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トイレ文化論_進化と価値観

1.趣旨

トイレのタイプ、形、公衆トイレ、料金、ウォシュレットの普及などを比較することでドイツを含む各国がもつ国民性が見えてくるのではないかと考えた。代表として独自の特徴を持っている日本、インド、中国、アメリカ、フランス、ドイツの6か国のトイレを比較した。まず6か国それぞれのトイレの特徴をまとめ、そののち4つの観点から各国を比較した。


2.各国トイレの特徴

【日本】
当初しゃがみ型であったがイス型が増加。公衆トイレは無料で数も充実。ウォシュレットの普及率は70%、6~13Lまでバラバラ。音姫などの普及

【インド】
依然人口に対する数が足りていない。外で排泄するケースも多くみられる。イス型としゃがみ型両方ある。お尻を水で洗う習慣があるため水浸し状態のことや、ペットボトルが置いてあることもあるという。

【中国】
公衆トイレの中にはドアがないオープン型トイレがある。台湾発祥のトイレカフェが一部の間でブーム。

【アメリカ】
公衆トイレはドアの下40~50㎝がないものも。鍵はければ開けられる程度のものになっている。基準は様々だが水量の規制が導入され節水が進んでいる。トイレカフェ上陸。


【フランス】
概ね以下で述べるドイツの状況に近いため省略する。大きな違いはビデ発祥の国であること。以前は90%がビデを備えていた。しかし2009年の段階では10%程度

【ドイツ】
基本はイス式だが中には便座がないものもみられる。公衆トイレ有料、清潔。概ねトイレットペーパーも備えている。ウォシュレットは普及していないが節水意識は高い。床においてあるタイプではなく壁に密着している。使うたびに便座が回転し拭き掃除するトイレなど、独自のものがある。

3.論点

【何故ヨーロッパ諸国の公衆トイレは有料なのか】
考えられる要因を挙げる。第1が治安の問題である。公衆トイレはプライバシーを確保するために密室であり、犯罪の温床にもなりうるという点から有料にすることで立ち入るハードルを上げているという面もあるだろう。ホームレスが立ち入らないようにという場合もあるようだ。第2がきれい好きであるということである。有料だけあってドイツのトイレは比較的きれいで、トイレットペーパーの補充も十分なところが多いようだ。

【排泄プライバシー】
高い順に並べると
日本、ドイツ・フランス、アメリカ、中国、といったところか。インドは設備が整っていないという条件ゆえ順位に組み入れなかった。日本は恥の文化といわれる通りで、音に対しても恥を感じる人が一定数存在する。音姫の普及からもそのことがうかがえる。ドイツ・フランスでは視覚は遮断されるが音に関しては気にしないようで、各国のトイレ事情のホームページでも「すさまじい排泄音がする」とある。

アメリカは下に隙間が空いていることがある。アメリカの公衆トイレは一部有料のところもあるようだが無料のところも多い。そのため衛生面に加え、治安はヨーロッパ以上に問題がありそうで、そのためにプライバシーより安全を重視した結果といえそうである。

中国はさらにオープンで、ドアや仕切りが付いていないものもあるという。ただし都市部では個室化が進んでいる。

【節水意識】
節水意識は全体に高いところが多いようだ。ドイツは節水意識が高くTOTOの販売員の話において節水に対する反応が良かったとのこと。アメリカでは基本的に6L、 地域によっては4.8Lに規制が設けられており節水が進む。要因は大きく分けて2つあると思われる。1つ目が環境にやさしいいわゆる「エコ」に対する意識が高いことである。ドイツは特に風力発電など環境に配慮した仕組みや自然エネルギーへの転換をリードしており、緑の党が長く支持を得ていることや、デモ運動の盛んさなどに一人一人の環境への意識、国民性が表れている。フランスも基本的に地震がないというリスクの低さから、原子力発電は火力発電に比べクリーンなエネルギーとして機能しているといってもよいのかもしれない。2つ目が水資源の不足である。中国・インドでは水資源が貴重なものであり、それゆえ節水への意識が広がっている可能性はある。

日本は島国であり水流の争いなども基本的にないため水資源には恵まれている。しかし大小使い分けなど高い技術があり技術的には進んでいる。一方6L以下がある一方で13Lもいまだにあり必ずしも意識が高まっているとは言えないようだ。

【衛生意識】

衛生意識は程度だけでなく、方向性の違いがみられる。

象徴的な例としてまず日本とドイツを比較する。結論から言えばドイツは「他者から汚されること」を、日本は「自分がけがれている状態」を防止するために衛生面が発達したのではないだろうか。具体的に見ていく。

ドイツのトイレは公衆トイレが有料であり清潔である。便座のないトイレがあるのは「誰が座ったのかもわからない便座に座りたくない」という意識からであるという現地の方の声があった。便座のあるトイレでも空気イス状態で排泄を行う人もいるとのことだ。またドイツ特有の便座を回転し拭き掃除をするトイレはその最たるものである。

 一方日本も清潔さは同様に高い。その最も突出した特徴はウォシュレットの存在である。ウォシュレットの普及率は右肩上がりで70%を突破している。しかしながら日本以外でウォシュレットが一般化している国はない。例としてTOTO株式会社の商品はウォシュレットなしのものはアメリカなど各国で受け入れられているが、ウォシュレットに関してはほとんど売れていないようだ。しかし日本では便座に座ることを気にする人はあまり多くなくドイツのような便座の洗浄システムはない。このことはドイツと日本が別の方向性で衛生を追求してきたことが表れているのではないか。

ほかの国も見てみると、インドでは水で尻を洗う習慣があり、ウォシュレットが根付く可能性はあるかもしれない。富裕層ではウォシュレットに対して好意的な声もあるようだ。

一方アメリカでは場所によって手で流すような高いところについているトイレのレバーを足で下げて流すことがよくあるようだ。足が上がらない人はトイレットペーパーで直接触れないようにして手で流すという。

ドイツをはじめフランス、アメリカは「他者からの汚されること」を日本、インドは「自分が汚れている状態」を嫌うという価値観があるのではないだろうか。中国は西洋化が進めばドイツに近い衛星観を持つかもしれないが、ドアのないトイレが気にならないような状態が続けばドイツのようにはならないだろう。

いったいこの差はどこから生まれてきたのだろうか。簡単な憶測ではあるがやはり歴史的背景が大きいように思われる。ドイツなどヨーロッパ諸国は個人の自由というものを勝ち得た歴史を持っている。それゆえ個人としての領域を侵されたくないという意識を持ち、他者から汚されたくないということにつながるのではないだろうか。

一方日本は昔から共同体意識が強い。またいったん共同体から除外されると生きてゆけないような文化を持っていた。それゆえ他者に汚されることよりも「自分が汚れている状態」そのものやそれによって他者からさげすまれることを嫌っていくことになったのではないだろうか。インドも古くはカースト制という一つの共同体の上で成り立っていた社会であるといえ、共同体からはずされては生きてゆけないという日本に近い感覚があるのではないか。


4.最後に

以上のようにトイレ文化の違いから国民の価値観がどのように表れているのかを見てきたわけだが、そこで感じたことはトイレに関する客観的なデータが少ないということだ。旅行の時に感じたこと、現地の人の話、などはあるがそれを統計的に示したデータがなかなか見つからなかった。授業でも指摘されていた通りインドなどにおける排泄と衛生の問題は重要な問題であり、いまでも世界の3分の1近くの人が野外で排泄を行っているという。この問題はどんなテロよりも多くの命を奪っているといわれている。現在は二つ目のWTO世界トイレ機関、がトイレについて考える機会を持ってもらうような活動をしているがまだ十分ではないだろう。人生のうち3年はトイレで過ごすといわれている。これほど身近であるにもかかわらず語られてこなかった問題は珍しい。世間的なタブーの問題もあるかもしれないが、今後は一人一人がトイレの問題に興味を持ち、考えるがことが必要なのではないだろうか。

5.補足

本編では触れなかったが、トイレに関して様々ユニークな試みが進んでいる。2つ紹介する。1つ目が@トイレという無料スマートフォンアプリで、街中のどこにトイレがあるか、タイプ、ウォシュレットの有無などの情報を提供している。しかし情報は一般利用者が投稿するスタイルであるためまだ情報不足である。2つ目は台湾発祥のトイレカフェである。イスがすべてトイレであり、カレーが便器の形をした容器に入って提供される。デザートはチョコの大便状アイスである。台湾から中国に広まり、最近アメリカに初上陸を果たした。

参考文献

トイレの話をしよう。「世界65億人が抱える大問題」2009 Rose George著

                          大沢章子 訳 


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