見出し画像

「未経験から100話でキラキラWEBデザイナーを諦めるかけだしちゃん」について

デザイナーやエンジニアにじわっと衝撃を与えた漫画「未経験から100話でキラキラWEBデザイナーを諦めるかけだしちゃん」をご存知でしょうか?

一言で言えば、主人公「かけだしちゃん」がWEBデザイナーを目指して頑張る話……なのですが、ネットビジネスの闇を見事に描き出していると話題です。
わたしもWEBデザイナーのはしくれとして、この漫画を読み、じわっと衝撃を受けました。ボディーブローのように後から効いてくるやつです。

そこで今回は、「未経験から100話でキラキラWEBデザイナーを諦めるかけだしちゃん」(以下「かけだしちゃん」)について、WEBデザイナーの視点から、感じたことを書いていきたいと思います。

いつものように感覚的な一発書きとかではなく、思うところをノートにまとめて清書しているので、結構長いです。ですます調もやめよう長いんで。

もくじ

漫画「かけだしちゃん」のあらすじ

引用:https://twitter.com/kakedashi_chan/status/1483756124482379776

この漫画は100話完結型の4コマ。
イベント系派遣会社勤務の「かけだしちゃん」という女の子が、「WEBデザイナーで月収○○円を稼ぐ」というネット広告をポチるところから始まる。
個人スクール(怪しい)に入学し、意識高い系の人たちと交流を深めながら案件獲得を目指す……が、思うように稼ぐことができず、金と精神力をすり減らしてゆく。

これだけ書くと、苦しさが伝わりにくいけど、

スクールから配布された課題が、他人のサイトの丸パクリだと判明する
「山田太郎@月収500万達成」みたいな肩書の人の高額セミナーに通う

など、とにかく「かけだしちゃん」がカモにされている様がこれでもかと描かれる。


WEBデザイナー・WEBエンジニア界隈の声

みんな「かけだしちゃん」が気になっている。
「かけだしちゃん」を読んだ業界人の感想をSNSや検索ワードでぐぐってみた。
ざっくり3つくらいに意見を分けるとこんな感じだ。

  1. かけだしちゃんに幸せになってほしい

  2. この仕事は地味だしそんなに稼げない

  3. キラキラアカウントにだまされないようにしよう

読了後のわたしの所感は②だった。


WEBデザインだけでは稼げない話

厳密に言うと「WEBサイトのビジュアルをデザインするだけでは稼げない」という話。

かけだしちゃんはLP(ランディングページ:縦に長い広告のWEBサイト)で高収入を目指している。
しかし、LPデザインやWEBデザインといった下流工程の作業で、大金を稼ぐのはなかなか難しい。
そもそもWEB制作には上流工程と下流工程があり、

  • 上流工程→お客様と打ち合わせをして、サイトの内容を考える人(ディレクター)

  • 下流工程→考えた内容を見栄え良く表現する人(デザイナー)

だいたいの会社で年収が高いのはディレクター職で、サイトの内容を考える人だ。
ディレクターが考えたサイト構成(ワイヤーフレーム)をもとにデザイナーがデザイン(デザインカンプ)を作成する。
最近、転職サイトを見ているんだけど、年収600万くらいでWEBディレクターの求人を出している会社をよく見かける。

対して、WEBデザイナー職は年収400万くらい。
会社の規模感によってまちまちだが、だいたい年収300万〜400万くらいで募集している会社が多い。
年収500万もらえたら良い方だ。
※ただし勤務年数やスキルレベルによる。

TwitterやInstagramでは、WEBデザインのビジュアルや技術のノウハウなど下流工程の発信が多い。
140文字の短文や画像数枚でブレインの情報をまとめるのは、難しいという事情もあるのかも知れない。
WEBエンジニアのセイト先生が、このあたりの事情を詳しく説明しているのでぜひチェックしてほしい。

SNSを見ていると、「これがキラキラアカウントかな?」と思う人たちは、WEBデザインで月収○○○万円達成と書いている人が多い。

2000年代初期ではありえたかも知れないけど、現在の相場感では無理のある額だと思う。


かけだしちゃんの問題点

その行動や思考に賛否両論ありまくりの主人公・かけだしちゃんについて。結論から言うと、かけだしちゃんには問題点が2つある。

  1. 情報収集不足(視野狭窄)

  2. 学びにお金をかけることが必要だと思っている

1.情報収集不足(視野狭窄)について
かけだしちゃんの情報収集源はSNSだ。
TwitterやInstagramを活用して、個人発信者からWEBデザインを学ぼうとしている。
さっそくだが、情報の収集先を一つに絞っていけない。
特にSNSは根拠のない嘘の情報も混ざっているし、自分を豪華に見せかけようとするアカウントも多いので、書いてあることを鵜呑みにするのは危険だ。

情報を正しく収集するには、古いやり方かも知れないが、まずは書籍・雑誌に当たる。
書籍・雑誌の情報がWEBよりも正確なのは、編集者や校正者など様々な人が、書かれている情報の真偽をチェックしているからだ。
本探しが難しいようなら、Googleで
「WEBデザイナー なり方」
「WEBデザイナー 就職するには」
とかで検索をかけてひたすら色々な人の記事を読む。
発信者を一人に限定してはいけない。キラキラしていない、ジジイやババアが書いた記事でも読む。色々な人の考え方や情報を取り込む。
友人・知人にWEBクリエイターがいるなら、どうやって現職についたかを聞いてみるのもいい。
あらゆる媒体から情報を得て、多面的に考えよう。

引用:https://twitter.com/kakedashi_chan/status/1485568097776201735

ちなみに、SNSで情報収集したかけだしちゃんが、WEBデザイナーになるための手段として考えているのは

  • デザイナーズサロン

  • メンター

  • 個人スクール

  • 大手スクール

  • 独学

どれも好手ではない。
スキルレベルが測れない未経験者は、同じようにスキルレベルが測れないネット上のデザイナーズサロンやメンター、個人スクールを利用してはいけない(だいたいデザイナーズサロンって何?)。

大手スクールは、この中では一番マシな選択かも知れないが、費用が高い……生活を切り詰めると精神的な余裕がなくなってくるし、仕事とスクールの両立は体力的にきつい。

独学は予算を低く始められるけど、伸びが遅い。企業で求められているスキルとは違う部分を深掘りしてしまう可能性がある。

最終的に個人スクールで学ぶことを決めたかけだしちゃんは、キラキラアカウントの人が開校しているスクールをいくつかメモして、友達のエンジニアちゃんに見せる。
ここで一度、エンジニアちゃんがスクールの怪しさ、受講料の高さについて指摘し、考え直せと苦言を呈している。
しかし、かけだしちゃんは、友人の助言に耳を貸さなかった

2.学びにお金をかけることが必要だと思っている点について

引用:https://twitter.com/kakedashi_chan/status/1486655163167215618

「私が教えるよ? ただでいいし」
と声を掛けてくれたエンジニアちゃんに、かけだしちゃんは言う
「スクール代金は自分への投資」
そして月謝5万円のスクールに入学してしまうかけだしちゃん。

引用:https://twitter.com/kakedashi_chan/status/1486293156396089344

ストーリーが進むにつれて、怪しいセミナー受講や経営者たちとの接待飲み会などに参加し、かけだしちゃんの支出が増えていく。
かけだしちゃんはこれらも自己投資の一つだと考えているようだが、彼女がお金を払っているのは人脈を保つためであって、自己研鑽のためではない

確かにWEBデザイナーは、デザインの勉強以外にもhtmlやcssといったプログラミングコード(厳密にはマークアップ言語)を覚えたりしなければならないので、学習費用は高く見える。

しかし、これらは「progate」や「ドットインストール」、「とほほのWWW入門」など、無料の学習サイトで身につけることができる。
※わたしのおすすめは「ほんっとにはじめてのHTML5とCSS3

最近はWEBと連携しているハンズオン形式の書籍もある。素材は書籍に書かれたWEBサイトからインストールし、手順に従いながら手を動かせば簡単にWEBサイトが作れる。
それらを数回繰り返せば、html/cssは簡単に覚えられるだろう。

学ぶ気持ちさえあれば、WEBデザインの基礎知識は初期費用2000円(書籍代)ほどで、取得可能だ。

①②を説明した上で、
わたしがかけだしちゃんであれば、「もう一度職業訓練に入り直す」道を選択する。
※かけだしちゃんは過去に一度職業訓練に通っている。

最近の職業訓練はデザイン関係の授業がたくさんある。
無料でプロの講師が教えてくれるし、プロの就職エージェントが就職指導も行ってくれる。
現職を辞めて失業保険をもらい、家賃を補助してくれる制度も受けながら、職業訓練校でWEBデザインの基礎を教えてもらうのが一番コスパがいい。
勤務年数や日数が足りない、そもそも働いていない(失業保険を貰えない)人のための補助金制度もある。

※ハロワに「UIデザイン」という言葉はない……

かつてわたしは、この方法で失業保険をもらいながらWEBデザインを学んだ。(※教科書代は別で1万円くらいかかった)

かけだしちゃんは既に職業訓練を卒業しているので、まったくの素人さんよりアドバンテージがある。正しいやり方を身につければ、学びのスピードは早かっただろう。
ここは知識を深めるため、職業訓練校に再入学するべきだった。



個人的見解

わたしはかけだしちゃんに好感を抱いている。情熱の注ぎ先はおかしいけど、かけだしちゃんの人間性(キャラクター)はとても好きだ。

かけだしちゃんは、言われたことを素直にやる。
「素直さはスキルです」と2ちゃんねる創設者のひろゆきさんが言っていた。疑いを持たず、斜に構えることもなく、愚直に実践を重ねることは、「素直さ」というスキルを持たない人間にはできない。

かけだしちゃんは、やる気がある。
仕事が終わったあとの自由な時間を学びに費やせる人はなかなかいない。
勉強をしよう、副業をはじめよう、と思いながら実行に移せないのが大半の人間だ。
かけだしちゃんは長期連休をすべて制作につぎこめるほどの熱意と根性がある。

エンジニアちゃんが渋い顔をしつつも、最後までかけだしちゃんを見守り続けたのは、ひとえにかけだしちゃんの人間性が良かったからに違いない。

本題から微妙に逸れるが、
WEBクリエイティブ業界に勤める人は変な人が多い(むちゃくちゃ偏見)。

他人のアドバイスを素直に聞けなかったり(聞けよ)、
びっくりするくらいプライドが高くて分からないことを分かりませんと言えなかったり(言えよ)、
やりたくないことをあたかも正論風に包んだ言い訳で拒否したり(やれよ)
自分の世界観を織り込む仕事だからか、自分のルールにそぐわないことはやりたくない人が多い。

誤解を恐れずに言うと、クリエイターは、会社勤めに向いていない。

そんな中、真面目で従順なかけだしちゃんは、組織が欲しがる人材だ。
素直、従順、目上の人をおもてなしできる、他人に優しい、コミュニケーションがとれる、仕事にやりがいを求めている。
彼女が部下としてデザイン部に入れば、その会社の上司は大助かりだろう。

つまり、かけだしちゃんはフリーランス・デザイナーではなく、インハウス・デザイナーを目指せば良かったのだ。
かけだしちゃんみたいな、素直で優しくて熱意のある同僚、ほしいもん。
一緒に働きたい。

月収500万は達成できないかも知れないけれど、頑張れば月収30万+ボーナスくらいは「普通の会社員」として目指せると思う。

おまけ
これは作家目線の考察だが、作中の「エンジニアちゃん」はフィクションで、実在の人物ではないと思う。明確なモデルはいないような気がする。
可能性としては、成長した作者の現し身か、当時作者の周りで話を聞いてくれた家族や友達の複合体として「エンジニアちゃん」が作られたのではないだろうか。
ただの推論なので、ほんとうのところは分かりませんが……

(以下、漫画「かけだしちゃん」に関係ない自著の宣伝です)


自著宣伝させてください……(小声)

「かけだしちゃん」に便乗するような形になってしまい、非常に恐縮です……

偉そうにここまで考察してきたが、わたしも過去に「WEBライター」を目指していた時期があって、意識高い系のグループに入ってカモにされた経験がある(セミナー代1500円とられた)。
この漫画の主人公を笑える立場ではない。

フローリングの表紙にフローリングの背景を重ねるというセンスのなさ

「WEBライターでカモにされた話」のエピソードを含め、30を超えるアルバイト経験をネタにしたビジネスエッセイはboothで販売中。
この他にも給料未払いで裁判寸前までいった話や、仕事なさすぎの出版社でダラダラ働いていた話、給料を取り損なわない正しいバイトのバックれ方などを収録している。

お金に余裕のある方はぜひ。
第三十五回文学フリマでも販売します。お近くの方は遊びに来てね。

最後にWEBライターでカモにされた当時の散文(恨みごと)的な記事を置いておきます。

こちらは無料で読めるけど、読む価値があるかわからん(笑)


その他、WEBデザイナーの関連記事

Instagramはじめました

https://www.instagram.com/onikiyou/

書いている小説のこと、読んでいる本のことを中心に投稿しています。
フォローいただけると嬉しいです。

サポートありがとうございます。このお金はもっと良い文章を書くための、学びに使います。