見出し画像

アンラッキーガール 02

1 バー〈孔雀〉(承前)

翔子  「(ルカに近づき)ホント、ゴメンね。あの子、誰にでもなれなれしくって」

佳穂  「いえ……」

翔子  「(ルカに思いきり顔を近づけ)あら!」

ルカ  「え?」

翔子  「あらあらあら」

ルカ  「え? え? なんですか?」

翔子  「お客さん。靴も鞄もブランド品だし、着ている服も高そうだし、ずいぶんと儲かってるみたいだね」

ルカ  「いえ……そういうわけでは……」

翔子  「失礼を承知で訊くけど職業は?」

ルカ  「それは……あの……」

翔子  「当ててみせようか。(少し考えて)もしかして、スリ――」

 慌てふためくルカ。

翔子  「スリーサイズもボンッ、キュッ、ボンッで完璧だからモデルさんとか?」

ルカ  「あ……はい……まあ、そんな感じです」

翔子  「やっぱり。あたし、異様に勘が働くっていうか、そういうのを当てるの、結構得意だったりするんだよね」

ルカ  「(手を叩いて、わざとらしく驚いたふりをしながら)ママ、すごい。……驚いたら喉が渇いちゃいました。あの、ビールもらえますか?」

翔子  「はい、すぐに用意するからちょっと待っててね」

 翔子、カウンターに戻ろうとするが、数歩歩いたところでルカのほうを訝しげに振り返る。

ルカ  「な、なんですか?」

翔子  「スリ」

ルカ  「え?」

翔子  「(急に笑顔になり)スリムね、あなた。ホント、羨ましい」

ルカ  「ありがとうございます」

翔子  「(カウンターに戻ろうとしてもう一度振り返り)スリ」

ルカ  「はい?」

翔子  「すり身でも食べる? イワシのすり身。おいしいよ」

ルカ  「結構です」

翔子  「あら、そう。残念」

 カウンターに戻る翔子。疲れた表情で椅子に座るルカ。

ルカ  「なんなの、ホントにもう」

 ルカ、テーブルの上の特製ドリンクを一気に飲み干す。

ルカ  「まずっ!」

 暗転。トイレ内の菜々美に照明が当たる。

 イライラした様子でスマホを耳に当てる菜々美。

菜々美 「タケル! ……よかった、やっと繋がった。……ちょっと、どういうことなの? あたしと別れるって。いつもの悪い冗談だよね? ……え? 冗談じゃないって? なにいってるの? ……好きな人ができた? ふざけないで。あたしが『はい、わかりました』って素直に従うとでも思った? ……ねえ、タケル。あたしのなにが不満なの? 気に入らないところは全部直すから。だから、そんなこといわないで……イヤ! イヤだよ、そんなの。あたし、絶対に別れないからね。……ダメ! 切らないで、タケル! 切ったら、後悔するわよ。……タケルが浮気してることは、とっくにわかってた。こっそり二人のあとをつけて、タケルの浮気相手のことも全部調べちゃったんだからね」

 上手から麻里と茜が登場。店内へ入ってくる(以降、店内のドアが開くたびにドアベルがチリンとなる)。

 落ちこんだ様子の麻里。麻里を励ます茜。

翔子  「いらっしゃい」

   「ママ。いつものやつ、ください」

 カウンターに座る麻里と茜。

翔子  「あら、麻里ちゃん。普段から全然元気じゃないけど、今日はいつにもまして元気なさすぎ。なにがあった? まるで幽霊みたいだよ」

麻里  「幽霊……幽霊のほうがまだマシですよ。はあ…… ♪オバケにゃ学校も~試験もなんにもない。私も仕事もなんにもない世界に行きたい……」

翔子  「わかった。また仕事でミスしたんだ」

   「正解」

翔子  「今日はなにをやらかしちゃったわけ?」

   「私もさっき話を聞いたばかりだから、詳しいことはよくわからないんだけど、取引先の人とトラブルがあって、上司にさんざん説教をくらったんだって」

翔子  「なんだ、そんなこと? まだ若いんだからさ。ちょっとした失敗なんていくらでもあるに決まってるじゃない。気にしない、気にしない」

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?