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Design&Art|デザインの眺め 〈04.空間としての図書館〉

アアルト大学でデザインを学ぶため、2年間のフィンランド生活を経験した優さん。帰国後もデザインリサーチャーとして、さらに活躍の場を広げています。「デザインの眺め」では、フィンランドのデザイン・建築についてさまざまな切り口で語っていただきます。今回は、フィンランドの図書館が持つ空間の魅力について、滞在中の素敵なエピソードを交えながらご紹介いただきました。

私にとって本を読むこととは、広大な言葉の海を彷徨う旅のようなものです。ひとりの人間の想像力を超えた知識や思考・経験を与えてくれるものであり、そしてなにより、本を読んでいるときの穏やかな時の流れがとても好きです。そのような時間を求めて、日本に限らず旅先でも図書館を訪れてみることがよくあります。図書館のいちばんの魅力は、偶発的な出会いがあること。その時の気分や季節・天候、そして図書館そのものの雰囲気によって、ふと手に取りたくなる本も変わってきます。そこには、一期一会の出会いがあるのです。

フィンランドにも、本を選びたくなる・読みたくなるような魅力的な空間の図書館がいくつもありました。古典的な外観をもつ優雅でおおらかな図書館もあれば、自然の中に静かに佇む穏やかな図書館もあり、それぞれに異なる魅力がありました。今回は、私が日常的によく訪れていたヘルシンキの図書館を紹介します。



フィンランド国立図書館 (National Library of Finland)
設計者:カール・ルドヴィク・エンゲル
設立年:1840年

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街のランドマーク、ヘルシンキ大聖堂のお隣にある国立図書館。19世紀初めに建設されたいわゆる帝国建築と呼ばれるもので、約300万冊の蔵書があるフィンランド最大・最古の学術図書館とのこと。大聖堂のモダンでシンプルな内装とは対比的に、優雅でクラシカルなインテリアが特徴的です。木製の重厚な扉を押し開けて中に入ると、ローマの神殿を彷彿とさせる列柱と、高い天井からの神々しい光による神聖な雰囲気を味わうことができます。建物に入る前はここが本当に図書館なのか、自分が入っても大丈夫なのかとどきどきしましたが、入ってみるとまるで映画のワンシーンかのような風景に心を奪われました。ちょっとだけ背伸びをして難しい本を読んでみたくなる場所です。

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カッリオ図書館(Kallio Library)
設計者:カール・ホード・アフ・セーゲルスタード
設立年:1912年

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多くの人で賑わうハカニエミマーケットのすぐそばにある、小さな赤レンガの図書館。アールヌーボー様式のこの建物は、フィンランドで4番目に古い図書館だそうです。まずなにより、外観がかわいい。ハカニエミには古着屋さんやヴィンテージショップなどが多く立ち並び、トラムで買い物に出かけたときに窓からこの図書館が見えると心躍る気持ちになりました。そして、中に入ってもかわいい。外観のレンガ色からは想像もできない白と淡色によるレトロでやさしい空間には石造ならではの縦長の窓から光がたっぷりと入りこみ、隅々までが明るい光で満たされます。子どもだけでなく、大人も絵本を読みたくなるようなやわらかい空気をまとった図書館です。

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リクハルディンカトゥ図書館(Rikhardinkatu Library)
設計者:カール・テオドル・ホイエル
設立年:1882年

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ヘルシンキ中央駅から南に15分ほど歩いたところにある図書館。デザインミュージアムのすぐそばにあるのですが、はじめての人は図書館だとは気づかずに通り過ぎてしまいそうな控えめな佇まいをしています。しかし建物の歴史は古く、労働者たちの寄付金によって建てられた北欧で最初の公共図書館で、設計したのは中央駅の目の前にあるアテネウム美術館と同じ建築家です。ネオルネサンス式のこの建築は、入るとちょっとタイムスリップしたかのような古風な雰囲気を醸し出しており、歴史を感じさせるインテリアからは当時の人々の息遣いを今もほのかに感じることができます。雪の降る冬の寒い日に、長編の物語を読むために訪れたくなる場所です。

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トーロ図書館(Töölö Library)

設計者:アアルネ・エルヴィ
設立年:1970年

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ここは、私のフィンランド生活でいちばんお世話になった図書館です。集中して作業したい時にいつも訪れていました。緑の多い公園に隣接する市立図書館で、これまで紹介した他の3つの図書館と比べると現代的な装いをしています。設計者のアアルネはアルヴァ・アアルトと共に仕事をしていた経験があり、建物からもその影響が所々見受けられます。例えば、公園に面する大きなガラス窓や空を映す丸い天窓。自然と向き合う素直な姿勢はアアルトから学んだのではないでしょうか。自習室の窓からは公園の木々が一面に見えるので、一日作業をしていても全く閉じこもっている気分になりません。また、休憩時に外で寝転んで白樺の木を眺めていると気持ちがリフレッシュして、またがんばろうとも思えるのです。自宅からは決して近くはなかったのですが、あまりの居心地のよさに電車とバスを乗り継いででも何度も足を運んでいた場所です。(天窓を下から見上げると人の目のように見える、ささやかな遊び心も好きなポイントです...!)

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フィンランドで生活をしていると、本を読んでいる人を目にする機会がたくさんあります。トラムでの移動中に本を読むおじいさん、公園で寝転んで本を読む学生など例を挙げればきりがないのですが、その風景を見るたびに、この国には読書の文化が人々の生活に深く根付いているのだなと感じます。本を読むことは、暗くて長い冬を過ごす北欧の人たちにとって、室内にいながらも外の世界とのつながりを持てる時間 ——— 心の旅ともいえるのかもしれません。今回は、私がよく訪れていたお気に入りの図書館をご紹介しました。雨の日が増えてゆくこれからの季節、みなさんもお近くの図書館に足を運んでみてはいかがでしょうか。


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