御宇田みや Miya Miuta

詩集「天上のブランコ(2003)」「海のプラネタリウム(2006)」を出版。時々、投稿…

御宇田みや Miya Miuta

詩集「天上のブランコ(2003)」「海のプラネタリウム(2006)」を出版。時々、投稿内容を見直しています。一時的に有料マガジンを非公開にしています。旧筆名、SanaShimamoto(島本紗成)。https://profu.link/u/38veftas

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Glaciar/グラシアール

    • 西天白蝶譚 その肆

         翌日、佐平は孝彦とキエに、少しお時間をいただけませぬか、と桔梗丸屋を出る話をした。二人は佐平が驚くほど困惑し、決断が早急過ぎると孝彦が云った。するとキエが、二助の様子を見に行って欲しい、と云った。忙しいだけの理由で祖父の葬式に来なかったのはおかしい、たまに来る文がありきたりなことしか書かれていないのもあの子らしくない、その間に身の振方をよく考えておくれ、と云った。  佐平が奈良の薬園を訪ねると、二助は、また丁度ええ時に来たなぁ、と感心したように云った。武蔵の植物園で働い

      • 西天白蝶譚 その参

         佐平は利一が知っていたフンランの言葉や、習い始めたアンゲリアの言葉を清に認めた。これが初めて出した文であった。清はヨネから教えてもらった簡単な料理の材料や作り方を返事に書いた。互いに心に秘めている会えない寂しさを表しはせず、こうしたやり取りが二人にとっては好意の最善をなすことで、立場上これ以上はどうしようもなかった。  ヨネは一彦が来ることを大層喜んでいた。裁縫が上手だし、畑仕事をしてくれるし、力仕事を頼めるし、何より家に信頼出来る男がいることの安心感があった。清は寺子屋で

        • 西天白蝶譚 その弍

             桔梗丸屋への帰り道、里山を歩いている時、少しでも清の側にいたい気持ちから、佐平は故意に二人より遅れて歩いていた。そして急な斜面に差し掛かると、気持ちの重さからか、よろけてしまった。すると体が当たった樹木の下の叢から蝶が飛び出した。黄色い蝶と白い蝶が夫婦をしたまま飛んで行った。これは一生のことをしておる時にすまぬことをした、と佐平は心の内で詫びた。羽化した蝶のオスの一日の仕事はメス探しである、求愛飛行はよく見掛けるが、交尾は動きがままならなく危険が伴う、そのためメスに拒否

        Glaciar/グラシアール

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        • 光に向けて
          23本
        • 西天白蝶譚
          4本
        • 明かし
          186本
        • 透織
          11本
        • 月の舟
          1本
        • ホセフとべにはの書簡
          5本

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