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【取次制度黙示録 ②-1】出版配送網の維持は誰のため?

299億円の負担増が必要な出版物流

日本出版取次協会が2024年7月23日に行った説明会「出版配送の現況と課題~日本の物流を取り巻く環境変化~」の内容が報道されている。

取次協会さん、今回は気合が入っているのか当日の説明会の配信を行い当日の資料まで公開されている。

http://www.torikyo.jp/topics/news-release/20240724/file.pdf

ただ、見やすい資料ではないので(笑)、概略するとこんな感じだ。

  • 政府の指針に沿って運送会社から大幅な運賃値上げを提示された

  • 雑誌と書籍を併せて届ける出版物流網は日本独自のもの

  • いままでの出版物流の運賃は安すぎた

  • 再販制度下では取次も書店も上昇コストを価格転嫁できない

  • 出版社に負担増して貰わないと出版物流がハードクラッシュしかねない

  • 本要請については事前に公正取引委員会に確認している→違法性はない

以上な感じで資料上で力説されてますが、大筋では昨今、他の業界でも良く聞く話ではある。
因みに直近の運賃事績が年間272億円で、国交省の示す標準運賃にすると571億円で差額の299億円が負担増分との内訳。(資料P32より)
え、2倍以上の運賃になるの?
逆に今までの運賃は運送会社さんを虐げるような悪条件だったということ??取次って運送会社さんを搾取するようなヒドイ会社だったの?

届かない紙の新聞

出版業界と同じような境遇の他業界がある。
新聞だ。
最近、夕刊の廃止や全国紙の一部地での刊行取りやめが話題になっている。
因みに数少ない『再販制度』仲間でもある。

上記リンク先の番組内では

  • 紙新聞を読む高齢者に合わせて新聞記事の内容が『浅く』なっている

  • 新聞自体が自分たちの役割を見直したり、価値観をアップデートできていないことが一番の問題

  • 40年間全く変わっていない業界はメディアだけ

等々の厳しい指摘がなされているが、出版業界でも、ほぼ同じことが当てはまる。
さてこの新聞の境遇に関する議論と冒頭の取次協会の説明会。
総論は同じような問題なのだが、大きく異なる部分がある。お気づきだろうか?

雑誌ってこれからも必要ですか?

新聞にしても出版物流にしても、問題の端緒はコスト高により物流網の維持が困難になっていることだが、新聞の議論では、その存在価値、必要性からコンテンツ自体の内容、ビジネスモデルに至る迄幅広い角度視野からの指摘、問題提起がなされている。
対して、取次協会の説明資料では、ひたすら負担増の理由とその合法性の主張に終始して、出版社に負担増を依頼するのみ。
現在の出版流通の現状、すなわち販売高減、高い返品率、書店減少、CVSでの雑誌扱い店舗の減少等には根本的な問題には一切触れていない。
勿論一般向けのネット配信と業界内向けのいわば身内への資料との区分は異なるが、取次協会の資料には現状分析等は一切なく、コスト増の話と周辺環境の話しかない。
※あと何故か日本の出版流通を自慢する部分があるが、もちろんただの自惚れに過ぎない。。

仮に出版社が年間約300億円に上る負担増を受け入れたとしても、実は問題が何一つ改善するわけではない。
また維持した物流網を使って書店CVSに新刊を送品しても雑誌は50%近く、書籍も40%近くが返品されてしまう。そして雑誌書籍を扱う書店、CVSは今後も減り続ける。
書籍は返品されても商品価値は未だあるが、雑誌はほぼ全量がすぐに裁断されて古紙の元になるしかない。

どうやら取次協会はこんなビジネスモデルを検証することも議論することもなく、今後も継続するべきと考えているらしい。
何の改善の見込みも見返りもなく、下り坂の現状を維持するためだけに出版社側は約300億円の負担増を受け入れるのだろうか?

アップデートする社会、変わらない出版業界

昭和と呼ばれた時代では、皆が新聞を読み、TVを見て、雑誌で娯楽趣味情報を得る。ほとんどの人がそんな習慣をもつ時代も確かに存在した。
いま世の中で何が起こり、その状況に他の一般市民がどのような反応をしめしているのか?それを教えてくれるのが唯一メディア(新聞、TV、雑誌)であり、メディアは社会の状況、世間の話題を覗くことの出来る『窓』であった。

しかしネットワークが普及した現代では一般市民はスマホという『小さな窓』を携帯して日々暮らしている。時間も場所も関係なく、速報性でも新聞TV以上の利便性を誇る。
既存のメディアとの勝負は端から見えていた、と言って差し支えない。
さてこのような現代で『雑誌』の担う役割、意義はどんなものなんだ?

もちろん、個々にみると秀逸で価値のある独自の情報を発信する雑誌は数少ないが確かに存在する。だが『雑誌』である必要性はどこまであるのだろうか?
因みに冒頭の取次協会の資料では雑誌の特徴として
『定期的で⼤量発⾏が必要な雑誌』としている。(資料P8より)
定期的、大量発行いずれも昭和の高度成長期に必要とされた概念だ。
当時、雑誌の中では最速の発行周期で花形だった『週刊誌』は現在では月間雑誌以上のペースで売上が激減している。情報流通の加速化に伴い『週に一度発行する』ことの意味がほぼ無くなったのが原因だ。
同じロジックで新聞業界では『夕刊』が絶滅に瀕している。

折角なので、雑誌の話をもう少し深堀したいので次回に続きます。





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