嘘つきのフェーズ
「冬なのに、ここが温かいから来るんだって」
そう言ってキミは笑う
水面を滑る白鳥を指さしたキミ
とても白くて
だけど、暖かい膜にでも包まれているみたに見えた
綺麗だと思うより先に、キミを好きになる
——眼と口と鼻と眉と額と一所になって、
たった一つ自分のために作られた顔である——
まえに読んだ、夏目漱石の一文を思い出した
そのままのことがボクの世界にもあった
11月の曇り空と寒さが
キミの息のかたちをつくって空に昇って消える
どうしてボクの隣にいるのだろう
もうすぐ居なくなってしまうのに
いいのだろうか
あの日、女友達に聞かれた
好きな人は他の名前だったのに
「悪いことがしたい」って
昨日キミが言ったから
夜に部屋を抜け出した
それくらいしか思いつかないボクだから
でも「夜の校庭で夏の残りの花火をする」
なんてキミの言葉に驚いた
「この街には雪が降るから
逆らうように振り回したい」
そんな理由で
結局、キミはしぶしぶ諦めて
ボクとこの池にきた
キミはどうして来たの
温かいからなの
たいして大きくない声なのに反響する
二人の声は
白鳥の夜を邪魔しない程度に
最期に
「またね」と
キミが言った
11月の曇り空と寒さが
ボクの気持ちのかたちをつくって空に昇って消える
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