見出し画像

パラパラレルレル(ウサギノヴィッチ)

 この年になると、勝手気ままに生きるしかないと悟ってしまう。
 自分より年下の後輩社員は、次々に結婚をして、子供を作り、休みの日には良いパパを演じて公園なんかで子供を遊ばせている。つまり、「〇〇くん(ちゃん)のパパ」になっているのである。ただ、その何パーセントだかは、会社で見繕った女性社員と不倫をしている。
 男だけの酒の席になると、
──俺は、清美の中の具合の方が気持ちよくて耐えられないぞ。一回子供を産んでしまうとダメだな。と周りのことなんか気遣わず言うから、聞いている方がヒヤヒヤしてしまう。
 一方、俺はというと、そんな会社事情を鳥瞰的に見て、ただ、ひたすらに仕事をこなすだけだった。人間関係なんて糞食らえだと思った。煩わしいと思った。その反面、心のどこかでその会社の肉体関係の輪に混じりたいと思ってしまっているのだとうと、風呂に入りながら、肩まで浸かり天井を見ながら思った。
 今日は出張だった。群馬の高崎までだった。一人だった。こんなときは本当は一人じゃなくて、若い女の子が一緒ならいいのになぁと、肉体関係持ちたがり屋の自分が思った。移動手段は、電車だった。こんなとき頼りになる助手みたいな後輩がいればなぁと、仕事モードの俺が思った。東京近郊埼玉、千葉、神奈川までならなんとなくわかる。でも、北関東になるとさっぱりわからない。群馬、こんにゃく、嬬恋キャベツ、富岡製糸場、どれも自分の生活には一切関わってこないことなので、さっぱりだ。JRの切符の地図も高崎までは載っていなかった。自分が行くところが、相当なところだということがわかる。とりあえず、大宮まで出ることはわかったので、大宮に出ることにする。
 ラッシュ時間を過ぎた電車は平和だ。端に座って寄りかかりながら、居眠りができる。いや、してはいけないことはわかっているのだけどね。乗り過ごしちゃうからね。窓から見える風景が、ビルだらけだったのに対して、段々住宅が増えて行った。
 大宮で高崎線に乗り換える。大宮はターミナル駅らしくて、駅弁なんかも売っていた。欲しいとは思わなかったけれども、便利そうだなと思った。でも、時間に若干の余裕があったから、自動販売機でペットボトルのお茶を買った。ガタンと言って出てきたものを取り出そうと思って、しゃがんで、取って立ち上がろうとしたときに、目の前がホワイトアウトして、それから先には覚えていなかった。

 猟銃を抱えて山を散策していた大五郎は、今日の獲物を探していた。ここのところ収穫がゼロだったので、少し焦っていた。いや、狩猟者にノルマはそもそも存在しない。ただ、自分の勘が鈍ってしまったかもしれないということの焦りが大きい。
 狩猟仲間の八吉は、昨日、鹿を仕留めたと言っていたし、村で一番の美人のキヨミを抱いたことを酒の席で言っていた。
──キヨミの愛撫は丁寧だっぺ。あれは町できっと体売っていたにちげぇねぇ。
 これは八吉の偏見ではあるが、大五郎はうらやましかった。噂では、キヨミはその日一番頑張ったマタギに股を開くという話があった。大五郎はまだそれにあやかったことはないし、その噂が真偽がどうか知らなかった。
 だから、大五郎の股間は若干、ムラっけのある状態で、山道を歩いていた。
 ガサッ。
 草むらで音が鳴った。そちらの方に散弾銃を向けて、様子を見る。
 ガサガサッ。
 大五郎は固唾を飲む。こんな気分になるのはいつぶりだろうか。きっと、二メートルの熊を倒したとき以来だ。あいつは、散弾銃、三発でも死ななかった。四発目がたまたま、心の臓に命中したことによって、倒すことができた。でも、その日は、二メートル半の熊を倒した鬼太がいて、キヨミと行為をなすことができなかった。
 草むらから出てきた。黒い人にも似たものだった。でも、熊のようにも見える。
 撃て。
 ダン。
 弾が肩に当たる。さらに、追撃として背中か腹の方を目掛けて撃った。
 ダン。ダン。
 相手は倒れた。
 大五郎は倒したと思い。近寄っていく。
 なんと撃った相手はキヨミだった。もう、彼女は息も絶え絶えだった。どうすればいいのかわからなかった。今の地点から、村落まで運んで行っても、二時間はかかる。それでは助からないだろう。
──そうだ。
 大五郎は思い出したように。ズボンを脱ぎ出した。
──オメェが死ぬ前に一度だけ、俺と一回ヤっておきたいと思っていったんだよ。オメェは。もう死んでしまうんだからな。このまま、死んでしまうのはもったいない。ならいっそこの俺と一戦交えてから死んでくれ。
 瀕死のキヨミは嫌がることもできず、ただ、されるがままに大五郎の受け入れた。ただ、行為の途中で途中で天に召された。大五郎は、そのことには気づかず、自分の気が済むまで行為を続けた。
 村では、キヨミが消えたことが事件になったのは、三日後のことだった。大五郎は、山の斜面に穴を掘ってキヨミを隠した。自分は絶対に犯人ではないということを言い聞かせて、家に閉じ籠もるようになった。
 村にサラリーマンが一人きていた。──ここは高崎市か? と見当違いのことを尋ね回っているらしい。
 なにやら、キヨミのことで用があるらしい。
 尋ね回っている中で最後の一軒になったのが大五郎の家だった。村の人からは、──あいつは最近寝込んでてダメだ、と言われた。インターフォンを鳴らすときには大五郎は猟銃を構えていた。もうずいぶん鈍った勘だった。
 ただ、サラリーマンはそのまま帰ってしまった。代わりに警察が入ってきた。
「堤屋大五郎、あなたを藤木清美殺害の容疑で逮捕する」
 その言葉を聞いた瞬間、大五郎の喉元から血飛沫が飛んだ。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?