アンラッキーガール 12
1 バー〈孔雀〉(承前)
キサラギ「フリーズ! 動くな!」
全員の視線がキサラギに向けられる。緊張の走る店内。無言の客だけは冷静。振り返り、キサラギのほうを怪訝そうに眺める。
翔子 「な、なに?」
ルカ 「ママ、警察に通報して。こいつらテロリストだ! トイレに仕掛けた爆弾で、ビルごと吹っ飛ばすつもりだよ!」
スマホを取り出した翔子に、サツキが銃を向ける。
サツキ 「動くなっていってるだろ!」
キサラギ「シット! その女のいうとおり、ミーたちはテロリストだ。ばれてしまったなら仕方がない。ユーたちには死んでもらおう」
佳穂 「いやああああっ! 佳穂、死にたくなーいっ!」
サツキ 「黙れ、女。殺すぞ」
佳穂 「あああああああっ!」
茜 「佳穂ちゃん、落ち着いて。あいつらを刺激しちゃダメ」
緊張した店内。そこへ富子がやって来る。
富子 「こんばんは。お邪魔しまーす。ちょっとトイレをお借りしますね」
富子はまっすぐトイレへ。みんなは呆然とその様子を眺めている。
富子 「数珠の代金を回収しなくっちゃ。あの子、トイレに財布を忘れたって話してたよね。(爆弾を手に取り)あった、あった。これだ。ではありがたく頂戴いたします」
爆弾を持ってトイレから出てくる富子。
富子 「どうも。お邪魔しました」
翔子に一礼して、そのまま店から出ていこうとする富子。
キサラギ「ヘイ、ユー!」
ドアの前で振り返る富子。
富子 「はい? 私でしょうか?」
キサラギ「ホワッツ? なにをやってる?」
富子 「(爆弾を見せて)少々忘れ物をいたしまして」
キサラギ「それはミーのものだ。返してもらおうか」
富子 「なにをおっしゃってるんですか? これは私のものです。絶対に譲りませんからね」
キサラギ「ギブミーバック! 返せ!」
富子 「イヤです。返しません」
キサラギ「(富子に銃を向けて)ユー、だったら死ぬか?」
富子 「(まったく怖がらず、キサラギに顔を近づけて)あら。あらあらあら」
キサラギ「ホ、ホワット?」
富子 「(取り出した数珠をキサラギの顔に近づけて)あなた、最近、からだがの調子があまりよくなかったりするのではありませんか?」
翔子 「これはあれだ。見え見えの詐欺だよ」
茜 「どうやらそうみたいですね」
富子 「からだの調子、悪くありませんか?」
キサラギ、不安そうにお腹にさわる。
富子 「数珠の向こう側に真実が浮かび上がりました。もしかして、あなたは胃の調子が悪いのではありませんか?」
翔子 「今、あの人がおなかにさわったのを見て答えたよね?」
茜 「初歩的な詐欺の手口ですね。さすがに、こんなあからさまな手口に騙される人はいないでしょう」
キサラギ「(驚いた表情で)ホワイ? 確かに最近、ミーは胃痛に悩まされている。どうしてわかった?」
翔子 「あーあ。見事に騙されちゃってるよ」
富子 「私の数珠はどんなことでも見通すことができます。(数珠をじっと見つめて)お気の毒に。どうや悩み事をいくつか抱えていらっしゃるようですね。ストレスであなたの胃はボロボロです。このままだとあと半年で死んでしまうでしょう」
キサラギ「オ―ノー! それは困る! どうすればいい?」
富子 「この数珠には病を治す特別な力が宿っています。これを使って、毎日お祈りを続ければ、きっとあなたの運気は好転するでしょう」
翔子 「なるほど。あの数珠を高値で売りつけようって魂胆なんだ」
茜 「さすがに詐欺だって気づくでしょう?」
キサラギ「ハウマッチ? いくらだ?」
茜 「ダメだ。まだ騙されてる」
富子 「十五万円」
翔子 「うわあ。いくらなんでもぼったくりすぎじゃない?」
キサラギ「十五万……それはちょっと……」
富子 「あなたはラッキーです。ただいまサービス期間中なので、お申し込みいただいた方には、もれなくこちらをプレゼントいたします(爆弾を指し示す)」
茜 「あれって、もともとあの外国人さんのものなんですよね?」
翔子 「めちゃくちゃだな。こんな取引、成立するわけが――」
キサラギ「OK、買った!」
翔子 「成立しちゃってるよ。あと半年で死ぬといわれて、パニくっちゃったのかな」
つづく
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