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『レンタルなんもしない人のもっとなんもしなかった話』人に興味のない著者が引き出す人間ドラマ


NEWSの増田貴久さんでTVドラマ化もされた作品、『レンタルなんもしない人のもっとなんもしなかった話』をご紹介します。

タイトルそのまま、実在する「レンタルなんもしない人」によるTwitterでの活動記録のまとめ本です。良い意味で、かわいい表紙からは想像がつかないくらいの読み応え、期待値を大幅に超えてくる読後感。

最近読んだ中では、いちばん誰かに話したくなる類の本でした。

ところで、「レンタルなんもしない人」ってご存じでしょうか。

理系大学を卒業後、会社に就職。しかし、働くことに向いていないと感じて撤退。Twitterで「レンタルなんもしない人」というサービスを開始した男性です。

サービス内容はこれ以上でも以下でもないのですが、その依頼内容がとてもバラエティに富んでいて。

ツイートにあるようなゲームの人数合わせといったライトなものから、「あれ?TV番組の『ノンフィクション』見てたんだっけ?」と錯覚するくらいの人生ドラマにあふれる依頼もたくさん。

その人の人生がチラッとのぞく依頼の数々に、「『普通の人』という人は、世の中に1人もいないんだよなぁ」という当たり前のことを思い出させてくれる本。

著者の人への関心の無さが引き出す、依頼人の人間味


この手の本って、結構あると思うんです。

サービス提供者目線で、依頼人のことを語る類の。あくまで個人的な意見ですが、この本は、というかレンタルなんもしない人は、その中でも一線を画す存在だなと。

この方、とにかく他人に興味が無い。

だから事実だけがダイレクトに伝わってくる。この本は、著者の「かみ砕いて原型がわからなくなった経験談」でも、「自己顕示欲あふれるフィルターを通過した感想文」でもない。

淡々と、事実だけ。素材の味を、そのまま。「読者にこんな気づきを伝えたい!」みたいな、著者の自己顕示欲はいっさい介在しない。

これって、自己顕示欲の殴り合いという冷戦が日々繰り広げられているSNS時代には、すごいとだと思うのです。

いろいろあるけど、おすすめの1冊


ちなみに、先ほどの「レンタルなんもしない人」のTwitterをのぞくとわかるのですが、誰かのツイートにケンカを売るクセがある著者。お世辞にも好ましいとはいえないその行為で、たびたび炎上している。

著者には少しばかり「えーっ」って思うところがあるのに、本はとても気に入ったという経験は初めて。新しい経験ができたという点でも、この本は推したい。

後味濃厚。お風呂の中や通勤電車の中、ふと依頼内容を思い出しては、いろいろと考えを巡らせることのできる味わい深い1冊です。読み終わっても、しばらく美味しい。

どんなダイバーシティの本を読むより、どんな医学書を読むより、そういったことを考えさせられた、じんわりと響く1冊でした。これから読む方はぜひ、1冊めからどうぞ。


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