見出し画像

緋色のサージ 36 (最終話)

 そしてある夏の涼やかな朝、王妃様は無事御出産されました。初めにお世継ぎである待望の元気な男の子を、そして少し後に、御器量よしの小さな女の子を抱かれました。双子の子宝に恵まれ、王妃様は横になられながら、いつまでも涙ぐまれていらっしゃいました。
 王様は、正式に国の奴隷制度を廃止なさいました。伝染病発生後に主がどこかへ行ったまま行方不明になり、王子王女誕生後、まる三ヶ月経っても主の音沙汰のなかった家屋敷は、一時的に国の管理下に置き、残された家族、親族、下臣や奉公人などからの要望や、それぞれの家なりの事情を考慮した上で、行方(ゆくかた)を決めることとし、基本的に、本人の希望があれば、奉公人も元奴隷もそのまま屋敷内に住まわせ、決して追い出してはならない、としました。奴隷の解放と同時に、国の安定を謀るため、移民管理もなさいました。
 王様と王妃様は小舟を使い、ゆったりと川を渡って、ご家族四人で宮殿へお戻りになりました。川の精は、お二方に、岸のひまわりをゆっくりと観賞させて差し上げました。空気の精は、鳥の群れのような雲で山の頂上のお二方を祝福し、ご出産の際には涼しい風を送って差し上げました。海の精も摩(さすり)の精も、海の上の城の礼拝堂が完成するのを楽しみにしています。祈りの声は、浄化作用を担う精霊の活動の力になるからです。精霊たちは、これからもこの国を支えてゆくのが楽しみになりました。
 空気の精たちは、王子様と王女様は二重星(にじゅうせい/ごく接近して二つの星が並んで見えるもの)だと噂しました。大きな星が王子様、小さな星が王女様。王女様は、王子様に伴ってこの国を優しく照らしてゆくでしょう、と。
 そして精霊の誰もが、王女様をサージだと思っていました。王女様の面差(おもざ)しは、サージと見紛(みまが)わない者はいないと言ってもいいでしょう。王様もそのことにお気付きになっていらっしゃいました。『可愛い拾いっ子さんが戻って来てくれたんだ。ありがとう。もう悲劇はおしまいだ』王様は心の中でそう呟かれて、王女様を優しく抱きしめられたのでした。(完)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?