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『号泣する準備はできていた』江國香織が描く、静かで淋しさがあふれる恋愛の短編集

「人生は恋愛の敵よ」

このフレーズを見た瞬間、『号泣する準備はできていた』を読んでよかったと思った。フレーズが持つ余白がすさまじい。

読書のたまらんところって、こういう出合いがあるところよね。何十年と使い続けてきた日本語なのに、まだまだ自分が知らない組み合わせがある。いちいち心動かされる瞬間がある。

江國香織さんの小説は、特に恋愛についてあれこれと考えてしまうタイプの人には、刺さるフレーズがいっぱいだと思う。

今回は、直木賞を受賞した短編集『号泣する準備はできていた』をご紹介します。有名だし、読んだことがある人も多いかな。



いくつもの恋愛の終わりを切り取った短編集


こちらの1冊には、表題作『号泣する準備はできていた』をはじめ、以下の短編が収録されています。

主人公は、既婚だったり独身だったり、年齢もバラバラ。なので、どこかしらにピタッとくるポイントがあるんじゃないかしら。

・前進、もしくは前進のように思われるもの
・じゃこじゃこのビスケット
・熱帯夜
・煙草配りガール
・溝
・こまつま
・洋一も来られれば良かったのにね
・住宅地
・どこでもない場所
・手
・号泣する準備はできていた
・そこなう

個人的に好みだった作品は、17歳の頃の、ちぐはぐで痛さが混じっていた恋愛を切り取った『じゃこじゃこのビスケット』、離婚前の夫婦の帰省を描いた『溝』の2つ。あなたも、ぜひお気に入りを見つけてみてね。

心をキリキリと刺されるような文章が散りばめられた作品がたくさん


しっとりとした、繊細で素敵なフレーズがたくさんあったので、内容の紹介代わりに載せておきます。作品全体の雰囲気が伝われば。

マンションに帰ったら、私たちはくっついて眠るだろう。たぶん今夜は性交はしない。ただぴったりくっついて眠るだろう。男も女も、犬も子供もいる世の中の片隅で。
――『熱帯夜』
「私たち一度は愛し合ったのに、不思議ねぇ。もう全然なんにも感じない」志保は言った。「ねぇ、どう思う?そのこと」
――『溝』
隆志は健康な魂を持っている。私はそれが好きだ。でも、一人の男をちゃんと好きでいようとするのは、途方もない大仕事だ。
――『号泣する準備はできていた』
私は新村さんが大好きなのだ。新村さん以外の人間は、男の人に思えないのだ。新村さんだけが私のいのちで人生で、ラブですべてなのだ。
――『そこなう』

恋の終わりを描いた作品をまとめた短編集ですが、読後は幸せな気持ちでいっぱいになった。これまでの自分のダメダメだった恋愛も、まるっと肯定される感じ。

ひとり静かに過去の恋を愛でたり、新しい恋に進むために今の自分をいたわったりしたいとき、読んでみてほしい。おすすめです。


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