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負けない事・投げ出さない事・逃げ出さない事・信じ抜く事~読書note-8(2022年11月)~

寝不足の日々が続く。4年に一度のサッカーの祭典W杯が始まった。今までTwitterとかで言っているが、4年前にハリルホジッチを直前で解任した時点で、この国の代表を心から応援できなくなった。今回のW杯はとにかく元リヴァプール戦士の南野が活躍し、他のリヴァプール戦士とユニ交換する姿を見ることだけが楽しみだ。

これを書いている時点(12/4)で、日本はまさかのドイツとスペイン撃破でノックアウトラウンドに進んだ。Twitterとかでは「コイツ逆張り気取ってる?」と思われるのが癪なので言わないが、あの4年前のハリルを解任してまでやりたかった「自分たちのサッカー」の成りの果てが、この受け身でうっちゃるサッカーか。ハリルの戦術とたいして変わらないではないか。4年前、あのままハリルで行ったら、とっくに新しい景色を見ることができたのではないかと。

南野は、かつてのリヴァプールや今のモナコでの状況同様、出番が少ない。でも、我がリヴァプールに在籍した唯一の日本人選手だ。カップ戦のメッシとまで言われた男だ。信じよう。


1.まほろ駅前多田便利軒 / 三浦しをん(著)

またもや、直木賞受賞作を読んでしまった。三浦しをんさんを読むのは、あの箱根駅伝の「風が強く吹いている」以来か。町田市をモデルにしていると思われる東京外れのまほろ市で、便利屋を営む多田啓介とそこに転がり込んできた同級生の行天春彦のバディで、次々と起こるその町の問題を解決していく。

仕事を依頼してくる町の人たちが、夫々様々な問題を抱えている。おせっかいでそれらを放っておけない多田と、飄々としながらもちょっと裏のある人生を送ってきて妙な凄みのある行天が、いつの間にか良いコンビとなって行く。二人には他には言えぬ暗い過去の因縁があった仲なのだが。

実は、自分が20代前半の人生を投げていた頃、なりたかった職業の第1位はヒモで、第2位が便利屋だった。とりあえず、生活のためにお金を稼ぐことを第一とし、そのためには何でもやればいいんじゃないと思ってた。世の中には、職業と職業の間には隙間があって、そこに商売の芽があると思ってたから。

でも、わだかまりのあった昔の友と再会し、行動を共にする。居たら居たで面倒だが、居なくなってしまうと淋しい。そんな友、俺にはいるかなぁ。先日、同級生の美容室でカットしてもらったのだが、そいつとは子どもの頃は喧嘩ばかりしてた、犬猿の仲だった(大人になって再会してからは仲良くやっている)。でも、カットしてもらいながら色々と話をしてたら楽しくて心地良くて、多田と行天もこんな感じだったのかと。


2.惨敗の理由 / 戸塚啓(著)

W杯が始まったので、足利市立図書館に行った時に目に入ったため借りた。ザックジャパンの内情は、通訳の矢野大輔さんによる「通訳日記」を読んでいたので大体把握している。その4年後にも「自分たちのサッカー」をやるために反乱を起こしたあいつらが元凶、それをねじ伏せられなかったザッケローニの弱さを改めてこの本で知る。

スポーツライターの著者がイタリアまで行って、ザックに全試合の記憶を引き出すインタビューを試みる。また、対戦した3ヶ国の相手選手達にも、日本チームについての印象を聞き出す。長所も短所も浮き彫りになっていた、研究されていたことが分かる。

ザックジャパンは、本番が始まるまでで一番ワクワクした代表だった。パスと連動の攻撃的なサッカー、そして日本を日本人をリスペクトしてくれるザックの人柄の良さ。JFAのHPでのザックのコラムを読むのが本当に楽しみだった。

結局は、勇気、メンタルで片付けるこの本の内容に異論を唱える者もいるだろうが、自分は選手もザックも勇気がなかったのだとのこの結論が一番しっくりくる。


3.右大臣実朝 / 太宰治(著)

面白過ぎる大河「鎌倉殿の13人」が、いよいよ雪の鶴岡八幡宮へと迫ってきた頃、これも足利市立図書館の話題のコーナーにあったので手に取る。何とあの太宰が実朝について書いているのだ。この大河を見るまで、実朝について「鎌倉幕府最後の将軍」ぐらいにしか知識が無かったっけ。

歌人にして為政者、そして無情な最期を遂げた実朝の悲劇を、太宰治が「吾妻鏡」を元に美しい文体で解き明かす。それにしても、太宰が少年の頃から実朝を書きたかったとは。解説にもあったが、太宰作品の一貫したテーマは「ホロビ(滅び)」であり、実朝にもそれを感じていたのだろう。

人はなぜ滅び行くものに心を奪われるのだろう。
「出でて去なば 主なき宿と なりぬとも 軒端の梅よ 春を忘るな」
実朝辞世の歌が胸に沁む。俺はまだ滅びたくない。やり残したことも見たい景色も沢山ある。庭先の山茶花よ 冬を忘るな。


4.ライオンのおやつ / 小川糸(著)

先日、足利市内の中学校が文化発表会で行ったビブリオバトルの決勝戦の司会を務めた。チャンプ本となったのは「余命3000文字」(村崎羯諦著)、ディスカッションタイムで会場の生徒から、「人生の最後に書きたい文字、言いたい言葉は何ですか」との質問があった。この本は「人生の最後に食べたいおやつは何ですか」がキーワードだ。

2020年本屋大賞第2位の作品。若くして癌に侵され余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内海の温暖な島のホスピス「ライオンの家」で過ごすことを決意する。ホスピスオーナー兼看護師のマドンナ、それぞれの事情を抱えた訳アリの入居者たち、そして島でワイン造りに励むタヒチ君との交流を描く。

このホスピスには、毎週日曜日に入居者がリクエストできる「おやつの時間」がある。そこで選ばれたおやつとリクエストした入居者の思い出が、とにかくせつない。雫も複雑な家庭環境で育った過去があり、なかなかリクエストしたいおやつを選びきれなかったが、最終的に選んだおやつは…。

自分にはそこまで思い入れのあるおやつってあるかなぁ。強いて言えば、今は亡き祖母が作ったおはぎか。今どきのこしあんのシュっとした奴でなく、もっさりした、つぶ餡たっぷりのいかにも「ぼたもち~」って感じだった。人生の最後は、海の近くで過ごしたいなぁ。南国まで行くのは周りが大変なので、葉山か三浦辺りがいいか。おはぎを食べながら、相模湾に浮かぶヨットを眺めていたい。


5.ディエゴを探して / 藤坂ガルシア千鶴(著)

中学まで野球少年だった自分のW杯の最初の記憶と言えば、高3の時にリアルタイムで見た1986年メキシコ大会のマラドーナの5人抜きだろう。翌朝高校へ行くと、隣のクラスのサッカー部のH君(今や市内某中学校の教頭)が、「いかにあの5人抜きが凄いか」を力説していて、周りが黒山の人だかりに。

著者は自分と同い年、あの86年大会で魅せられたのかと思ったら、もっと前の78年大会で優勝したアルゼンチンに興味を抱き、その後、マラドーナを好きになって、アルゼンチンに移住したと。そんな著者がマラドーナと親交のある選手や関係者、あるいはマラドーナに特別な思い入れがあるアルゼンチンの人々から貴重な話を聞き出す。現地在住のライターならではの素晴らしい取材力。

自分はマラドーナに対して、どうしても晩年の悪童的なイメージがあったが、この本を読むといかに彼が世界中の人々、特にアルゼンチン国民に愛されていたかが分かる。だが、若くして才能を開花しその熱狂の渦の中心になったことが、彼を苦しめる。本来はおちゃめで大人しかった少年「ディエゴ」が、いつしか英雄「マラドーナ」を演じ続けなければならなくなったのだ。

しかし、神と崇められた男は、心優しく常に弱い人たちの立場に立って権力と戦い続けた、本当に愛すべき男だった。特に、第2部「みんなのディエゴ(ディエゴは誰のもの)」で書かれているエピソードの数々は、時に涙を流さずには読むことができない。困っている人がいたら、傍で寄り添い、救うために奔走する。20歳で交通事故に遭い車椅子生活となった元選手にかけた言葉、逆にマラドーナが危篤状態になった時にその彼がマラドーナにかけた言葉に胸を打たれる。

この本を読むまでは、自分はアルゼンチンを優勝候補にも挙げてなく、あまり興味もなかったが、俄然応援したくなった。マラドーナ同様に「神の子」と呼ばれ続けた男の最後のW杯、しっかりと見届けたい。

先日、NHKであいみょんの地元甲子園でのライブの特集をやっていて、涙ながらの「Tower of the Sun」の熱唱に思わずもらい泣く。この曲の歌詞は、特別な思い入れのある岡本太郎の太陽の塔へのリスペクトと、彼女がまだ売れる前の苦悩が書かれている。あのあいみょんですら、同級生や学校の先生たちに、「歌手になりたい」という夢を笑われていたのかと。

彼女の今の栄光や、日本代表の今大会の逆転劇を見ると、W杯中継のCMで流れる本記事の表題の歌詞、本当にそれが一番大事なのだと。今大会でも苦汁をなめつつ出番を待つ南野、そして諦めずに挑戦し続けている我が長男にその言葉を贈る。信じてる。

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