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周回遅れの競作短篇集

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ウサギノヴィッチとPさんによる競作短編集
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記事一覧

ある絵画(Pさん)

 ある絵画に、誰かが扉の前に佇んで、その扉が開くのを待ち望んでいるかのようなものがある。…

うさP
3年前
5

ジョンくんと遊ぼう(ウサギノヴィッチ)

──ジョンくん。ここは日本なの。しかも新宿。君みたいな外国人がさ、うちらのシマで暴れられ…

うさP
3年前
5

自称公園の守り神(ウサギノヴィッチ)

 地上に首を出していることがこんなに苦痛だとは思わなかった。いつからだろうか。こんなこと…

うさP
3年前

砂漠(Pさん)

 催眠に掛かったように、睨まれたトカゲは動くことがなかった。骨格が、遠くから見ても既に保…

うさP
4年前
2

今回の総括(ウサギノヴィッチ)

 いつもなら、帰りのサラリーマンで賑わう新橋のSL広場もあれ以降みんなマスクをつけて黙々…

うさP
4年前
4

ラットルズ(Pさん)

 叔父の家で、ゆっくりと、何回転かわからないが、レコードが回っていた。それは、確実に聞き…

うさP
4年前
1

父よ、本当のことを言ってくれ(ウサギノヴィッチ)

──神の前で正直に話しなさい  と、父は言った。  ぼくは、嘘の罪を言った。毎日、父に懺悔させされるぼくは、最初は小さいことでも良いから報告をしていたが、だんだんとそれもなくなり、嘘を懺悔するようになった。  父は敬虔なクリスチャンではなかった。ただ、単純にぼくから懺悔を引き出せさせたかった。その罪を断罪するので花なくて、ただ、話として聞きたかったのである。この懺悔が父との唯一のコミュニケーションだった。いや。会話はしていない。儀式めいたものであって、ぼくが一方的に喋るだけだ

最後に思い出される景色(ウサギノヴィッチ)

──今日はお前のためにホームランを打ってやる。  美雪に言った。美雪は、セクシータレント…

うさP
4年前
2

パラパラレルレル(ウサギノヴィッチ)

 この年になると、勝手気ままに生きるしかないと悟ってしまう。  自分より年下の後輩社員は…

うさP
4年前
4

深海魚(Pさん)

 割れかけたぶ厚い水槽の中に、深海魚が悠然と泳いでいるさまを、思い浮かべた。見た目にヒビ…

うさP
4年前
2

無免許医(Pさん)

 灯火管制みたいなカサを電灯に掛け、スポットライトじみた演出で照らされた患部を矯めつ眇め…

うさP
4年前
4

なんとかの宅急便(ウサギノヴィッチ)

 ほうきに乗りながら、空を飛び、修行をする街を探していた。魔女は十三歳になった春の満月の…

うさP
4年前
5

吉田茂邸(Pさん)

 ドライバーは、海岸にそって複雑に湾曲する道路を、少し飛ばし気味に走らせていた。たまにタ…

うさP
4年前
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HAPPY  BIRTHDAY(ウサギノヴィッチ)

 悲しみの先には、喜びがあり、喜びの先に、憎しみがあり、憎しみの先に快楽がある。  三十八になってもこの言葉の意味がわからない。今日はケーキを自分で買いに行き、一人で蝋燭に火をつけて、吹き消して、一人で人数分に取り分けて、食べた。  悲しい気持ちが欠落しているのか、なんとも思わなかった。でも、蝋燭を吹き消したと同時に、クラッカーを鳴らした瞬間、祝われているような気がした。今まで、ここまで派手に祝われてきたことはなかった。本当は、プレゼントがもらえたら嬉しいのだけれども、それは