天性の才能

野心を出さずに、柔らかな雰囲気と言葉遣いで、仕事を集めてきてしまう。欲望とか、思惑とか、本音とか、感情とかを、一切出さずに自分の行きたい方向へ人々を先導する力がある。
その人の側に集まっているのは、やっぱりオシャレな女性たちで、和を重んじながら、着実に分け前を狙っている。
そんな才能のある人を中心に、にこにこした女性たちで構成された或るグループに所属していたことがあります。三ヶ月くらいかな。
その頃のわたしは、何を思ったのか自分の好きなことでお金を稼いでみたくて、仕事を取るために顔面が引きつるくらいにこにこしながら市内のあちこちへ出掛けていました。報酬よりも交通費の方が高くつくけど、次の仕事に繋がると思って打ち合わせをしていました。
すべてが終わったあとで、その女性は天性の才能を持っていたんだと気づきました。
飯の種の才能よりも、人から仕事をもらえる才能。礼節とピンポイントな柔和さと怒りとは程遠い雰囲気。
あのグループは、みんなのためにあるように見えて、本当はその人が仕事をもらいやすいように出来ていました。
だからたぶん、あの場にいた女性たちはあんまり稼げていなかったんじゃないかな。
そうでなければ、そのグループの中でたまたま仕事の電話が掛かってきたひとが、あんな風に大きな声で、丁寧すぎるくらい丁寧な言葉遣いで、まるで見せつけるようにクライアントと電話をするようなことはなかったと思うんです。

一回だけ、その人から直接仕事をもらいました。
その人が受けた仕事のアシスタントをしてもらえないかということで、場所も近かったし、気に入ってもらえればたくさん仕事がもらえるかな、なんてうっすらした目論見を抱いて仕事を終えました。
その人は、その場で知り合った人からさらに別の仕事をもらっていて、帰り道にたまたま出会った昔の友達に自分の近況に交えて仕事の話をし、名刺交換したあとで、駐車場に向かおうとして、「あっ!」と気づいてにこにこしながら日当をくれました。その仕草がまた感じ良くて、わたしもにこにこしながらその人と別れました。
「ああ、やっぱり彼女の対人技は才能だったか」と思いながら。
それから自然とグループの集まりには出なくなって、技術でお金を稼ぐことにも特に興味がなくなり、フェイスブックの更新もしなくなってしまったんだけど(笑)

腕前ではなくて、対人技。
営業職や人に会う仕事をこなしまくって身につけるものを不思議と最初から持っている人がいる。IT系とか、パソコンの画面を見ながら仕事をする人に多いように思います。
そしてやっぱりIT系の人で、そんな風な身のこなしを目指している人にも何人か会いました。
わたしは、彼女のそつのない神業を見てしまったために、その人たちの気が緩んだときに見せる野心や、肩書きの高い人に反応する癖や、誰か紹介してという遠回しな言い方に結構気づく方なんじゃないかと思います。
悪いことじゃないけれど、もうその世界には興味がないし、コネもないし、何より楽しいこともないのににこにこすることは出来ないので、そういうときは距離を置いて見ているか、話題を変えることにしています。

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