教師として身に付けたい「才能はみだしっ子」の育て方
みなさんは、「ギフテッド・チルドレン」と呼ばれる子どもたちをご存知でしょうか?
海外では、1つまたはいくつかの分野に突出した才能をもつ子どもたちのことを、ギフテッド・チルドレンと呼びます。ギフテッド・チルドレンの特徴を簡潔にまとめると以下のような特徴があります。
・関心のある分野に人並み外れた知識をもったり、能力を発揮したりする。
・その分野とは、IQだけでは測りきれないほど広い分野である。
・頭がすごくよいというだけでなく、とても複雑である。
・何でも万能というわけではなく、関心のない分野は年齢相応、もしくは年齢よりも幼く見える。
・とても敏感、繊細で傷つきやすい心をもっている。
・軽度の発達障害の傾向を併せもつ子どももいる。
どうでしょう?小学校のクラスを見渡してみると、このような特徴をもつ子どもたちの顔が一人、また一人と浮かんでくるのではないでしょうか?
➣「才能はみだしっ子」とは
世界ギフテッド&タレンティッド・チルドレン協議会 日本代表の酒井由紀子さんは、このような特徴のあるギフテッド・チルドレンを「才能はみだしっ子」と呼んでいます。この呼び名には、突出した才能を持ち合わせているがゆえに、標準的な教育という「箱」に収まらず、思わずはみ出してしまう個性をもった子どもたちへの思いが込められているそうです。
僕は「才能はみだしっ子」という何ともかわいらしくユーモアのある呼び名と、温かい雰囲気に心惹かれ、酒井由紀子さんの著書「才能はみだしっ子の育て方」を手に取りました。
才能はみだしっ子は、好きなことをまっしぐらに追究するあまり、周りが見えなくなったり、友達と感覚が合わなくて浮いてしまったりすることがあります。自分の能力が生かせず、周りからも理解してもらえない孤独感から不登校や引きこもりになる子も少なくないようです。
学校の先生であれば想像がつくかもしれませんが、才能はみだしっ子は、時に強いこだわりを見せ、担任の先生との折り合いのつけ所に苦労します。いつまでも折り合いがつかないと、学級経営の悩みの種になってしまったり、その子にばかり気を取られ、他の子が落ち着かなくなったりしてしまいます。
僕の肌感覚では、クラスに1~3人くらいはいる才能はみだしっ子は学級経営のキーマンであり、「才能はみだしっ子を制する者は、学級を制す」なんてことを言いたくなってしまうくらい、うまく対応していきたい子どもの一人だと感じています。
才能はみだしっ子を理解し、うまく学級に取り込んでいくために、教師として何ができるのでしょうか?
本書からたくさんのヒントを得ることができたので、自分なりの見解も入れながらまとめていきます。
➣教師として身に付けたい才能はみだしっ子の育て方
①才能はみだしっ子を見つける目を養う
著者の酒井さんは、本書の中で、
才能はみだしっ子はあなたのそばにもきっといます。いままでは知らなかったから見えなかったけど、あると知ったら目に飛び込んでくる「四葉のクローバー」のような存在を見つけてあげましょう。
と語られています。本書で綴られている言葉の端々に、こうした才能はみだしっ子への思いの温かさを感じることができます。
才能はみだしっ子を見つけるのは、彼らを特別視するのとは違います。子どもたちの特性を見ることで、すべての子どもがもつ個性と多様性を理解する心が養われるということです。その中で、それぞれの個性に合う支援の仕方を見つけていく姿勢が大切であると思います。
②才能のある分野を一緒に楽しむ
生き物、鉄道、本、自然災害、地図…。僕が出会った才能はみだしっ子の得意分野は多岐に渡ります。授業で彼らの好きな話題になると、教師よりもすごい知識で語り始め、止まらなくなるということもしばしば。周りの子がついていけず、困った経験のある先生もお見えではないでしょうか。
才能はみだしっ子は繊細で傷つきやすい心をもっているので、突拍子のない意見や考えをもった時でも、できるだけその考えを否定せずに受け入れることが大切になります。さらには、「その考えは他の子もしていないかな」「みんなの意見も聞いてみよう」など、考えを深めるような質問を投げかけると、才能はみだしっ子は自らの関心をさらに深めることができます。ほかの子の意見を聞くことによって学びを深める、という経験を積んでいきましょう。
③苦手な分野は一緒にルールを作ってチャレンジ
好きなことをとことん追求したい才能はみだしっ子は、苦手なことにはまったくといっていいほど関心がなく、やろうとしないことがあります。それでも学校生活の中で、どうしてもやらなくてはいけないこともあるでしょう。
ポイントは、才能はみだしっ子の機嫌がいい時に、落ち着いて理論的に説明しながら話し合うことです。その際に、お互いのやりたいこと、やって欲しいことを伝え、お互いにハッピーになれるにはどうしたらいいのかを一緒に考えます。特に、好きな分野を伸ばすことで、苦手な分野を克服する必要感が増してくるという指導観は、とても重要な見方であると思いました。
④環境に配慮する
音、光、においなど、強烈な刺激を嫌がる才能はみだしっ子は多いです。学校で我慢しすぎて、帰宅後に家で暴れたり、何も手につかず眠りに落ちたりしてしまう才能はみだしっ子もいるようです。
このような刺激を嫌だと思っているのは、もしかしたら才能はみだしっ子だけではないかもしれません。一人への合理的配慮が、クラスみんなへの配慮になるという視点をもって、支援の仕方を考えていくとよいのではないでしょうか。
➣新しい学校のカタチを探るヒントに
みんな同じに、1つの教育の枠に押し込める日本の学校の「箱」に、今もなお押し込めようとされ、苦しんでいる才能はみだしっ子たちが、日本中にはたくさんいるのではないでしょうか。筆者は本書の中で、
普通の子どもに近づけるということは、個性という出っ張りがある才能はみだしっ子を「普通」という基準でつくった箱に押し込めるような行為だ
と述べています。
普通という「箱」に収まりきらない才能はみだしっ子に対して、どのように対応するかを考えることは、新しい学校のカタチを探る1つのヒントとなるでしょう。
今、多くの場で、子どもたちの多様性に応じ、一人ひとりの違いに合わせた学び方を実現できる学校が求められています。このような大きな変化について、教師一人ひとりが教育観を新しくアップデートしていくことも必要なのではないでしょうか。
才能はみだしっ子には、従来の学校にこうした大きな変化をもたらしてくれる可能性を感じました。教育に関心がある方は、才能はみだしっ子と学校という「箱」について考えてみてはいかがでしょうか。
著者の酒井由紀子さんが運営するnoteには、「才能はみだしっ子の仲間たち」と題して、酒井さんがインタビューをされた方々の事例が紹介されています。よろしければ、そちらもぜひご覧ください。
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