『ままならないから私とあなた』朝井リョウが放つ、価値観が乖離していく親友の物語
コロナ禍の今、価値観の違う人間にイライラしません?
そして、余裕のない自分にもっとイライラ。そんなあなたにおすすめしたいのが、朝井リョウさんの小説『ままならないから私とあなた』。
『桐島、部活やめるってよ』って聞いたことある人が多いかと思うのですが、それ書いた人の本です。
この『ままならないから私とあなた』もそうなんだけど、朝井さんは、正反対の価値観を持つ2人を登場させて、「どっちが正しいとか無いよね」ってことを言語化して、読者に柔軟な視点を持たせるのが上手い作家さんだと思う。
もしも、親友が正反対の価値観を持っていたら?
主人公の雪子(ユッコ)と、幼なじみの薫ちゃん。
無駄なことの中にかけがえのないものが宿ると考えるユッコと、無駄なことは省いて、効率化を追求することで可能性が広がると考える薫ちゃんを巡るお話。
子どもの頃からずっと仲良しのふたり。でも成長する過程で、価値観の違いが大きくなって……。中学生のとき、同級生に片思いをして苦しむユッコに薫ちゃんが放った言葉で、それが明確になっちゃうの。薫ちゃんは、片思いを「やめたほうがいいよ」「向いてないんじゃない?」って言い出す。これはキツい。
伝わらないかもしれない。
私は、昔からの親友に対して初めて、明確にそう思った。いや、本当はこれまでにも何度かそういうタイミングはあったかもしれないけれど、自分の心がやっと、素直にその感情を認めた気がした。
ご飯が食べられなくなるくらい、いっそ嫌いになってしまいたいくらい誰かを好きになる気持ちを、この人にどう説明すれば伝わるのかが、わからない。
でも、薫ちゃんには薫ちゃんの考えがあって、ユッコがつらいなら、片思いなんてやめたほうがいいって、純粋に思ってるだけ。向いてないことする必要ないよって、それだけ。
うーん、ままならない2人ね。
凝り固まった考えをほぐしてくれる物語
何十年も生きてきて、自分の価値観がある程度ブレなくなると、違う価値観を持つ人間が受け入れにくくなる気がする。
「自分の考えが正しい、相手の考えを正さないと」ってなりがちだけど、色んな価値観が存在するから、この世界があるのよね。わたしたちの世界には、日々新しい何かが生まれて、それぞれが影響しあって、育っていってる。
正しいか正しくないかなんて、立場によって変わる曖昧なものだし、異なる価値観を柔軟に吸収できる心を持っていたほうが、ぜったい楽しい。
そんな気持ちに気づかせてくれる作品です。
ちなみに、『ままならないから私とあなた』には『レンタル世界』という短編も収録されてます。ページをめくると『レンタル世界』から始まるのですが、とつぜん大人な内容なので、びっくりしないように言っておく。
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