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単行本未収録の原稿たち

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記事一覧

アンラッキーガール 15(終)

アンラッキーガール 15(終)

1 バー〈孔雀〉(承前)

翔子  「国を守るために利用できるって……どういうこと?」

茜   「たとえば日本に向けて核ミサイルが発射されたとします。ミサイルの到達予定地に麻里を連れて行ったらどうなると思いますか?」

翔子  「麻里ちゃんの身に危害が及ぶことは絶対にないから、ミサイルは不発のまま?」

茜   「たぶん、そういうことになるでしょう。国を守るために、日向麻里の特殊能力は必要不可欠

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アンラッキーガール 14

アンラッキーガール 14

1 バー〈孔雀〉(承前)

 リモコンボタンを押そうとするサツキ。その瞬間、無言の客が立ち上がり、念仏を唱え始める。

サツキ 「え? (サツキの手足がおかしな方向に捻じ曲がる)な、なんだこれ? からだが……」

 無言の客の動きに合わせて、奇妙なダンスを踊り始めるサツキ。

無言の客「(手のひらをサツキに向けて)はああっ!」

 サツキ、無言の客の気合に吹き飛ばされるように倒れこむ。

 とっさ

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アンラッキーガール 13

アンラッキーガール 13

1 バー〈孔雀〉(承前)

富子  「では、どうぞ」

 キサラギに爆弾と数珠を手渡す富子。

キサラギ「十五万円でいいのだな?」

 財布を取り出すキサラギ。

 上手から菜々美登場。ドアの前で立ち止まり、周囲を見回す。すっかり頭に血がのぼっている様子。髪はぼさぼさ。呼吸も荒い。手にはナイフを握っている。

菜々美 「日向麻里、どこだ?」

富子  「あ――今の声は……」

菜々美 「日向麻里、

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アンラッキーガール 12

アンラッキーガール 12

1 バー〈孔雀〉(承前)

キサラギ「フリーズ! 動くな!」

 全員の視線がキサラギに向けられる。緊張の走る店内。無言の客だけは冷静。振り返り、キサラギのほうを怪訝そうに眺める。

翔子  「な、なに?」

ルカ  「ママ、警察に通報して。こいつらテロリストだ! トイレに仕掛けた爆弾で、ビルごと吹っ飛ばすつもりだよ!」

 スマホを取り出した翔子に、サツキが銃を向ける。

サツキ 「動くなってい

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アンラッキーガール 11

アンラッキーガール 11

1 バー〈孔雀〉(承前)

佳穂  「お客様。かわいい佳穂ちゃんにご注文をどうぞ」

キサラギ「ミーはマティーニを。ベルモットは少なめに。オリーブは抜いてもらえますか?」

サツキ 「じゃあ、私はギムレットで。コーディアルライムではなく、ライムを絞って、ホワイトキュラソーで甘味をつけてくれ」

佳穂  「えっと……(注文がまるでわからず戸惑いながら)せっかくですから、当店イチオシのカクテルを飲んで

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アンラッキーガール 10

アンラッキーガール 10

1 バー〈孔雀〉(承前)

 ドアの外でひそひそと話し合うキサラギとサツキ。

サツキ 「ねえ、ボス」

キサラギ「ビーケアフル! サツキ。ミーをボスと呼ぶな。ミーたちがテロリスト集団〈デリンジャー〉のメンバーだということがばれたらどうする? ミーのことはキサラギと呼べ。アンダスタン?」

サツキ 「(姿勢を正して)すみません、キサラギ殿。しかし……(店の入ったビルを見上げて)こんなぼろっちいビル

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アンラッキーガール 09

アンラッキーガール 09

1 バー〈孔雀〉(承前)

菜々美 「なによ、ここのトイレ。座り心地はサイコーだし、シャワーも柔らかくて、まるでマッサージされてるみたいだし。あまりにも気持ちいいから、便座に座ったまま、居眠りしちゃったじゃない。(店内を見回し)日向麻里はどこ? どこにもいない! まさか、あたしが居眠りしている間に帰っちゃったとか? あの女だけは、絶対に殺さなくちゃ気がすまない。あとを追いかけなきゃ」

 上手に移

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アンラッキーガール 08

アンラッキーガール 08

1 バー〈孔雀〉(承前)

麻里  「なんだかよくわかりません」

富子  「最初は皆様、そうおっしゃいます。しかし、この数珠を持ち歩けば、やがてすべてが明らかになるでしょう。きっと世界が変わるはずです」

麻里  「世界が変わる……こんな私でも幸福になれるんですか?」

富子  「もちろん」

麻里  「その数珠、おいくらなんでしょう?」

富子  「税込み十五万円でございます」

麻里  「や

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アンラッキーガール 07

アンラッキーガール 07

1 バー〈孔雀〉(承前)

麻里  「ありがとうございます。少し楽になりました。もう大丈夫です」

 立ち上がり、店内に戻ってくる麻里。その後ろにルカも続く。

茜   「麻里。大丈夫?」

麻里  「うん……飲みすぎたみたい。ちょっと外の風を浴びてくるね」

 そのまま店の外へ出ていく麻里。ルカはテーブル席へ戻る。

ルカ  「(こっそり麻里の財布を取り出して)一枚、二枚、三枚、四枚、五枚……五

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アンラッキーガール 06

アンラッキーガール 06

1 バー〈孔雀〉(承前)

麻里  「気持ちがスッキリしたら喉が渇いちゃった。ママ、おかわり」

翔子  「ちょっと、大丈夫?」

麻里  「まだまだ大丈夫だってば」

翔子  「これが最後だからね」

 カウンターにグラスを置く翔子。

麻里  「(グラスを持ち上げて)あ、お酒が少ない。もっとたくさん入れてよ」

 麻里、カウンターの中に入っていく。

麻里  「あれ? これってママの服?」

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アンラッキーガール 05

アンラッキーガール 05

1 バー〈孔雀〉(承前)

 トイレから出てくる菜々美。店内をゆっくりと歩きながら、まずルカの顔を覗きこむ。

ルカ  「なに、あんた? なんか用?」

菜々美 「いえ……ごめんなさい。素敵な服を着ているなと思ってつい」

 カウンターのほうへ移動する菜々美。次に茜の顔を覗きこむ。
 
茜   「なにか?」

菜々美 「あ、ゴメンなさい。人違いでした」

 続いて、麻里の顔を確認しようと不審な動き

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アンラッキーガール 04

アンラッキーガール 04

1 バー〈孔雀〉(承前)

麻里  「私、日向麻里は世界一不幸な女です! これはもう逃れられない運命なんです!」

菜々美 「その女が今夜、駅裏の寂れたバーにやって来ることもすでに調査済み。実は今、その店にいるんだ。もうすぐ日向麻里がここへやって来る。あたし、その女を見つけたらすぐに殺すつもり。本気だよ。タケルの心を取り戻す方法は、それしかないもの」

茜   「私、トイレに行ってくるね」

 茜

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アンラッキーガール 03

アンラッキーガール 03

1 バー〈孔雀〉(承前)

麻里  「それが……ちょっとした失敗じゃないんです」

翔子  「どういうこと?」

麻里  「私、うっかり手を滑らせて、取引先の社長さんの頭にコーヒーをかけちゃって……」

茜   「あちゃあ」

翔子  「まだ新人なんだもの。緊張してミスするのは当然だろ? それくらいどうってこと――」

麻里  「私、近くにあったタオルで、慌てて社長さんの顔を拭いたんですが、それが

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アンラッキーガール 02

アンラッキーガール 02

1 バー〈孔雀〉(承前)

翔子  「(ルカに近づき)ホント、ゴメンね。あの子、誰にでもなれなれしくって」

佳穂  「いえ……」

翔子  「(ルカに思いきり顔を近づけ)あら!」

ルカ  「え?」

翔子  「あらあらあら」

ルカ  「え? え? なんですか?」

翔子  「お客さん。靴も鞄もブランド品だし、着ている服も高そうだし、ずいぶんと儲かってるみたいだね」

ルカ  「いえ……そうい

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