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化粧は何のためにするのか、ふと気づいたお話。

百貨店の一階のフロアで。ドラッグストアで。いつも不思議に思うことがある。世の中の女子たちはなんでこんなにメイク道具が好きなんだろう。キラキラ輝く口紅一本5000円。色とりどりの香水一本8000円。凝った装飾のファンデーション、ひとつ1万円。私はこれを、高いなあと思う。このうちいくらが原価で、いくらが広告費なんだろう。パッケージにいくらかかってるんだろう。商品イメージ以外にそんなに大きな違いがあるんだろうか。全部「ちふれ」で揃えて節約していたら、1年で海外にいけるんじゃないか。モノより経験を買いたい私は、こう考えてしまう。

私は元来、化粧と言うものがあまり好きではない。一時期自分の中で化粧欲が盛り上がって頑張ってみようとしたことはあるしメイクアップ講座などもひと通りいってみたが、なんというか私の顔はいまいち化粧映えしなかった。奥二重の目にせっせとアイラインを引いてもいつの間にか下の瞼に落ちてしまったし、マスカラをしてもまつげが下がっていていまいち変わらなかった。私が無意識に唇を噛んでいるのか何なのか、口紅を付けてもすぐ色が落ちてしまうし、ノーズシャドウやハイライトをいれても、今一つ顔に立体感が生まれなかった。何より私がものぐさで、眠い朝から30分や一時間もかけてメイクをするなら寝たいと心底思ったし、メイクの研究も一瞬で飽きてしまった。生まれ持った肌にいろいろ塗りつけて表面を整えることで、長期的に素肌がダメージを受けたり、目にマスカラが入って痛めたりするというのも私のポリシーに反した。

そのうち私は、自分の顔生活について「素肌を鍛える」ことをポリシーとした。大学生のころ肌荒れが気になり、あれこれ試しまくって最終的に悟ったのだが、人の肌は本来本当に強い。いろいろ凝った無添加化粧品を使ったり、ほにゃらら成分配合の洗顔フォームを使ってせっせと洗ったり、なんとか美容液を幾重にも塗ったりピーリングしたりパックをしたりしても、一時的に肌の調子が良くなった気はするが、実は肌は薄く弱くなり、荒れやすくなってしまう。朝は水のみで洗顔、メイクは薄く、夜は入念にクリームクレンジングでメイクを落とし、洗顔は洗顔フォームでなく無添加の石鹸を使い、化粧水は成分がシンプルなものを変えずに長く使う。ピーリングやパックは一切行わない。長期的にはこれを続けているほうが肌荒れはなくなり、きめ細やかになってくる。メイクは簡易に、ケアはシンプルに。そしてもちろん、十分な睡眠とバランスの良い食事に気を付ける。メイク技術を高めることより、これに注力して続けて年をとってもすっぴんで出歩けるくらい、きれいな肌を目指すことにした。

さすがに会社ではメイクは最低限のマナーだろうと、BBクリームを活用し、超時短シンプルメイクを行った。朝にちゃちゃっとするか、出社して化粧室で10分足らずで顔を作った。去年外国人ばかりの今の部署に移ってからは、ヨーロッパ人もアメリカ人もみなメイクをしないので、私もなんだかそれに慣れてきて、内勤で顧客に会うことがないのもあり、いつの間にか、会議がない限りすっぴんで出社しすっぴんで帰る人間となった。すっぴんを鍛えておいてよかった。なんてらくちん生活。

ところで私はキラキラしたものが好きである。ガラスの小物も大好きだが、最近ハマったのはセーラームーンのおもちゃたち。ガチャガチャ向けのセーラー戦士のブローチにブックオフで出会い衝動買いをしてから、リアルタイムでアニメを見ていた小学生の頃の憧れが今頃噴出し、メルカリとAmazonで、ブローチやらスティックやらを狂ったように買いそろえた。昔の私には手が届かなかった憧れのグッズたちが今なら買える。5000円のスティックなんてクリスマスにねだるほかなかったが、今ならマッサージを1回減らせば買える。昭和末期生まれ30代働く未婚女性、ターゲットど真ん中の私はメーカーたちの思惑にすっかりはまり、日々何かに取り憑かれたように、メルカリで価格をチェックし、気になるグッズをせっせと買い揃え、机に並べて飾った。

そんな時期に、薬局でセーラームーンコラボのリップに出会った。セーラームーンのハートのスティックの形をしたリップ。ピンク色がキラキラしていて上には王冠が輝き、可愛すぎた。定価だし、迷わず即購入である。鞄にしのばせ、カフェで休む時は意味もなく机に取り出して眺めた。リップを付けるたびにセーラー戦士に変身したような気がして、テンションが上がった。

そして、はっと気づいた。なぜ世の中の女子たちがあんなにメイクに情熱を燃やすのかを。あんなにカワイイいい香りのメイク道具に熱狂するのかを。

世の中の女子たちは、キラキラしたメイク道具で「ムーン・プリズムパワー、メイクアップ!」をしているのだ。

(念のために書き添えると、これは、セーラームーンが月野うさぎという一女子中学生から変身するときの掛け声[呪文?]である。)

キラキラかわいい、宝石箱のようなメイク道具。セーラームーンみたいにきれいで素敵な女優さんたちが広告している、いい香りのする素敵なもの。常に携行し、仕事にいく前に、デート前に、これでメイクをしてかわいい自分に変身する。テンションを上げて、戦場に向かうのだ。女は弱い。男みたいに筋肉もないし身長もないし、月のものがある分メンタルも不安定だ。男性と対峙するのは、潜在的に勇気のいることだ。物理的に戦っても勝てない。セクハラやナンパの対象になることもある。メイクで心を強くして、メイク「アップ」して自分を上げて、身を守るのだ。

メイクはもともと魔除けの意味があったともいう。漫画などで、邪馬台国のシャーマン、女王卑弥呼も顔にいろいろペイントをしているし、勾玉などのアクセサリーも多くぶら下げている。一説によると、恐山のイタコに代表されるように、女性は何かと霊媒になりやすく、つまり憑りつかれやすいという。潜在的にそれを感じ取っていた日本人女性は、念を込めた化粧や宝石で、身を守った。

確かに振り返ってみても、見た目に気を遣っていない時期は、変な人に絡まれたり変なナンパやセクハラに遭うことが多かった。きちんとした服装をして、気合を入れてメイクをすると、「魔」に遭いづらい。女性として人としてきちんとして扱ってもらえることが、増える(見た目で態度を変える奴がイケてないのは、言うまでもないが…)。

若い子を中心に、最近は男の子もメイクをする人が増えているという。私の友達の20代のあるメンズも、メイクをして髪の毛は時期によって紫や青などに染めて、さながらアイドルのようだ。いわゆる女子力が高い。テンションを上げるために、魔除けのために、防御力と回避力を上げるためにメイクをするのは男女構わず有効だ。

今はコロナ対策でマスクをするので、街中に出ようがなんだろうが、私はずっとすっぴんである。メイクするのは人と会うなど特別なことがある日だけだ。素肌を鍛える独特のポリシーも変わらない。でもこれから、精神的にきつい会議やプレゼンがある時とか、仕事のモチベーションが上がらない時とか、なんとなく気持ちがふさいでいる時は、ムーンプリズムパワーメイクアップをして、メイクの魔力の力を借りようかな。そう思ったのだった。

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