父よ、本当のことを言ってくれ(ウサギノヴィッチ)
──神の前で正直に話しなさい
と、父は言った。
ぼくは、嘘の罪を言った。毎日、父に懺悔させされるぼくは、最初は小さいことでも良いから報告をしていたが、だんだんとそれもなくなり、嘘を懺悔するようになった。
父は敬虔なクリスチャンではなかった。ただ、単純にぼくから懺悔を引き出せさせたかった。その罪を断罪するので花なくて、ただ、話として聞きたかったのである。この懺悔が父との唯一のコミュニケーションだった。いや。会話はしていない。儀式めいたものであって、ぼくが一方的に喋るだけだった。
今日はクラスで隣の女の子のスカートめくりをしてしまったことを懺悔した。
父はその状況をもっと詳しく話せと言った。なんで、今日はこんなに責めれるのかわからなくて、嘘の状況設定を作り、とにかく架空の物語を話した。
父がつばを飲み込み音が聞こえた。
狂ってる。
頭の中ではその四文字が浮かんだ。
話が一通り済むと、──夕食にしよう、といって食卓に移動する。
そこからはもう会話は生じない。
ぼくはもうなれてしまったが、会話が会ったほうが逆に怖い。なにを言われるかわからなくて、ビクビクしてしまうが、今までそんなことは一度もないから、安心して自分のペースで生活ができる。無機物な人間なのかもしれない。部屋にはなにもない。机に椅子、テレビソファ、それくらいである。新聞を読まない。その理由を当然聞いたことはない。とりあえず、家は白を基調としたものにされていて、さながら病院かサナトリウムのようだった。懺悔室だけ協会のものと同じような作りをしていて、懺悔する側の部屋と神父側の部屋と扉が別々になっている。もし、第三者が入ってきたらこの部屋はなんだろうと思ってしまうだろう。だから、ぼくは家に友人を入れたことはない。
──朋樹んちいっていい?
勝が急に言いだした。なんかゲームの話になって、ぼくが持っているゲームがやりたいと言い出したのだった。
ちなみに、ぼくは父親から好きにしていいお金、要はお小遣いを相当な額をもらっている。だから、自分でゲームやおもちゃを好きなように使っているし、それでも余るくらいだった。父の職業がなにかをぼくは知らない。ただ、毎日家にいて、パソコンに向かっている。時折、新聞をスクラップしたり、公園に散歩したいr、自由気ままな人間だと思っている。
──ダメだよ。うち、お父さんがいつも仕事していて、家に入れるなっていうふうに言われているから。
それなりの言い訳を作る。この言い訳も毎日の嘘懺悔のおかげで起点が利くようになった。
──なんだよ、つまらないやつだな。今度から仲間にいれてやらねぇぞ。
流石にそれはつらい。
──じゃあ、ぼくが勝のうちにゲーム機持って行くよ、それでいいだろう?
──うぅん。よし、それなら、許してやるか。
なんとかその場はごまかして、ことを穏便に済ませた。
学校が終わり、一旦家に帰る。父にはなるべくなら会いたくなかった。懺悔をさせられそうだったから。家に着き、そろりとドア開け、玄関の三和土を見ると父の靴が合ったのでため息を漏らす。なるべく音を出さないように廊下を歩いて自分の部屋へ。すると懺悔室の中から、泣く
声がする。しかも、それは男、父っぽい気がする。見えないからわからないがきっとそうだ。じゃあ、懺悔を聞いている相手はだれなんだ? と思い耳をすませて話を聴く。
──もういいです。大丈夫ですよ。あなたは立派な子どもです。しっかり、してください。お子さんが帰って来てしまいますよ。
だれだろう。わからない。でも、どこか懐かしい。ぼくの足は自分の部屋に向かうことはやめてしまって、女性がどんな人か興味を持ち始めてしまった。
ただ、二人が出てくることはなかった。どんなにぼくが待っていても。夕食の時間になっても。心配になり、懺悔室に入ると父は幸せそうな顔をして、死んでいた
尊父の部屋へ今度は行ってみるとだれもいなかった。
ぼくは、父から開放されたかわりになにかをなくした。
もうぼくは嘘をつく必要がなくなったのか。
嘘をついても問題ないのだろうか。
わからなくなった。
教えて下さい。お父さん。
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