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なぜグローバル企業のCEOにインド出身者が多いのか?:インドに抜かれて日本の名目GDPが4位に


 グローバル経済において、多国籍企業のCEOにインド出身者が多く見られる現象は、ビジネス界で顕著なトレンドの一つとして注目されています。マイクロソフト、Google、IBMなど、世界をリードする企業のCEO職にインド出身者が就いていることは、単に偶然ではなく、インド出身のリーダーという人材を形成する特殊性があることを示しているかもしれません。そして、この背景を理解することは、現代が求めるビジネスリーダーシップの特徴を掴むのに役立つと考えて整理してみようと思いました。
 筆者自身も過去に何度もインドの方々と仕事をする機会がありましたが、その度に、彼らの仕事に対する熱意や判断力、スピード感などの優秀さを肌で感じる多くの経験をしており、その共通となるバックグラウンドを改めて調査・整理することで、新しい発見もありましたので、是非ご参考ください。

 最近、上記のような記事が目に付くようになりました。
つい先日、ドイツに抜かれて「ついに、、」と落胆を覚えて久しいのですが、次はインドです。贔屓目に見ても、インドの優秀な方は、本当に優秀だと思います。人口も日本に比べて10倍もいますし。日本は独自シナリオを描いているのでしょうか。。。





1. はじめに

 近年、世界のビジネス舞台でインド人CEOの台頭が顕著に見られます。マイクロソフトやGoogle、IBMといったテクノロジーの巨人から、多国籍企業に至るまで、彼らはグローバルビジネスの最前線で重要な役割を担っており、2023年末時点で、Fortune 500企業(米国で売上高の高いトップ500社)の35社がインド系CEOであるとのことです。
 そしてこれは、インド人材に特有な素養に起因するものとして、この現象が単なる偶然の産物でないとの一定の評価がなされているようです。以下に簡単にそれら要因となる素質について紹介します。

  • STEM分野の重視される教育システムとIITなどの厳格な入試制度と高度カリキュラムによる人材育成

  • 努力を重んじる意識や高い労働倫理の高い人材が育つ社会と教育文化

  • 国内の多元的な文化や積極的な海外経験から習得した異文化適応力とグローバルな視野

  • 伝統にとらわれず、新たな発想で大胆な戦略をもって競争をリード

  • チームの合意形成とモチベーション向上を重視して目標達成するリーダーシップ像


2. 著名なインド出身CEOたち

[図]グローバル企業のCEOを担うインド出身者たち

 CEOを務める企業の時価総額順にならべて、著名なインド出身CEOたちを紹介します。

(1)Microsoft

サティア・ナデラ マイクロソフト会長兼CEO
 サティア・ナデラ氏は、2014年2月にスティーブ・バルマー氏から引き継いでマイクロソフトのCEOに就任し、2021年には会長職にも就任しています。ナデラ氏はインドのハイデラバード出身で、マンガロール大学で電気工学の学士号を取得後、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校でコンピューターサイエンスの修士号、そしてシカゴ大学でMBAを取得しています。彼はマイクロソフト入社前にサン・マイクロシステムズで技術スタッフとして働いていました。

(出典:Wikipedia)

[参考パフォーマンス]
CEO就任時2014年度の売上:868.3億ドル
 → 2023年度の売上:2,119.1億ドル(2.4倍)

(2)Alphabet & Google

スンダー・ピチャイ グーグルおよびアルファベット CEO
 スンダー・ピチャイ氏は、2004年にグーグルに入社し、ToolbarおよびChromeの開発に携わりました。2015年にグーグルのCEOに就任し、2019年に親会社であるアルファベットのCEOにも就任しました。ピチャイ氏はインドのチェンナイで育ち、インド工科大学で金属工学を学んだ後、スタンフォード大学で修士号、ウォートンスクールでMBAを取得しています。彼は、マテリアルエンジニアとしてキャリアをスタートし、2022年には総額2億2,600万ドルの役員報酬を受け取る最も高給取りのインド人CEOの一人となりました。

(出典:Wikipedia)

[参考パフォーマンス]
CEO就任時2015年度の売上: 749.8億ドル
 → 2023年度の売上:3,073.9億ドル(4倍!)

(3)Adobe Systems

シャンタヌ・ナライエン アドビ CEO
 シャンタヌ・ナライエン氏は、1998年にアドビ社に入社した後、2005年にCOO、2007年にはCEOに就任し、2017年に会長にまで昇格しました。自社製品のクラウド化を強力に進めて成功したイノベーターとしての地位と名声を得ています。彼はインドのハイデラバード出身で、オスマニア大学で電子通信工学を学んだ後、米国に留学。アップルにも勤務していた経験があります。

(出典:Wikipedia)

[参考パフォーマンス]
CEO就任時2007年度の売上: 31.6億ドル
 → 2023年度の売上:194.1億ドル(6倍以上!)

(4)IBM

アルヴィンド・クリシュナ IBM会長兼CEO
 アービンド・クリシュナ氏は、IBMで30年以上のキャリアを経て、2020年にCEOに就任し、2021年には会長に昇格しました。彼のリーダーシップは、レッドハットの買収やブロックチェーンの技術開発を推し進めてきました。2021年には、IBMをクラウド・コンピューティング分野のリーダーに導いたとして、CRNの「最も影響力のあるエグゼクティブ100人」に選ばれています。クリシュナ氏は、インドのウェスト・ゴドヴァリで生まれ、カーンプールのインド工科大学で電気工学の学士号を取得後、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で電気工学の博士号を取得しました。

(出典:Wikipedia)

[参考パフォーマンス]
CEO就任時2020年度の売上: 577.1億ドル
 → 2023年度の売上:620.7億ドル

(5)Chanel

リーナ・ネイル シャネルCEO
 リーナ・ネール氏は、1969年6月にマハラシュトラ州コラープルで生まれ、マハラシュトラ州サングリにあるウォルチャンド工科大学で電子通信工学の学士号を取得。1992年には管理職研修生としてユニリーバのグループ会社であるヒンドスタン・ユニリーバに入社。その後のキャリアで2016年にロンドン本社でCHRO(最高人事責任者)に就任し、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をけん引。2022年1月16日に、シャネルのCEOに招かれて就任しました。彼女はまたブリティッシュテレコムの社外取締役でもあります。

(出典:LinkedIn)

(6)Starbucks

ラックスマン・ナラシマン スターバックス CEO
 ラックスマン・ナラシマン氏は、シアトルの1コーヒーショップに過ぎなかったスターバックスを世界的な規模に成長させたハワード・シュルツ氏の後継として、2023年3月にスターバックスのCEOに就任しました。実際には、2022年10月に暫定CEOとして就任し、その後、2023年4月に正式にCEOに就任しています。ナラシマン氏は以前、ペプシコのラテンアメリカ事業のCEOなどを務めるなどの経験を持っていました。彼は1967年にインドのプネーで生まれ、国立ローケラ工科大学で機械工学の学士号を取得後、ペンシルベニア大学ウォートンスクールでMBAを取得しました。

(出典:Starbucks Japan)

[参考パフォーマンス]
CEO就任時2022年度の売上: 322.5億ドル
 → 2023年度の売上:359.76億ドル

(7)Palo Alto Networks

ニケシュ・アローラ パロアルトネットワークス 会長兼CEO
 ニケシュ・アローラ氏は、2018年にパロアルトネットワークスの会長兼CEOに就任しました。パロアルトネットワークスでは、株価は2倍以上に上昇させる他、負債を抑えて収益性を高め、買収戦略によってサイバーセキュリティ分野での競争力の維持に成功しています。アローラ氏は1968年にインドのウッタル・プラデーシュ州ガジアバードで生まれ、インド工科大学バラナシ校を卒業後、米国に留学。1992年に金融サービス企業のフィデリティ社でキャリアをスタートし、その後グーグルの上級幹部を経て、2014年には、孫正義氏に代わってソフトバンクグループのCEOを務め、世界で最も高給取りの経営幹部の一人として、日本でも有名です。

(出典:Wikipedia)

 [参考パフォーマンス]
CEO就任時2018年度の売上: 22.7億ドル
 → 2023年度の売上:68.9億ドル(3倍)

(8)Arist Networks

ジェイシュリー・ウラル アリスタ・ネットワークスCEO
 ジェイシュリー・ウラル氏は、1967年3月にロンドンで生まれてインドで育ちました。1981年にサンフランシスコ州立大学で電気工学の理学士号を取得し、その後、AMD、フェアチャイルド・セミコンダクター、クレッシェンド・コミュニケーションなどの企業に勤務。直前に15年間勤めていたシスコシステムズでは経営幹部まで上り詰め、2008年10月にアリスタ・ネットワークスの社長兼CEOに就任しました。その他、ZscalerやSnowflakeの社外取締役などを務めています。

(出典:Wikipedia)

[参考パフォーマンス]
2013年度上場時の売上:0.36億ドル
 → 2023年度の売上:58.6億ドル


3. インド出身者のCEOが多い理由

 もちろん、全てが集約されている訳ではないですが、インド人材に特有な素養やその背景にあるとして一般認識されているものについて、以下に紹介したいと思います。

(1)人口動態や社会構造

 インドの人口は2023年に、14億2860万人を超えて、中国の14億2570万人を上回り、世界第一位になりました。この巨大な人口を支えるインドは、その内部に複雑な社会構造が存在し、不十分なインフラや複雑な官僚制度など、多くの社会的課題や経済的課題に直面しています。
 そのような環境で生活するインドの人々は、これらの逆境に忍耐強く立ち向かい、創造的な解決策を模索し、手元の資源を有効活用して問題を回避するスキルを身に付けるよう強いられています。特に都市部では人口密度が非常に高く、交通渋滞、住居不足、公衆衛生の課題など、多くの社会インフラの問題に自ら対処する必要があります。しかし一方で、これらの厳しい条件は、人々の強靭な問題解決能力と創造性を育む土壌となっており、インド出身者はこうした環境で培われたスキルを世界の舞台で生すことのできる潜在能力を持つとされています。
 また、インドの教育システムには大きな不均衡が存在し、教育が普及して高い識字率を誇る一方で、質の高い教育については、都市部や特定階層に限られてしまっています。この格差を克服して、個人が競争を生き抜くためには、優れた成績を収める必要があり、この過程で鍛えられる卓越した競争能力は、グローバルなビジネス現場で求められる資質に直結します。
 急速に成長するインド経済は新たなキャリア機会を生み出す一方で、経済の変動や不確実性も日常化しています。このような環境では、人々は変化への順応を求められ、さらに未来を予測する能力を身に付ける必要があります。そして、これがグローバル市場でのビジネス成功につながる貴重な資質となります。つまり、困難な環境で磨かれる問題解決能力や適応力、競争心は、グローバル企業の最前線で活躍するための重要な素養となっています。

(2)教育制度や教育文化

 インドの教育システムは、広範なカリキュラムと強力なアカデミックな基盤で知られていますが、特にSTEM(科学、技術、工学、数学)教育に重点を置くこのシステムは、世界中で活躍する技術者や科学者を数多く輩出し、インドのテクノロジー経済の形成に大きく寄与しています。子供たちに対して多くの親たちがSTEM分野の学習を奨励し、学生たちは若いころから厳しい学業競争に曝され、高い目標とモチベーションを持って自己研鑽に励んでいます。
 また、インドの教育機関の中でも特に評価の高いインド工科大学(IIT:Indian Institute of Technology)は、中央政府が運営するテクノロジーを専門とする教育機関で、非常に厳しい入学試験と高水準の教育で良く知られています。IITの卒業者は高度な技術スキルと問題解決能力を備えた人材として、人材グローバルマーケットにおいても評価が高く、引く手あまたの存在です。IIT出身者には、Googleのスンダー・ピチャイ、IBMのアルビンド・クリシュナ、FedExのラジ・スブラマニアム、アルバートソンのヴィヴェック・サンカランなど、グローバル企業で活躍するCEOを数多く輩出しています。 
 さらに、インドの私立学校も国際的な教育プログラムを取り入れ、生徒たちに国際的な視野と英語能力の向上を促し、グローバル人材の育成に大きく貢献しています。インド国内の多くの大学と技術機関では、学際的なアプローチと実践学習に重点を置いており、単に理論だけを学ぶだけでなく、現実世界の問題に実際に取り組む機会を多く提供しており、これら実践的な経験は、将来のビジネスにおける問題解決力を養うことに寄与しています。

インド全国にあるインド工科大学の各校のエンブレム

(3)移民法による機会

 インド人が米国で活躍する機会を得たのは、1965年に米国で制定された改正移民法に遡ります。この法律は、インドを含む多くの国々からの才能ある移民に米国の門戸を開き、特に技術、工学、医療などの分野で教育を受けた専門家に優先的にビザを発行する方針を採りました。この政策のおかげで、多数のインド人移民がテクノロジー産業で働き、技術スキルとキャリアを築けるようになりました。世界クラスの企業で働く機会を得たインドの技術者は、特にシリコンバレーやその他のテクノロジーハブで重要な技術者としての地位を確立し、後のリーダーシップ形成のための基盤を徐々に整えていきました。そして移民の家系が代を重ねて行く中で、地元に根付いたインド人コミュニティが、米国でキャリアを積んでいるインド人をサポートし、次世代リーダーを育成する基盤として機能しています。
 そして今では、移民世代と米国生まれのインド系アメリカ人が混在して大きなコミュニティを形成しています。また現地の高等教育を受けることがインド出身者にとって重要なステップとなっており、米国だけでなくイギリスやカナダの大学にも多くのインド学生が通って、異文化間コミュニケーション能力を高めながら、国際的な視野を持った人材が日々育成されています。 
 尚、米国にはインド国籍を持つ移民とインドにルーツを持つ米国人他を含め、インド系住民の数は、約440万人に及び、米国はインド系人材の最大の移住先になっています。尚、米国の人口全体でわずか1%のインド系の人々は、シリコンバレーの平均で、労働人口の約8%を占めるとされています。

(4)多元的文化への適応力

 インドに根付いている多元的な文化は、異なる価値観やビジネス環境への適応力を育む基盤となっています。特に、英語の堪能さや多文化環境での経験は、彼らの適応能力を高め、世界各地で遭遇する経済的、政治的、社会的なさまざまな状況に対しても柔軟に対応し、効果的に行動のできるリーダーシップ力を要請することにつながっています。
 そもそもインドは、世界でも有数の多様な文化を持つ国であり、その文化的背景は、多言語、多元主義、多宗教、多民族が共存する複雑な環境によって形成されており、健全な議論や反対意見が活発な民主主義制度のもとで、異なる文化的背景を持つ人々が互いに効果的にコミュニケーションを取って協力し合う能力を自然と身につけることができます。この適応力は、グローバルなビジネスにおいても非常に価値ある資質となって、異なる意見や混沌を受け入れながら、異文化間の障壁を乗り越える際に役立っています。
 次に英語です。インドは英連邦の一員であり、教育システム全体で英語が広く利用されています。多くのインド人が英語を話せることは、国際的なビジネスや交流において、非英語圏よりも明らかなアドバンテージであり、これがインド出身のビジネスリーダーがグローバルで活躍できる大きな要因の一つとなっています。
 また倫理的価値観についても触れます。インド文化は、家族やコミュニティに対する強い倫理的責任感を重視するとされています。この価値観はビジネスにも反映され、持続可能な経営や倫理的な意思決定を重視する姿勢につながっていきます。結果、インド出身のCEOは、現代のビジネスで重要視されるCSR活動(企業の社会的責任活動)に積極的であるとされています。

(5)労働倫理

 インドには、特徴的な労働倫理感があります。それは強い責任感、努力の持続、高い成果志向にあると言われています。この価値観は、家庭や教育の場で培われ、個人のキャリアにおける野心と直結してグローバル企業の経営に求められる資質として重要視されています。
 インドの多くの人々にとって、仕事と私生活の境界は非常に曖昧であり、彼らは学校でも職場でも、週末労働も長時間労働もいとわない傾向があります。このような文化の中で、インドでプロフェッショナルとして成功するには、長時間労働が一般的であり、ただ長時間働くだけでなく、目標に向かって効果的に取り組む姿勢が必要とされています。そして、この長時間の労働慣行は、激しい競争環境で生き残るための基本行動となって、並外れたレベルでのチームへの献身として現れます。このようにインドならではの労働倫理感がグローバル企業のCEOの素養と相性がよく、彼らが選ばれる要因の一つとなっています。
 また、インドの労働文化は、具体的な成果を重視することで知られています。この成果志向は、ビジネスの世界では特に重要な要素であり、定めた目標に向かって効率的アプローチしながら達成するための能力が求められます。インド出身のCEOたちには、革新的な製品開発や市場戦略など、困難な目標の達成に向けて、チームを鼓舞するリーダーシップの能力があるとされています。それは、多様な文化的背景を持つチームメンバーに敬意を持って接しながら、各人の強みを活かし全体のチーム効率を高めるために必要な努力と支援を公正に行うことを大事にしているということです。

(6)グローバル&革新思考

 世界的な技術ハブとしての地位を築いているインド国内は、デジタル化が急速に進み、国民全体の技術的リテラシーが向上しています。特に情報技術への関心の高い多くの若者が、インドのスタートアップ文化に触れることで、イノベーションと起業化精神を育み、国際舞台で活躍するためのモチベーションやスキルを養っています。
 そして、常に市場の最前線に立って変化する顧客のニーズや新たなビジネス機会を見出す能力に長けたインド出身のビジネスリーダーは、自身の人的ネットワークを使って、新たなテクノロジーやビジネスアイデアを世界のパートナーや投資家につなぎ、国際舞台で活躍するインド人材を輩出する支援も行っています。


以上です。


御礼
 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 


だうじょん


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