連載|第四章 「精神的な余裕」をつくる
24 いつも時間的な余裕がない?
最近、とある安倍総理のビデオが多くのwechat groupに流されています。その福利厚生に対して多くの方がきっと羨ましく感じているでしょう?超多忙な日本国の総理大臣は、どのように時間を過ごしているのを興味はないでしょうか?
2013年4月18日、安倍晋三総理が日本テレビの情報番組「スッキリ!」に生出演した際に、視聴者からの質問に答えていました。平均睡眠時間は6時間。0時に寝て6時に起きるそうです。
夜、時間がある時は海外のテレビドラマを1時間観ると答えていました。「メンタリスト」や「24」を観て、非日常性の中でストレスを解消しているそうです。
確かに、政治の世界で様々な問題や課題を抱えて、巨大なプレッシャーの中で生きている安倍総理にとって、一時的に頭を空にできる良い習慣なのでしょう。
そして、その後、警察小説などの小説を読むのが趣味だそうです。安倍総理が『海賊と呼ばれた男』(百田尚樹・著 講談社)を発売から間もない頃に絶賛されていたのを憶えていますが、あの多忙な毎日の中で、小説を読む余裕をつくっているのです。
そして、そのゆとりは自動的に生まれているわけではなく、意図してつくっている のでしょう。そうしなければ、政治・経済において国家の運命を決する判断が鈍ってしまうからではないでしょうか。
ゆとり時間が効率を上げる
安倍総理の責任の重さや業務量を考えれば、私たちが余裕を持てないと主張するのは少し気が引けます。
しかし、実際、完璧主義の人は、いつもバタバタして時間に追われています。ゆとりを持つぐらいなら、その前にちゃんとやるべきことをやってしまおうというマインドがあるからです。追い立てられているという表現が正しいかもしれません。
一方、上手に力を抜ける人は、安倍総理のようにしっかりとゆとり時間をつくります。時間的なゆとりと精神的なゆとり両方です。いろいろと見てきた優秀なビジネスパーソンも、多忙な中でゆとり時間をつくるのが上手でした。そして、それが精神的な余裕になり、冷静な状況判断につながっていました。
忙しい毎日にも、ふと安らげる時間をつくりましょう。「お笑い番組を観る」「お風呂で湯船に浸かって好きな漫画を読む」などで良いのでしょう。このゆとり時間が、きっと自分自身や状況を客観的に眺めるきっかけになるでしょう。
25 自分を許していないか?
完璧主義思考の人は、上司にミスを少し指摘されただけでも、自分が全面否定されたかのように感じて「自分はダメだ」と自分嫌悪に陥る傾向があります。
一方、上手に力を抜く人は、「まあ、ここは仕方ないか」「そういうこともあるよな」「やり方を失敗したな。次は変えよう」と自分を過度に責めません。これは決して自分を甘やかしているわけではなく、適切な範囲内で反省し改善している のです。
私は、キャリアコンサルティングを行なっていますが(まだ生半可だが)、続かない人の大半は完璧主義思考が強い人で、自己否定をしすぎる傾向にあります。
例えば、「朝早起きして1時間ジョギングする」と決めたとします。しかし、三日後、飲み会が原因で朝起きられず、四日目は雨で実行できなかったとします。こうなると、完璧主義の人は2日できなかったことへの自己嫌悪感で、「やっぱり自分は続かない性格だ」と自分を責めて、挫折してしまします。続けたくなくなるのは、できない自分と向き合い続ける毎日が苦しいからです。
一方、上手に力を抜ける人は「昨日は飲み会で帰りが遅くなったのでジョギングはできなかったけど、電車ではせめて立とう!」とか、雨が降ったら「軽く家の階段を昇り降りしたら良しとしよう」と、小さなことを続けて、自分にOKを出します。
結果、柔軟に継続できます。
不完全な自分を丸ごと受け入れよう
頑張りすぎるスタイルの人は、常に自分に厳しい言葉を浴びせ続けます。
私たちの心のつぶやき(セルフトーク)は1日3万回も生まれています。
「こんなのではダメだ」
「もっとちゃんとやれ!」
「全力は尽くしたのか?」
これは、自己否定をすることで、頑張るモチベーションを作り出している心の仕組みです。
しかし、客観的に文字にしてみると、実に厳しい言葉を投げかけています。その根源には次のような自己否定があるため、自分を責めてしまうのでしょう。
「自分は不完全だ。だからもっと頑張らなければいけない」
「人よりも努力しないと同じ結果は出せない」
しかし、完璧とは幻想に過ぎません。もともと人間は不完全なものです。その不完全さを受容した時に、等身大の自分を受け入れることができるのです。
26 すべて「自分のせい」だと落ち込んでいないか?
下記のすべてはまたもフィクションですが、よくある話です。
システムエンジニアのAさんは、とても頑張り屋です。しかし、プロジェクトのリーダーとして半年がかりでシステムの導入を終えて、いざ稼働し始めると次から次へとトラブルが起きました。
それから三ヶ月間、全責任は自分にあると思って、Aさんは徹夜を重ねながら必死に対応しました。しかし、トラブルは収束に向かわず、ついに体力と精神の限界を迎えて、精神疾患になり休職することになりました。お客様にも会社にも多大な迷惑をかけてしまったという自責の念から、精神的に潰れてしまったのです。
一方、同じ部署のBさんも同時期にシステムトラブルを抱えていました。
情報システムというのは往々にしてトラブルがつきものです。Bさんは経験からそれを想定していました。また、「起きたものは仕方がない。今に集中して全力を尽くすだけだ」とトラブルの問題を一つ一つ切り分けていき、1ヶ月後にはシステムを安定稼動させたのです。そしてBさんは疲れた表情も見せず、別の三つのプロジェクトを淡々と進めていきました。
この二人は何が違ったのでしょうか?
責任をやたら背負わず心の安定を得る
Aさんは一見、責任感が強くてよさそうに見えますが、システムのトラブルが起きるたびに全ての責任を背負い込む思考は決して好ましいとは言えないでしょう。なぜならば、精神的ダメージが大きく、よく眠れない日が続き、対応への集中力を失っていたからです。結果、二次的な失敗を犯してしまう可能性も大きでしょう。
さらに、受け持っていた他のプロジェクトのケアが疎かになり、そちらでも大きな火種を抱える事になるでしょう。
一方、Bさんは、精神的なダメージがそれほど大きくはありませんでした。なぜならば、自分の責任範囲をむやみやたらと広げすぎなかったからです。
システムトラブルが起きた原因は、構築したSEのリーダーだけにあるわけではありません。現場でプログラミング作業を行うSEのミスもあります。その上司にも責任があります。また、営業や機器メーカーにも非があるかもしれません。
リーダーはそれを想定して構築すべきですが、それでも全部自分の責任と抱え込まなくていいのでしょう。
27 義務感で自分を動かされていないか?
数年前まで私は海外旅行に行く際、必ず事前にプランを作ります。
しかし、そのプランに基づいて旅行をすると決めると、プランにあるすべての場所に行かなければ気が済まなくなります。(よくある場面でしょう。。。)
本当は楽しむため、リラックスするために海外旅行に行っているはずなのに、自分の決めたプランを減らすことができず、折角の良い景色が目の前にあっても、次の場所へ出発しなければと焦ってしまう……。
本末転倒なのですが、義務感で動いてしまうメカニズムの罠から抜け出せなくなってしまうのでしょう。
義務感で動くと、楽しいはずのものも辛い作業になり、多くのエネルギーを使います。こんな経験が皆さんにもあるのではないでしょうか?
上手に力を抜く人は、「旅行はあくまで楽しむもの、刺激を得るもの」とテーマを決めて、プランを作ります。プランそのものをゆるく作っておき、現地で良い景色の場所があれば、そこに留まり、いい雰囲気のカフェが見つかれば一時間ぐらいお茶をします。
本来の目的である「リラックスと非日常生の体験」というテーマを持って、旅行プランを柔軟に変更して楽しむのです。
義務感ではなく、ワクワク感を持つ
プロセスをきちんとこなすことに集中する完璧主義の人は、一度決めたらその内容を「すべきこと化」してしまい、柔軟に変更することが苦手です。決めたことに縛られ、義務感で自分を動かしてしまうのです。
好きな仕事や得意な仕事でも、「納期やプロセスをいつまでにクリアすべきか?」と義務化して自分を追い込みます。この場合、精神的にも余裕やゆとりはありません。このように言っている私も、好きな仕事のはずなのに、がんじがらめで追い込まれている感をふとか抱いたことが多々あります。
一方、上手に力を抜く人は、「楽しい」という気持ちを、うまくモチベーションに変えながら仕事を進めるので、ストレスが少なく集中力も高まり、生産性が向上します。
これが義務感とワクワク感の原動力の違いです。
プロセスを楽しむためには、先の不安を一度脇に置いて、目の前のことに100%集中することです。タイマーで時間制限を設けると、設定している時間よりも先のことを忘れ、今の作業により没頭できます。
28 100点か0点かで考えていないか?
ある候補者(責任者クラス)に、早起きの助言をした時のことです。
セッションで「普段は10時出社ですが、来週は五日間、朝8時に出社します」と宣言されました。
一週間後、「どうでしたか?」と聞いたところ、「いやー、全くダメでした。情けないですよ」と言われたのです。そこで、「5日とも、10時に出社したのですか?」と聞いたら、「いえ、1日だけは5時に出社しましたが、残り4日は10時に逆戻りです」と自己嫌悪感でいっぱいでした。私は、1日だけは起きられた要因を尋ねました。すると、「1時間早く寝たこと」「前日に深酒をしなかったこと」を挙げました。さらに一日早く出社して感じたメリットを聞きました。その候補者は、上司や社員の朝礼の姿を見ると、会社の全体の様子と個人の状況が一度にわかるのでよかったと答えていました。
「それでは、来週は2日だけ8時出社にしたらどうですか?」と提案しました。
「えっ、2日でいいんですか?」
と気分良くセッションを終えて帰られました。(実は二人で酒を飲みに行ったのですが。。。)
候補者は翌週、2日どころか5日間すべて8時に出社しました。
自分を「白黒の思考習慣」から解放しよう
この場合の問題は、「5日間すべて8時に出社できるか」「できないか」の2つにひとつで考えてしまい、1日できたという前向きな変化があったにも関わらず、「0点」と自分を責めていたことです。
完璧主義思考の中でも、特に「二者択一の判断」の傾向が強い人は、100点か、0点かで考えます。認知心理学の世界では、これを白黒思考といいます。
白黒思考の特徴は、白でなければ、黒だと判断する極端さです。
完璧でなければ意味がないと考えるのです。それがモチベーションにもなりますが、自分を追い込んでしまう思考であることも事実です。
いざ、大量の仕事が押し寄せてきた時や、新しい仕事を手探りで進める時には、白黒思考は精神的に大きな負担になります。
また、白黒思考のデメリットは、小さな成果や成長した自分を認めないために、最終的に自己嫌悪になったり、チャレンジ精神を失うことです。
長く仕事をする上では、小さな成長を見つけること、自分を許し認めることが重要なのでしょうね。
29 念のためにとモノを溜め込んでいないか?
下記の一部はまたもフィクションですが、よくある話です。(しかし、"私"の部分は本当に"私"自身でございます・・・)
デスクの上にはどんどん書類が溜まっていく。引き出しも、もういっぱいで置くところがない。雑然とした仕事環境では、モノを探すのに一苦労。探す時間だけで、1日どれくらいの時間を消費しているのだろうーーーこれが5年前の私でした。
「念のため、取っておこう」
「捨てた後で後悔したくないから」
こんな心の声に負けて、どんどんモノが溜まっていきました。
一方、上司のデスクはいつもモノがなく、すっきりとしていました。片付けの心得を聞いてみると、
「必要になったら、お前たちに聞けばいい」
「情報は頭の中に入れておいて忘れたらまた手帳から引けばいい」
「必要なモノはすぐにファイルしているよ」
要はその場で、取捨選択が的確にできていたのです。
手放すことが最善主義のトレーニングになる
取捨選択とは、辞書で意味を引くと、「悪いモノ、不必要なモノを捨てて、良いモノ、必要なモノを選び取ること」とあります。仕事ができる人は、取捨選択の達人です。
まず、捨てるためには、必要なモノを選び取る判断力が重要です。そして、捨てる勇気と習慣もなければ、モノや仕事の枝葉末節を全て抱え込み、精神的、空間的余裕がどんどんなくなっていきます。
完璧主義の人は、念のためにと全てを取り込もうとするあまり、選択の基準が明確ではありません。
そこで、仕事の取捨選択と通じるところがある、モノを捨てる行動を通じて、心身ともに整理された状態を保ちましょう。
まずは、デスク周りをすっきりさせて、空間的余裕を作ってみてください。
捨てる強制力を持たせるために、週に1回、捨てる日を作るといいでしょう。「これは念のため・・・」と思ったら、「念のためとは何が起きることをそう手しているのか?」「それはどれくらいの頻度で起きるのか?」「捨てて問題になるとしたらどんなことか?」と自分に問いかけます。そして、どんどん手放していくのです。
取捨選択思考は、思考習慣です。旅行に行く際などに鞄を一回り小さく制限することでも、力を抜くためのトレーニングになります。
特集 – 円グラフ法を使って責任を分散させる
当章の26節にて取り上げた頑張り屋でシステムエンジニアのA、Bさんの話があり、今回の特集もそれについて、さらに心理学の認知療法を軽く加え、少々掘っていきましょう。
心理学の認知療法の世界に、円グラフ法というものがあります。
円グラフ法とは、責任や不安の要因を全て洗い出し、円グラフにその割合を記入していく方法です。
例えば、当章の26節に登場する、「全て自分の責任だと考えるAさん」と、「自分の責任は限定的だと考えるBさん」の責任のマインドジェアは、下の図のようになります。(数値はあくまでもご参考まで)
もし失敗して精神的なダメージを受けていると感じた場合は、円グラフ法を用いて、客観的に責任(ストレス)を分散させると良いでしょう。
順番は、まず自分以外の人の責任から埋めていき、最後に自分の責任を埋め、さらに、自分の責任を少し細分化して書いてみましょう。
いかがですか?自己分析にも使えます。良いでしょう。
つづき
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