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詩 「恋文」

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風にすぐ散ってしまう花びらを見て
桜は"不実の花"と言われる

真実は__
一年のうちで滅多に来ないあなたのために
指折りを数えて待っている

きれいな花を健気に咲かせて__

それは初恋の人に似ている

君との便りを重ねる日々
恋文を書くたびに
逢えない切なさを募らせて
一文字ごとに心を込めていた

やがて再会の時は訪れる
久しぶりに逢う君は
以前より大人びていた

蹴上けあげインクラインの夜桜の下
ふたりは佇む__

君は桜の美しさに見惚れて
いたずらに桜の枝を折って
僕に手渡した

その長く美しい髪に
花かんざしのように
桜の枝を飾ってみる

君は花かんざしを見せるようにして
茶目っ気たっぷりの笑顔で
「似合う?」と訊ねる

花ぬすびとは罪にならない__
何とも可憐な横顔が満足気に見えた

見上げれば風に舞う花びらが
ふたりのためだけに
降り注いでいるように思えた

それはスローモーションのように
僕の目に映っている世界が
次第に桜色で染まっていく

一瞬 風が強まる
桜吹雪が舞い上がる
目の前の視界は遮られて
君の姿を見失なってしまう

ピンク色に染まる世界の中を
ただひたすらに君の姿を探し求め
その向こう側へと彷徨おうとも
もう君の姿を見ることはなかった

あれからどれくらいの
時間が経ったのだろう

初恋とは__
風に舞う桜の花びらのように
はかなく不実なのかも知れない


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