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絶景は制限? 第1041話・12.4

「この先はまるで魔界だな」ふとつぶやくと運転席から横をちらりと見る。そこはイルミネーションのように光り輝く都会の中、郊外に向かって一台の車が走っていた。しばらくは住宅地の明かりが見える地域を走ったが、やがて目の前には山が迫ってくる。走っているのは幹線道路だから外灯はあった。だがやがて家が無くなり、急に上り坂が続く。峠を越えるまでしばらく山が続くのだ。
 
「単調な運転だからだから注意しよう」ハンドルを握りながら峠越えを目指す。

ーーーーーーーー

「さて、この上にある山頂からは、素敵な眺望が見られますが、環境保全のため現在、山上への入山者を厳しく制限しています」
 ここは山の中腹にあるゴンドラの山麓駅。昔はだれでもゴンドラに乗って山上に見られる絶景を楽しめたが、今は入場者数が限られている。そのためか、ゴンドラ乗り場では作業服のような恰好をした恰幅の良い男が壇上に立ち、山上を目指す人相手に演説のような注意点を延々と述べ始める。
「また環境保全のためには、理解力ない人の入山を禁止しています」このときに一瞬周りにいた人は、50人くらいだろうか?一斉にざわつき出す。

「静粛に!いまからその理解力を試すためのテストをしてもらいます」「テスト?」「ええ、そんなことしないと入れないの?」単なるざわつきだったものが、今度は具体的な声となって現れる。
「1分間のテストで10問答えていただき、60点以上つまり6問正解したらゴンドラに乗れます」

 壇上の男はそういうと、右下にいたスタッフに促すと紙と使い捨てのクリップペンシルが配られる。紙には問題と解答を書く欄があるらしい。
「合図の前に、折り曲げている紙を開けると失格です。はい、そこのあなたは失格!ゴンドラに乗れません」
 壇上の男が目の前の男性を指さす。男性は不満そうな表情をしたが、スタッフに促され出口の方に向かった。
「き、厳しい!」そんなことを思っていると、スタッフから折り曲げられた紙が配られた。

「中を見てはいけない。そうそう見てはいけないんだ」紙を両手で持ちながら中が気になるが、それをぐっと抑え込む。
「みなさん、紙とクリップペンシルがいきわたりましたね。テストの間の1分間。カンニングはもちろん私語は厳禁!見つけ次第、即退場となります」

 こうしてカウントダウンが始まり、「はじめ!」の大声が響く。一斉にみんなが紙を開ける。
「あれ」開けたときに絶句した。紙を開けると上に問題が書いてあり、下には選択制の記号が付いた回答を選べるようになっているが、問題の部分は番号だけが記入されていて、あとは何も書かれていない。
「あ!」口を開けようとしたが、そのとき、別の人が何か声を出したらしく、直後に「はい、失格!」の声。その人は若い女性のようで「何さこれ!」と怒りに満ちている。スタッフから出口に促されても拒絶。だが今度は頑強な男性スタッフが現れたかと思うと、女性の腕をつみ強引に出口に連行していった。
「ああ、ちょっと!」友達らしい女性が声を出すと、「はい、あなたも失格!」の声が響く。この女性は連行される間もなく、先のほどの女性の方に走りよると、ふたりとも立ち去った。

「あ、も言えないのか...…」口をつぐむしかなかった。とはいえ肝心の問題が書いていないのに、回答から選べとは無謀にもほどがある。
「はい、あと15秒!」の声、もう適当に丸を付けるしかない。「10、9、8、7」カウントダウンを始めている。適当に丸を付けた、もう直感でとりあえず解答用紙の記号に丸を付けた。

「そこまで!それでは、回答を発表します。①の答えはA、②の答えはB...…」壇上の人が声を張り上げる。「①は当たり、②も正解、③はダメか」答え合わせをしている。問題も知らないのに、答え合わせとは本当に不思議なもの。とはいえほかに手段もなかった。こうして答え合わせが進み、⑨までの段階で5問正解である。最後の⑩が当たるかどうかでゴンドラに乗れるかどうかが決まるのだ。
「では、最後⑩の答えは!」壇上の男が威厳ある声で、最後の番号を言おうとしたそのとき!

「あ、そうか!」突然目の前の風景が変わる。突然周りが鮮明になった。そこは峠のところにある道の駅の駐車場。車を停めて仮眠をとっていた。
「夢見てたのか、ふう」そう思いだした。単調な運転が続いて眠くなったので、峠の道の駅で仮眠をとっていたのだ。そのときに見た不思議な夢。
「あんな、制限のあるゴンドラ乗りたくないなあ」つぶやきながらフロントガラスから外を見た。時刻は早朝になっているのか、外が明るくなろうとしている。
「ここの展望台は確か東側だから太陽が昇る方向だな」いつも利用している山上の展望台、気晴らしに車を降りた。

 駐車場から少し歩く。白い息を吐きながら5分もかからないところに展望台がある。そこからは今から目指す東の方向が見渡せた。ちょうどタイミングよく太陽が昇ろうとしているのか、朝焼けでオレンジ色をしていて、地平線の一部が光り輝いている。周りにも30人くらいの人がいるようだ。その瞬間を思い思いに楽しんでいる。
 展望台からは眼下の展望が見えた。師走の冬空のためか霧のような雲が少しかかってはいるものの、絶景という名にふさわしい場所らしく、全体の風景が見ていてとても心地よい。

「現実世界は、制限が無くて良かった」と、思わずつぶやいた。

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シリーズ 日々掌編短編小説 1041//1000

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