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「岸辺露伴は叫ばない」読書感想

まずはこの本がどんなものかをすこし紹介させてください。

人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」に登場する天才漫画家、「岸辺露伴」。面白い漫画を読者に読んでもらうことが彼の全てであり、そのためには圧倒的なリアリティーを追求する。そんな彼をメインにしたスピンオフコミックが「岸辺露伴は動かない」です。
こちらの作品は、原作のバトル漫画とは違い怪談やホラー要素が強く、漫画家の岸辺露伴が漫画の取材を通して体験する不思議な話を中心に進みます。
取材ですので、「聴き手」ということで「動かない」とタイトルに冠しています。実写ドラマ化も大変面白いので、そちらも是非お勧めです。

そして、今回紹介する書籍はそのスピンオフコミックのさらにスピンオフ。
「岸辺露伴は動かない」を原作として書いた短篇小説集です。
著者は、北國ばらっど、吉上亮、宮本深礼、維羽裕介の4名。

さて、前置きが長くなってしまいましたが感想を。
わたしは原作のファンでもあるのですが、不思議なくらい楽しませてもらいました。なにが不思議かというと、この短篇には、しっかり岸辺露伴が生きているという事です。
べつに原作コミックスを小説化したものでも、原作作者が内容を監修しているわけでもないはずなのに、わたしの知っている「岸辺露伴」がいる。
そして知らない「岸辺露伴」がいた、と新しい楽しみまで与えてくれる。そんな贅沢な体験でした。
原作のキャラクターがしっかり作りこまれていることと、小説を書かれた4名の技術力をもって、こんなにまでも共通認識を持てる。そのうえで、4名の違ったホラーが楽しめる素晴らしい作品でした。

一話目、「くしゃがら」。
漫画編集部から届いた禁止用語リストに、「くしゃがら」という知らない言葉がある。その見たことも聞いたこともない言葉への興味と執着が、日常を歪ませていく。

二話目、「Blackstar.」
とある財団の代理人を名乗る男が、岸辺露伴にある人物の肖像画を50万ドルで描いてほしいと依頼してくる。異常な報酬額に戸惑う露伴だが「スパゲッティ・マン」の肖像画だということが分かると、これを快諾した。
そして、露伴が遭遇した「スパゲッティ・マン」について話し出す。

三話目、「血栞塗」
ある日、岸辺露伴はフグ毒による中毒について調べるために、図書館を訪れていた。図書館に人影が少ない。
司書によると、見つけると不幸になるという「真っ赤な栞」が、この図書館の本に挟まっているという噂が広まり、人が来なくなったという。
露伴が探していたフグ毒についての本が、なぜか児童コーナーにあるのをみつける。そこには、「真っ赤な栞」が挟まれていた。

四話目、「検閲方程式」
「未知との遭遇をテーマにした短篇」をと、集英社から依頼され岸辺露伴は宇宙人について調べるために大学の図書館に向かう。そこで資料探しの補助をしてくれることになった大学院生の近森優斗のノートに目が留まる。
数式が書かれた、そして一部が破り取られたノートのページ。
近森に尋ねると、この数式は「別次元に干渉するための数式」であり、近森の彼女はこの数式に挑んでいる最中に意識不明となり入院中だという。
森近は数式を解こうとするも不完全なことと彼女に残された時間もわずかなことから、少しでも手掛かりを得るために短篇にこの話を使ってほしいと露伴に提案する。興味を持った露伴は、彼女が入院する病院へ向かう。

五話目、「オカミサマ」
税理士事務所を訪れた岸辺露伴は、「妖怪伝説の取材の為だけに山を六つ買い、破産した」ことを説教されながら、宛名欄に「オカミサマ」と記入された領収書をみつける。
それについて尋ねる露伴に、税理士の誠子は「オカミサマ」ついて話しはじめるが、他の客から電話がかかってきてしまい最後まで話を聞くことは叶わなかった。
彼女の語った、「領収書の相手先をオカミサマと書いてもらうと、『お金を払わないといけない』という事実が消える」という効果。面白い漫画の為にはリアリティーの追求に妥協はしない岸辺露伴は、それを実際に試そうとする。

湿り気のある怪談、海外ホラー小説のような迫る恐怖、都市伝説や不思議なうわさ。一冊で色々読めるのは短編集ならではのお得感かと思います。
原作の漫画が好きなんだとか、他の人の書いた二次作はいいやと思う方も、もちろんいると思います。わたしも、そういうタイプです。
ファンが買うアイテムはいらねーよと、そっち側の人間です。
それでも、この小説は読んでほしいです。しっかりと「ジョジョ」ではあり、「岸辺露伴」です。

それでもまだ抵抗がある人は、「岸辺露伴は動かない」の実写ドラマから見てもいいかもしれません。
このドラマで興味が湧いたら、小説も是非読んでほしいです。
映画にもなっています。

最期に原作漫画を知らない方でも、昔テレビでやっていた「世にも奇妙な物語」が好きだった人には、気に入ってもらえる世界観だと思います。
kindle版だと、だいぶ安く読めるみたいです。


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