初めまして、くろと申します
臨床4年目、回復期リハビリテーション勤務の作業療法士です。
今回は、半側空間無視の対象者の気づきと介入について述べていきたいと思います。
半側空間無視は右半球の損傷で頻繁にみられます。
病巣の対側に症状が生じるとされています。
病識が得づらく、指摘されて気づくことが多いとされています。
今回は”気づき”と、半側空間無視への介入の種類等についてまとめていきます。
・”気づきの障害は、障害の性質や程度、障害が与える影響への理解が乏しくなり、リハビリテーションへの抵抗や代償手段獲得の拒否につながり、実施を妨げる要因になる”と報告されています。
・気づきの欠如は、それ自体が半側空間無視を持続させる要因となります。
・まずは本人の自覚を促し、気づきを高めることが重要で、
無視患者の気づきを高めることで、行動の最適化に繋がります。
気づきは、修正行動への第1歩で、修正行動につなげるために様々な段階があります。
気づきが得られないと何度も同じ失敗を繰り返します。
そのため、”気づき”について症状や見落としのフィードバックや、そこからどんな障害、生活のしづらさに繋がっていくのか、話し合うことも必要だと感じます。
勿論、フィードバックすることで抑うつや不安感の増加につながる可能性もあるので、慎重に、かつ丁寧に行う必要があります。
気づきの段階についてです。
①知的気づき
・障害に関する知識としての自覚
②体験的気づき
・自分の体験と知識が結びつき、障害が自分に存在しているという自覚
③予測的気づき
・障害が生じないよう予測し対処する自覚
※臨床では気づいていない段階の患者も多く存在します。
段階に応じて、気づきを促すことで、他者からの指摘による修正ではなく、自分で予測して事前に対処する、疲労や非無視側の見落としが生じる可能性もありますが、代償戦略をとるなどの行動が選択できます。
まずは気づいていない段階から知的気づきについてです。
まずは、半側空間無視の症状について知っていただくことが必要になります。
”自分は左側(無視側)に注意が向きにくい”と、気づくことが重要です。
次は、知的気づきから、体験的気づきへ、についてです。
どれだけ理解できていても、無視側の忘れや障害物が認識できないなどの症状はよく生じると考えられます。
対象者に起こった体験で気づくことが必要になります。
次は体験的気づきから予測的気づきについてです。
予測的気づきは、左側の物を忘れやすいから、左側を確認しよう。など、障害を事前に予測し、対処できる自覚です。
これを得るためには、結果の予測と、適切な行動の立案が必要となります。
日常生活では、この手段を常に意識する必要があります。
気づきを促すための方法として、
自発的に気付くことが挙げられます。
これは、今まで意識していなかった行動に目を向ける必要があります。
そのため、動画を見せたり、チェックリストを作るなど、意識を向けていく必要があります。
自発的に気付くことは、他者からの気づきより内省が得られやすいとされています。
特に、大切なことなど関心が高い場面で生じやすいとされています。
そのため、興味がある活動や、ADL、今まで行っていたIADLや趣味、仕事など自分に関連した場面設定をすると気づきが得られやすいと考えられます。
”他者から指摘されて気づく”
ほとんどは、他者からの指摘で気づくことが多いと考えられます。
指摘する際は、気分を害する場合があること、不安や抑うつになる可能性があることなど、患者様それぞれに対して信頼性を失わないような指摘が必要になります。
気づきを促すための方法として、”ビデオフィードバック”が挙げられます。
この研究では、ビデオフィードバックと、言葉のフィードバックを比較しています。ビデオフィードバック群ではBTTは改善がみられたが、他の課題での改善はみられませんでした。
効果はあったとされていますが、他の課題への般化は難しいようです。
これは、BTTの場面を撮影し、フィードバックを行っているため、撮影した動画で行っていた課題に効果がみられており、関心のある活動やADL、IADLなどを用いることで結果が変わる可能性があります。
※BTT(baking tray task)とは?(75 × 100 cm のボード上に 16 個の立方体を「ベーキングトレイ上のパンであるかのように」できるだけ均等に広げるもの)
次は”意味のある作業のなかで気づきを促す”ことについてです。
・USN患者4人に、意味のある作業を行い、前後の予測と振り返り
により気づきを促し、代償方法を検討させた研究では、4人全員に気づきの改善がみられ、3 人に半側空間無視の改善がみられた。とされています。
やはり、関心のある活動では気づきやすく、また、能動的になりやすいのではないかと考えられます。
次は”あえて失敗させる”ことについてです。
失敗に対する意識が低い場合、失敗体験をさせることも有効であるとされています。
より適切な気づきをうながすため、ただの失敗体験だけにならないようにするためにも、セラピストと一緒に考えることが重要であると考えられます。
ネガティブな指摘は、ネガティブな感情と繋がり、信頼関係を損ねることもあります。
そのため、左側へ注意を向けて行動できた時には、正のFBを与えることも重要です。
他にも、無視側を向かせるような仕掛けを考えること、声をかける方向(無視側から)を考えることも介入の一つとされています。
また、右側へ注意が引き寄せられるような場合もあるため、右側にあるもの(ディストラクタ)を除去することも有効です。
徐々に除去することで左側へ注意を移動できる場合もあります。
左側へ目印を与えることも有効とされています。
目立つようにテープを貼ったり、車いすのブレーキを延長したり、その時々、患者様によって目印を変えてアプローチします。
左側に好きなものを置いたり、動作を左側から先に行うようにすることで、注意が向きやすくなり、習慣化にもつながります。
左側の見落としは、無意識に行われていることがほとんどなため、フィードバックが必要になります。
自己教示法も、動作や活動 の前に行うことでその行動時に左側を意識しやすくなると考えられます。
これは様々な障害に使用されています。
番号を振りながら行うことで見落としが減少することが報告されており、動機づけや注意の持続性、発動性などを向上させると考えられています。
また、探索する個数をあらかじめ伝えることも有効です。
数えながら行うことで探索活動の持続がしやすくなると考えられます。
見直しを促すことは、虫の軽減を導く可能性があると報告されています。
実際、注意障害の方も見直しをすることでミスを見つけることができたり、気づきを得られます。
半側空間無視も同じように見落としを見つけられるかもしれません。
上肢の他動運動など、視覚以外の感覚を刺激しながら行うと、視線を向けやすいとされています。
重度なほど、視覚以外からの介入が有効とされています。
・動機づけを高めることが、半側空間無視の軽減に結びつく。
・線分抹消試験の標的を見つけるたびに小銭を与えることで、
課題の改善を認めたと報告している。
このことから、動機づけがされるほど、探索活動の強化・意欲の向上が図れるため、有効であると考えられます。
”患者自らの戦略を活かす”
患者様が自ら工夫した戦略を用いることで、モチベーション、意欲の持続が図りやすく、主観的な考え方により、注意も向けやすいと考えられます。
患者様の方法で日常生活を送る方が能動的で、かつ注意もしやすいのかもしれません。
半側空間無視の治療の推奨では、行動療法やVR、非侵襲刺激や薬物療法、ロボット療法やプリズム適応課題など、様々な治療が推奨されています。
注意にも随意的/不随意的なアプローチがあるように、半側空間無視についても随意的/不随意的なアプローチがあります。
これについては、患者様がどんな半側空間無視のタイプであるのか、何が有効なのか評価し考えながら行う必要があります。
・米国のAHA/ASAガイドラインでは、
トップダウン/ボトムアップを繰り返し行うことを推奨しています
・脳卒中ガイドラインでは、
rTMS、tDCS、視覚探索、プリズム順応課題が妥当とされています
次は覚醒との関係についてです。
覚醒が向上することで持続性注意が改善され、半側空間無視の軽減に役立ちます。
覚醒度が低い場合、様々な感覚を入力することが基本となります。
どんな入力も、網様体賦活系を賦活する点では共通しています。
覚醒レベルの向上に向けて、病巣なども加味したうえでどのような刺激を与えればよいか探ることも必要となります。
・右半球の
→後方損傷では視覚探索課題を、
→前方損傷では右空間からの刺激を与える
ことが有効とされています。
覚醒状態が低下している場合、可能な限り離床を進めることも必要です。
車いす座位では、背面開放座位など足底からの感覚刺激も有用です
腹臥位療法では、十分な注意が必要ですが、視床下部を刺激し、意識障害、運動麻痺、意欲低下などの改善、生理機能の正常化に有用といわれています。
高照度光療法では、自律神経に影響を与え、交感神経を活性化し、血圧・体温を上昇させ覚醒を促すことができます。
注意として、身体ではなく眼に光を与えることがあります。
また、太陽光を浴びることで覚醒改善の効果が期待できます。
時間が空いた時などに外気浴を行うのも効果的と考えられます。
次は、受動的刺激についてです。
まずは、聴覚刺激についてです。
・会話など、聴覚的な刺激入力は覚醒を促します。できるだけ応答を求めるように話しかけ、生活史・個人的背景からどんな会話に興味があるか事前に把握することが大切です。
興味がある会話は、覚醒を向上させる聴覚的な刺激にもなります。
・音楽療法では、病前好んでいた曲やテンポのよい曲が有効で、覚醒が促されること、右半球の血流増加や脳代謝賦活がが報告されています。
→受動的音楽療法音楽を「聴く」ことに重点をおいたもの
→能動的音楽療法音楽に合わせて身体的動きを組み合わせる
これは、後者のほうが覚醒の向上には有効とされています。
次に視覚刺激について話していきます。
覚醒レベルが低下している方では、閉眼することが多くなります。
できるだけ多くの視覚刺激を与え、覚醒を促す必要があります。
非無視空間から入力し、発症早期から適切なリスク管理を行いながら座位や立位を取ることが大切です。
顔の清拭や手洗いなどの温冷刺激は、覚醒を向上させます。
特に冷たい水が疼痛に似た刺激となり覚醒を高めるようです。
高血圧や心疾患などがある場合、注意が必要なため、(リハ自体医師の指示のもとですが、)医師の指示のもとに行うことが良いと考えられます。
USNの対象者への後頸部筋の電気刺激は覚醒レベルの向上・全般性注意や方向性注意の改善がみられたとされています。
長期効果はみられなかったため、介入開始時等に合わせて行う方が導入しやすいと考えられます。
・無視側上下肢への他動的ROM訓練も、覚醒を促す感覚刺激となります。
・ROM訓練を行うために触れることが、触覚の感覚入力となり、他動的に関節を動かすことで筋・腱紡錘を介した刺激となり、覚醒が向上するとされています。
・訓練中に話しかけ、患者の応答を求めるとさらに効果が期待できると考えられます。
・プリズム順応課題は、ガイドラインでも推奨された治療法で、長く効果が持続します。
即時性や持続性の面で最も効果的であり、車いす駆動や歩行時のUSN症状にも効果的であるとされています。
しかし、物体中心無視に関しては効果が乏しいとの報告もあります
後部頭頂葉にrTMS を繰り返し与え、刺激側の活動性を変化させ、空間性注意機能の不均衡を軽減させる介入で、こちらもガイドラインに推奨された介入です。
両半球とも、この刺激で改善傾向が示されています。
水平方向に移動する視覚刺激を使って行います。
右→左へと眼で追うように刺激を提示し無視方向へ注意を向ける介入です。
1日40分、5回の実施で2週間の間効果が持続したとされています。
次は能動的刺激について話していきます。
覚醒レベルの低下がある場合、座位でのリハ効果が期待できない場合があります。
早期の長下肢装具による歩行で覚醒が向上したことが報告されており、早期から積極的な立位や歩行が推奨されています。
立位の中でも、上肢の反応を引き出す様な介入は、覚醒の向上だkでなく無視側への注意の改善にもつながります。
視覚走査課題は、無視側へ目線を向けさせることによって、症状の改善を図る方法です。
使用される手がかりは、症状の改善に合わせて段階的に減らし、徐々に手がかりなしで左方探索ができるように手がかりの提示に工夫がされています。
左上肢の賦活課題とは、無視側の手を使用することで症状の改善を図るものです。
右半側空間無視であれば右上肢です。
ボタンを押す動作を繰り返すことで、症状改善が期待できます。
無視側の手を動かす時は、動かさない時に比べてより多くの抹消が可能と報告されています。
無視側に手を置いた条件のみに効果が認められています。
両眼の右半側視野に対する遮蔽法とは、眼鏡の左右のレンズの右側 (病巣と同側)に黒色のテープを貼り、視覚の一部を遮断し、無視側からの情報のみで課題を行うものです。
遮蔽により半球の活動抑制と、CI療法ににた要素が症状改善に寄与すると考えられています。
装着期間は、
・Beisの研究では1日平均12時間、3か月
・lanesの研究では1日8時間で15日
となっており、長期的に使用しています。
その他の介入方法としては、下記のもの等があります。
・頸部筋振動刺激
頸部筋の振動は、振動した筋が伸びている様に錯覚させる固有受容覚への効果があるとされています。
・視運動学的刺激(OKS)
患者が自分の身体の位置を変えると仮定して、大きな視覚ディスプレイ上の動きを使って、空間における自分の身体の位置の知覚を変化させるもの。
・冷水前庭刺激(CVS)
対側の耳に冷水、同側の耳に温水を使って、前庭系の水平外耳道を刺激し、眼振を誘発する。
・電気前庭刺激
患者の乳様突起に電極を配置して行う前庭系の電気刺激。
USN症状に対する治療介入方法の問題点として、
①同一の治療方法であっても、効果は患者によって異なる
②介入効果の現れ方が、採用した評価方法によって異なる
③治療介入方法の実施条件 回数・頻度、期間・その後の訓練内容 により、異なる結果が得られる可能性がある。
④単一の介入、複数の介入を組み合わせた治療で、効果の有効性が明らかではない。
ことが挙げられています。
・個々の患者を丁寧に評価し、それぞれ認められる症状の特徴を
把握しそれと介入効果の関係を検討する必要があると考えられます
まとめです。
直接ADLに介入することは効率的だと考えられます。
その際、動作手順を示すだけでなく、個人個人の困難さに合わせながら介助しつつ、介助量を減らしていき、介助量軽減を目指す必要があります。
訓練の中でも、疾患特異的な治療ではなく、ADLやIADL、仕事、
社会参加などに般化しやすいような介入ができることが理想だと考えます。
そして、対象者が自分で気づき、修正し、1人で活動できるように支援していくことが必要であると考えます。
おわりに
いかがだったでしょうか。
ご覧になっていただき、ありがとうございました。
半側空間無視についての気づきと介入について投稿しました。
次回以降のADLへの介入、IADLの介入、予後予測と最近の研究についても、また、よろしくお願いいたします。