 変更
既存の商品・サービスの形、色、匂い…何か一部分を変えてみる。そうすると、新しい価値が生まれるかもしれない。
サメの武器といえば、鋭い牙と大きな口である。これがたくさんあれば、恐怖が増すのではないか?それが、サメの頭が二つある『ダブルベッド・ジョーズ』(2012年)だ。
この作品はシリーズ化され、頭が三つある『トリプルヘッド・ジョーズ』(2013年)から頭が六つある『シックスヘッド・ジョーズ』(2018年)まで続いていく。
4. 拡大
商品・サービスを大きくする。もしくは、販路を拡大したり、ターゲット層を拡大することで、新しい需要が生み出せるのではないか?という切り口が「拡大」になる。
サメは、それ自体が恐怖の対象であり、それが大きくなれば恐怖は増す。『MEG ザ・モンスター』(2018年)では、絶滅したはずの巨大ザメ・メガドロンを登場させ、もはやサメでなくモンスターとなって人々を恐怖に陥れる。
5. 縮小
「4. 拡大」と逆に、日本人が得意な「小型化」が出来ないか?と考えてみる。
サメを巨大化することで恐怖を増すことは出来る。であれば、小さなサメだって出来るはずだ。小さなサメで出来ること、それは大群にすることである。ピラニアのように…それが小さなサメが大群となって襲う『ピラニアシャーク』(2014年)である。
6. 代用
商品やサービスは、それらを構成する要素や素材がある。それを別の何かで代用することで、新しい価値が生まれないだろうか?
サメを構成する要素や素材、それは鋭い牙であり強靭な体である。これを動物のそれでなく、機械、つまりロボットだったら…それが、ロボット鮫が登場する『ロボシャーク vs. ネイビーシールズ』(2015年)となる。
7. 置換
商品やサービスを構成する要素を、今度は一度バラバラにする。それらを別の切り口で再構成することで、何か新しい価値が生まれるかもしれない。
「6. 代用」では、サメを構成するのは、鋭い牙であり強靭な体という要素とした。今度は、サメ映画自体の構成要素を考えてみる。サメ映画は「海でサメが人間を襲う」映画である。この構成要素を、分解する。
「海」で「サメ」が「人間」を「襲う」となる。
これら「海」「サメ」「人間」「襲う」を入れ替え、再構成したらどうなるだろう。
例えば、「サメ」と「人間」を入れ替えてみる。「サメ」が「人間」を襲うのでなく、「人間」が「サメ」を襲う。「人間」が「サメ」を襲うのは無理があるので、「人間」が「サメ」を操るにしてみたら…それが『スカイ・シャーク』(2020年)である。『スカイ・シャーク』では、サメを操る集団が人々を襲うのである。
8. 逆転
商品・サービスの構成要素を逆にすることで、新しい価値や需要は生まれないか?という切り口が「逆転」になる。
サメ映画は、地球の支配者・人間が、海の生物サメに襲われてしまうという恐怖である。その主客を逆転して考えてみる。つまり、サメが支配する地球があったら…それが『PLANET OF SHARKS 鮫の惑星』(2016年)となる。
9. 結合
他の何かと組み合わせることで、既存の商品・サービスに価値が生まれ、新しい需要を作り出せないか?という考える。
これはつまり、他の何かとの合体である、これもサメ映画が得意とするところかもしれない。
怪奇映画の有名人フランケンシュタインとサメを合体させたのが『フランケンジョーズ』(2016年)であり、巨大タコとの合体が『シャークトパス』(2010年)、ゾンビとの合体が『ゾンビシャーク 感染鮫』(2015年)である。