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アンラッキーガール 10

1 バー〈孔雀〉(承前)

 ドアの外でひそひそと話し合うキサラギとサツキ。

サツキ 「ねえ、ボス」

キサラギ「ビーケアフル! サツキ。ミーをボスと呼ぶな。ミーたちがテロリスト集団〈デリンジャー〉のメンバーだということがばれたらどうする? ミーのことはキサラギと呼べ。アンダスタン?」

サツキ 「(姿勢を正して)すみません、キサラギ殿。しかし……(店の入ったビルを見上げて)こんなぼろっちいビルに、本当にそんなすごい奴がいるんですかね?」

キサラギ「グランドマスターの情報に間違いはナッシング。今夜、このビルディングのどこかにミスターエックスがいることはシュア! 確実だ」

サツキ 「世界を動かすほどの巨大な力を持つ権力者――ミスターエックスがこんなところにいるなんて、信じられないんですけど……」

キサラギ「シャラップ! ミーたちはグランドマスターの命令にただ従うだけ。失敗はノー! 絶対に許されない。心してかかれ。OK?」

サツキ 「はい、わかりました。キサラギ殿」

キサラギ「ではもう一度、作戦をレビュー――おさらいしておこうか」

サツキ 「はい。(ポケットから爆弾《爆弾は財布のような形をしている》とリモコン装置を取り出し)この爆弾をトイレに仕掛け、頃合いを見計らってリモコンボタンを押す。ビルは爆発し、ミスターエックスは死亡。以上であります」

キサラギ「OK! ノープロブレム! では作戦を実行に移そうか。ヒアウィーゴー!」

 店内へ入るキサラギとサツキ。

翔子  「いらっしゃいませ」

 キサラギとサツキのいかにも怪しげな格好を見て、眉をひそめる翔子。

翔子  「(佳穂に耳打ち)ちょっと……大丈夫なのかい?」

佳穂  「大丈夫ってなにが?」

翔子  「あの二人、危険なオーラが全身から出まくってるじゃないか」

佳穂  「そうですかあ? 佳穂の目にはいい人っぽく見えますけど」

 あちこち睨みつけながらテーブル席へ向かうキサラギとサツキ。キサラギに睨まれ、おたおたするルカ。二人は横柄な態度でテーブル席に腰を下ろす。

翔子  「どこがいい人なんだよ。あれは間違いなく悪人だろ?」

佳穂  「ママ。人を見かけや態度で判断しちゃダメだってばあ」

翔子  「(茜に向かって)ねえ、あんたはどう思う?」

   「どこからどう見ても、闇社会の住人ですね。関わり合いにならないほうがいいかと」

佳穂  「なによ、みんな。悪人呼ばわりされて、あの人たちが可哀想。じゃあ、佳穂がオーダーをきいてくるね」

 佳穂、ゆっくりと二人に近づいていく。

サツキ 「キサラギ殿。この店にミスターエックスと思われる人物はいないようですね」

 二人の後ろで聞き耳を立てる佳穂。キサラギ、サツキは会話に夢中で佳穂の存在に気づいていない。

キサラギ「オフコース! 当たり前だ。世界を動かす力を持つ人物だぞ。こんなさびれたバーにいるわけがない」

サツキ 「ではどこに?」

 キサラギ、人差し指で上方を指差す。ちょうどそのタイミングで佳穂が顔を覗かせたため、彼女の鼻を指で突いてしまう。

佳穂  「ぶひっ!」

キサラギ「おー、ソーリー」

佳穂  「やだあ! 佳穂のかわいいお鼻が子豚さんになっちゃう!」

キサラギ「ソーリー、ソーリー。大丈夫ですか?」

佳穂  「大丈夫じゃないよ。佳穂が子豚さんになっちゃったらどうするの? (豚の真似をしながら)ぶひっ。ぶひぶひっ。……あ。これはこれでかわいいかも。大発見! やっぱりかわいい子ってなにをやってもかわいいまんまなんだなあ。ぶひっ」

サツキ 「(銃を取り出し)キサラギ殿。この女、イラつくので殺してもいいですか?」

キサラギ「(銃を押さえ)待て。落ち着け。気持ちはわかるが我慢しろ」

つづく

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