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本を咀嚼する秋【カンヴァスの柩】


思えば、ここ数年、小説から離れていた。

資格取得のためのテキストや参考文献、問題集。
それから占星術・星読みについて書かれた記事、書籍。
資料的な文章を読むのでわたしの活字処理能力はいっぱいで、
読書で物語を楽しむ、ということが置き去りになっていた。


noteを前よりも頻繁に書くようになって、自分の語彙力・表現力はこんなに乏しかったのか!と、けっこうショックを受けている。


* * * 

言い訳したい訳じゃないけど、牡羊座に「進行の太陽」が入ってから、言葉が全然出てこなくなった。

あの言葉、なんだっけ?とか
ほら!あの言葉!
音はこの言葉に似てるけど、でも違う、もっとこんな意味合いの…!!
なんてやりとりを、しょっちゅうひとり脳内で繰り広げている。

ぜったいに、魚座に進行の太陽が居たときの方が語彙力も表現力もあったはずなんだけど、その頃に公に出していた文章はないから証明しようがないし、結局、言い訳なのかもしれない。

* * * 


だから、もう少し自分のイメージの縁取りを助けてくれる言葉を身につけたい、と思っていた。それにも小説はうってつけだ。


必要に駆られて言葉や情報を「詰め込む」ことも、ときに大切だけれども、
 
いまは、ゆっくりと、自分の速度で、言葉の断片を「咀嚼」したい。

自分好みの文章を心ゆくまで堪能したい。
 
その作家のことばが、自分の隅々まで染み渡っていくのを感じたい。


そんなときに仲間から薦められたのが、山田詠美の作品だった。
(仲間といっても、歳上の素敵なお姉さんで、カッコいい先輩!って感じに近いのだけど)

これは、バリ島での男と女の話だそうだ。


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山田詠美『カンヴァスの柩』

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蟻は砂糖を愛している。なぜなら甘いから。この島には人よりも沢山の蟻が棲んでいる。それなのに彼女はまだ一度も蟻たちの死骸を見たことがないのだ。お茶に砂糖を入れると、表面には何匹もの蟻たちが浮かび上がって、楽しげにじたばたする。もがいているのだとは考えたこともない。だって愛しているものの中に浸りきっているのだから。

-「カンヴァスの棺」冒頭 -

表題作ほか、
「オニオンブレス」
「BAD MAMA JAMA」を収録。

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彼女の作品に出てくる男女の体のあちこちは、
稲穂、やどかり、ココナツ、星、、、
いろんなものに取って代わる。
(昔、ほかの作品を読んだときには「パスタ」と表現されていて驚いたこともある。) 


彼女の手に掛かれば、それはいとも容易くあらゆるものへと変容しているようにみえる。 


そんな風に言葉を紡ぎたいと思うけれど、 
わたしの未熟な手元では、それは何にもならず砂になって、するりと抜け落ちていってしまうばかりだ。

指の頭のひとつひとつにも脳ミソと心臓が詰まっていたらいいのに。

普段、思考も感情も失くしてしまった方が楽だよなと思うことすらあるわたしがそんなことを望んでしまうくらいに、彼女の感性は自由で奔放だ。 


この作品の感想は、書きたくても書けない自分がいる。


ただ、二人の愛を交わし合う日々が、海に滲んでいく夕陽のように、じりじりと熱く揺らめいて、心の奥底に灼き付けられた気がしていて、
その余韻にいまはしばらく浸っていたい、そう願ったわたしがいた。


それは、
いずれは消え果ててしまう命だとしても 
この瞳に映るすべて隅々まで
精一杯、愛し愛され尽くしたい

そんな願いなのかもしれない。






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