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なんとかの宅急便(ウサギノヴィッチ)

 ほうきに乗りながら、空を飛び、修行をする街を探していた。魔女は十三歳になった春の満月の夜に旅立たなければいけないというルールがある。できるだけ荷物は減らしたかったので、ポシェットよりひとまわり大きいバックに荷造りしたものを入れて、父と母と近所に暮らす人たちに別れを告げて、旅に出た。
──春と言っても寒いね。ユーミンが歌っている歌が温かく聞こえるね。
──なに言っているの。今流しているのは、水溜りボンドのオールナイトニッポンZEROよ。
──勘違いだったかな。
──寝ぼけているのよ。
──じゃあ、もう少し寝るわ。
 そう言って、黒猫はバックの中に頭を引っ込めた。
 彼女はほうきに乗っている間中、実は傷心に浸っていた。もっと、やるべきことがあったのではないだろうか。それは、恋ではなかったではないだろうか。同じ中学の先輩のことが好きだった。でも、自分が魔女で、中学に上がった早々にいなくなるのに、告白なってできない。ならいっそ、身体だけでも思い出として自分の傷ではないが、刻んで置きたかった。でも、そんなに安い女でいいだろうかと、もしかしたら、魔法が使えなくなるかもしれないことを恐れてしまった。いくじなしかもしれないけど、自分の一生に関わることだから、自分には、どうしても譲れないことでもあった。そう、自分が大人になったとき、もしかしたら、一緒に連れている黒猫と会話できなくなってしまうかもしれない。そうしたら、孤独になってしまう。
 一休みをしようと思って、下を見ると線路がありちょうど貨物列車が走っていた。それと並行して飛び、いい感じの牛舎のコンテナを見つけた。それは、藁をたくさん乗せていたので、その上で眠れば、移動距離も稼げると思った。
 彼女は眠った。暗い中だった。牛がいることは、臭いが平面の表現方法だと伝わらない。そして、彼女の足が藁支えているネットから出た。牛はなんの疑問も持たずに彼女の足を舐める。牛の舌は雑菌だらけだが、これはフィクションなのでそんな細かいことはどうでもいい。彼女は飛び起きて一番上まで這い上がる。バックは依然として一番上にあって大丈夫だった。
──どうしたの?
 黒猫は彼女に起きた状況を知らないように言った。
──牛、牛がしたにいる。
──そうだよ。ここは牛舎のコンテナだからね。
──知っていたの?
──知ってたもなにも、臭いがするじゃないか。
──うーん。
 彼女は納得がいかない様子だった。
──いいや、もう出よう。こんなところ。
──オッケー。
 彼女は天井の小窓を開けて飛びったった。
 最初は列車の風圧に負けそうだったが、どんどん離れていくと自分のペースで飛んでいけるようになった。数時間も飛ばないうちに、坂道の多い、港街に着く。
 そこで彼女は空を飛びながら、自分の自己紹介をする。ただし、彼女は白い目で見られる。街の人間は魔女というものを見慣れてないからだ。そして、ほうきで空を飛ぶ彼女に興味を持つ男の子が出てくる。その子とはあんまり関係を持ちたくない。でも、最終的には良い仲になって終わる。ニシンパイを持っていくが嫌いと言われる。イップスになる。森の中で、自分と同じ声優の女の子に出会う。これは原作にはない。
 とまぁ、色々あって、彼女は徐々に街に馴染めるようになった。
 でも、結局、中学の先輩のことはずっと思っていた。

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