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引きこもりアーティストが見つけた、世界との「接点」 画家・樫村鋭一インタビュー vol.2

東京・下北沢のPREFABはユニークなギャラリーだ。作品のほかにインテリアや書籍、ギターなどがカラフルにディスプレイされており、オープンするのは金土日だけ。そこで今、樫村鋭一(かしむらえいいち)の個展『SOBYO+』が開催中されている。ポートレイトや素描、風景画などが壁にずらりと並んだ様は、さながら贅沢なカオスといった印象だ。

その幅広い作風を自在に操る画家は、風来坊のように自由でありながらも、実に冷静に世界と自分自身を見つめていた。
〈vol.1はこちら〉

>絵の中に1枚、黒猫のモノクロ写真(写真・左下)が混ざっていますね。

これ、俺が写真に狂っている頃にパリで撮った。15年くらい、写真にハマってたの。最初は立体(作品)の記録を撮ろうと思ってカメラを買って。記録だけの写真じゃつまらないから、スナップとかも撮るようになった。

最初ヨーロッパを回ってて、そのまま日本に帰るつもりだったんだけど、パリを歩いていた時にちょうど短期貸しのアパートがあったから、1年半くらいそこに居ついた。それでお墓を撮りだめようと思って、ペール・ラシェーズとかモンマルトル墓地とかに通って。晴れた日は、十字架とかその上の苔とか、そういうのを撮ってたの。もっといいところに行けばいいのにさ(笑)モンマルトルの墓地にその猫はいて、たぶん餌を待っていると思うんだよね。

写真をやめて絵を描くようになってから思うのは、公園でスケッチする時にも、木をどういうふうに描くかとか、いろんな切り取り方があるじゃない? それが写真をやっていた時の切り取り方そのものなの。それは友達に最初言われた。「お前のその構図が、写真をやっていた頃の構図に本当に似てる」って。

>ご自身が思う「樫村さんらしさ」ってどういうところですか?

やっぱり正直に描くっていうことかな。一番正直に自分が出るのは、日常のスケッチかもしれない。公園に行って水面を描くとか、子供を描くとか。その辺はやっぱり何の先入観もないで無心で描いているから。

自分の好みとかタッチとか、感情とかは、いろいろある。もし僕みたいなタイプの絵描きが1つのスタイルだけを発表していたら、好きな人は「好きだ」と言ってくれるけど、接点は少なくなる。一人と、その周りっていうのは、必ず接点があるから。絵以外でも、気持ちとか、考え方とかもそうだし。その接点があれば、そこから何か生まれるからさ。

>人とコミュニケーションをとりたいという姿勢が、根本にあるんですね。

パリから帰ってきて「接点がない」と自分で思っていた時期がずっとあって。引きこもっていた時期も長かった。アーティストは自分のラインをみんな決めるじゃない? 当然、嫌な世界は拒否するし。僕もそうだった。若い頃は、目の前の人間が気に入らなければ、友達にもならなかったし、どこかパーティで会っても口もきかなかった。自分が最高だってみんな思っているんです、アーティストって。そうしないと(表現)できないから。自分が選ぶ基準がすべて。

だけど逆の見方で言ったら、自分が拒否している世界も多いわけでしょ? 「嫌いな世界は受け入れない。好きな世界で固める」っていうことだからね。それはいいようにも作用するし、悪いようにも作用する。

やっぱり巡り合わせってものはあるじゃない? 自分が生きている「輪」っていうものがあって、それがこう廻っているわけだよね。君のも廻っている。そこで接点がある時期っていうのは必ずあって。そうすると「何か会うことに意味があるんじゃないか?」って思い始めてくるんだよ、40〜50歳になってくると。

そうすると「こいつ何やっているんだろう?」みたいな感じになって、2回、3回と会ってくると、「ああ、意外にこういうところは面白いな」とか、受け入れる部分が出てくる。そうすると自分の幅を広げてくれるわけね。意外性っていうかさ。それが自分の絵にも、写真にも、反映してくるから。今は自分の気持ちをオープンにすることによって、何か描くことにプラスがある。

でもヘンリー・ダーガーとか、(部屋に)籠って誰にも会わないまま死んじゃった人の作品が、逆に面白いこともある。だからそれはもうなんとも言えないよ(笑)


樫村鋭一 SOBYO+
Prefab gallery&things(プレファブギャラリーアンドシングス)
6月16日(日)まで 金土日のみ13:00〜19:00

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