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アンラッキーガール 11

1 バー〈孔雀〉(承前)

佳穂  「お客様。かわいい佳穂ちゃんにご注文をどうぞ」

キサラギ「ミーはマティーニを。ベルモットは少なめに。オリーブは抜いてもらえますか?」

サツキ 「じゃあ、私はギムレットで。コーディアルライムではなく、ライムを絞って、ホワイトキュラソーで甘味をつけてくれ」

佳穂  「えっと……(注文がまるでわからず戸惑いながら)せっかくですから、当店イチオシのカクテルを飲んでみません?」

キサラギ 「断る。お酒はマティーニしか飲まないので」

サツキ  「私もギムレットでなければダメだ。早く持ってこい」

佳穂  「佳穂ちゃん特製カクテル、おいしいんだけどなあ」

サツキ 「うるさい。早くしろ。殺されたいのか」

佳穂  「は、はい。すぐに持ってきます! (慌ててカウンターに戻り)ママー、佳穂、殺されちゃうよお」

翔子  「ほら見てごらん。ろくな客じゃないだろ?」

佳穂  「どうしよう? なんかよくわからない飲み物を注文してきたんだけど。ま、ま、マタニティーのウォシュレット?」

翔子  「マティーニとギムレットね。大丈夫。注文はあたしもちゃんと聞いてたから」

佳穂  「さすがママ」

翔子  「カクテルはあたしが作るから、あんたはあのお客さんが機嫌を損ねて暴れ出さないように、しっかりと見張っててちょうだい」

佳穂  「うわあ。なんか刑事ドラマみたいでカッコいい! では警部、行ってまいります」

 佳穂、張り込みする刑事の真似をしながら、キサラギとサツキの周りをうろうろし始める。

キサラギ「(天井を指差し)上のフロアのどこかに、ミスターエックスはいるはずだ」

サツキ 「世界を動かす権力者が、こんな薄汚いビルでなにをやっているんでしょう?」

キサラギ「アイドンノー。そこまではグランドマスターも教えてくれなかった」

サツキ 「(佳穂を手招きして)おい、おまえ」

佳穂  「(自分の顔を指差して)え? 佳穂?」

サツキ 「この上のフロアにはなにがある?」

佳穂  「二階はサイゼリア、三階はブックオフ、四階はしまむら……このビル、安さならどこにも負けないよ」

キサラギ「サイゼリア……ブックオフ……シマムラ……聞いたことのない名前ばかりだ」

サツキ 「秘密組織の本部でしょうか?」

佳穂  「あ。最近、五階にダイソーがオープンしたんだっけ」

キサラギ「……ダイソー?」

佳穂  「ええ? お客さん、ダイソーを知らないのお? 百均だよお」

サツキ 「ファッキン? (激高して)貴様! 我々を侮辱するのか!」

キサラギ「やめろ、サツキ!」

佳穂  「きゃあっ! 佳穂があまりにもかわいすぎるからって喧嘩はやめてえっ!」

 カウンターへ逃げ帰ってくる佳穂。

サツキ 「あいつ。本気で殺してやりたい」

キサラギ「ビークワイエット! 落ち着け、サツキ。(サツキに顔を寄せて)サイゼリア、ブックオフ、シマムラ、ダイソー……どうやら、このビルには各国の秘密組織の本部が集まっているらしい。一刻も早く破壊したほうがいいだろう。今すぐトイレに爆弾を仕掛けてこい」

サツキ 「わかりました、キサラギ殿」

 トイレへ移動するサツキ。爆弾設置の作業を始める。

 ルカ、席を離れて店の隅(客席側)へ。

ルカ  「……ヤバい。ずっと聞き耳を立ててたけど、あいつら、この店に爆弾を仕掛けてビルごと爆破するつもりだ。(スマホを取り出して)すぐに警察を呼ばなくっちゃ」

 警察に電話をかけるルカ。ルカの行動に気づいたキサラギが、そっと彼女に近づいていく。

 爆弾を設置し終えたサツキが店内に戻ってくる。

サツキ 「キサラギ殿。準備完了です」

 サツキの声で振り返るルカ。同時にキサラギが銃を取り出し、銃口をルカに向ける。

つづく

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