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アンラッキーガール 13

1 バー〈孔雀〉(承前)

富子  「では、どうぞ」

 キサラギに爆弾と数珠を手渡す富子。

キサラギ「十五万円でいいのだな?」

 財布を取り出すキサラギ。

 上手から菜々美登場。ドアの前で立ち止まり、周囲を見回す。すっかり頭に血がのぼっている様子。髪はぼさぼさ。呼吸も荒い。手にはナイフを握っている。

菜々美 「日向麻里、どこだ?」

富子  「あ――今の声は……」

菜々美 「日向麻里、殺してやる!」

富子  「どうしよう? またあの子が来ちゃったよ。人違いだっていうのに、困ったもんだ。あ……この目立つ帽子とコートがよくないのかも。(キサラギの肩を叩いて)ちょっとちょっと、あなた」

キサラギ「ホワット?」

富子  「今夜は特別に、もうひとつおまけしておきますね。(帽子とコートを脱ぎ、それをキサラギに強引に着せながら)おまけの帽子とコートです。あら素敵。お買い上げ、ありがとうございました。それではまた! ママ、裏口はどちらでしょう?」

 唖然としながら下手を指差す翔子。

富子  「ありがとう。それでは失礼いたします。お邪魔しましたあ」

 富子、下手へと退場。

キサラギ「ヘイ、ユー! お金はいいのか? (財布をしまい、数珠を腕に巻いて)いいものを手に入れた。これでミーの将来はバラ色だ」

 再び、銃をかまえるキサラギ。

キサラギ「さて。仕切り直しだ。全員、死んでもらおうか」

 緊張に包まれる店内。

 店のドアが乱暴に開き、菜々美が飛びこんでくる。

菜々美 「日向麻里はどこ?」

 キサラギの後ろ姿を見て、麻里と勘違いする菜々美。

菜々美 「その派手な帽子とコート。見つけた! 日向麻里、死ねえええっ!」

 キサラギの背中にナイフを突き刺す菜々美。キサラギ、その場に倒れる。キサラギの手から転がり落ちる銃。

サツキ 「キサラギ殿! (キサラギのもとへ駆け寄り)しっかりしてください!」

菜々美 「キサラギ? ……え? この女、日向麻里じゃないの? 嘘……あたし、間違えちゃった? あはっ……どうしよう? あははっ。(パニック寸前になりながら)なにこれ? ピストル? すごい、よくできてるね。本物みたい」

 銃を拾い上げる菜々美。みんなに銃を向ける。怯える面々。

菜々美 「(ふざけた様子で)おまえら手を上げろ!」

   「あなた、落ち着いて。それ、おもちゃじゃないんだから」

菜々美 「全員、殺しちゃうぞ!」

 発砲。大きな銃声。無言の客が床に倒れる。

翔子  「(無言の客に駆け寄り)ちょっとお客さん! 大丈夫?」

菜々美 「え? ……これ、本物なの? 嘘……あたし、知らーらないっと」

 店から逃げ出す菜々美。上手に退場。

ルカ  「いやああああああっ!」

佳穂  「(ルカの悲鳴よりさらに大きく)きゃあああああああっ!」

ルカ  「(対抗心を燃やすようにさらに大きな悲鳴)きゃああああっ!」

佳穂  「(さらに大きく)ああああああっ!」

 せきこむ佳穂。

   「あんたたち、バカなの? なにを張り合ってるわけ?」

翔子  「(無言の客を揺さぶって)ねえ、しっかりして!」

 翔子に耳打ちする無言の客。

翔子  「……え? 銃声に驚いて倒れただけ? よかったあ。びっくりするじゃない」

   「(佳穂に向かって)ねえ。ママは一体、誰としゃべってるの?」

佳穂  「さあ? でもときどき、こういうことあったりするんだよねえ。ママって霊感強いみたいだし、おばけでもいるんじゃないのかなあ」

サツキ 「おまえら、いい加減にしろ!」

 爆弾のリモコンを頭上高くにかかげるサツキ。

サツキ 「よくもボスを……。もう勘弁ならない。これがなにかわかるか? 爆弾のスイッチだ。これを押せばビルごと吹っ飛ぶ。全員、地獄行きだ。覚悟しな」

つづく


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