息子と自画像
今、大学生の息子が、小学5年生ごろの話。
「今日、図工の時間に自画像、描いた。楽しかった~」と満面の笑みで私に話したことがあった。
おお、それは良かったと思い、「じゃ今度、参観日に学校行ったとき、自画像見るわ」と返事しておいた。
そして、参観日当日。私は、教室の後ろからそっと入り、壁に貼られたクラスの作品を見た。
「クラリネットを吹く私」「コーヒーを飲んで一息」など、さすが5年生ともなれば、皆とても自然な表情で、自分というものを描いている。色彩も構図も本当に素晴らしい!
で、息子の作品は?
私は、目を泳がせて探した。・・・あった!
「ドラゴンと僕」
え?ドラゴン?これは自画像では?
よくよく見ると、画用紙いっぱいにドラゴンが描かれ、その背中に本人が乗っている。顔も体も小さく、とてもじゃないがわからない。
自画像描かずに、ドラゴンを描いた息子。私は驚きのあまり、声が出なかった。
釈然としない中、教室を出たところで、クラスメイトのお母さんに会った。
「○○君(息子の名前)の自画像すごいね~!ドラゴンなんて誰も考えつかないし。マリオ描いた△△君(息子の友達)もすごいけど、2人は考える世界が全く違うんだね~」
と、明るい声でにこやかトーク。(もちろん、このお母さんは率直な感想を述べてくれたんだと思う)私は、「そうね・・・」と言ったものの、少し胸中複雑。クラスで異彩を放っていた作品は、息子の「ドラゴン」と、マリオだけを描ききった△△君の作品だけだった。
その日の夜。息子に理由を聞いてみた。本人はあっさりと「う~ん、ドラゴン描きたかったから。初めはどうやって描いたらいいか、わからなかった。そしたら、ほら見てよ。先生が描き方教えてくれて、それをヒントに描いた。」
画用紙には、先生のラフスケッチが残されていた。息子は、先生のおかげでドラゴンが思う存分描けて、本当に嬉しかったようだ。
後日、学校で。
偶然に、図工のN先生にお会いした。息子の小学校は地域の公立小でありながら、音楽と図工は専科といって、専門の先生が教える。
N先生は、50代後半ぐらいの温厚で紳士的な方だ。思い切って自画像のことを尋ねてみた。
N先生「いやあ、○○君の作品は、個性的で伸び伸びしてますよ。ちょっと描き方のヒントを言ったんだけど、うまく自分のドラゴンが描けたようで納得してました。」
私「でも先生。自画像なのに、ドラゴンを描いていいんでしょうか。自分の顔があんなに小さくても。」
N先生「自分の描きたいものを素直に描けるのは、素晴らしいことですよ。以前の勤務校で、自画像に、トラックの運転手のお父さんが運んでいる荷物の絵を、画用紙いっぱいに描いた子もいましたよ。この子は本当に、お父さんが運ぶ荷物を描きたかったんでしょうね」
それを聞き私は、ちょっと胸が熱くなった。
私「先生、温かいご指導、本当にありがとうございました。伸び伸びしているところが、あの子の長所かもしれません。」
もしN先生が、自分を描かないで自画像と言えるのか。ドラゴンは空想の世界のもの。まずは鏡で自分を見て、そのまま自分を描くのが目的だ・・・と言われたら、どうだっただろう。
息子は落ち込み、イライラし、もう二度と絵なんか描かない。自由に想像することもやりたくない・・・と思っただろうな。きっと。
N先生は、ちょっとぶっ飛んでいるところもある息子のいい面を見つけ、尊重し、育ててくださった。その一方で、絶対に周りに合わせないといけないと、表面的なことでしか考えていなかった私は、大いに反省した。息子の描いてみたい、挑戦したい気持ちに、全く気づいてやれなかったからだ。
N先生の温かいご指導には、今も本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。人間が育つプロセスには、目先のことだけでなく、多くの視点で伸びやかに見る必要があるということ、それには少し忍耐が必要だということを学ばせていただいた。
息子には、「僕を信じて、しっかり僕を見てね」ということを教えられた。
子育ては、まさに自分育て。
ちょっと部屋が散らかってたりするけれど、息子はN先生に教わったことを胸に、伸び伸び大らかに成長した。
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