ふたりで作るチョコレート 第752話・2.14
「楽しかったなぁ。けどこれって！」高校生の尾道拓海は、目の前にあるお世辞でも形が良いとは言えないチョコレートの塊を前に昨日のデートを思い出す。
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「おい、なんだよ。あれは明日だぞ」拓海は前日の日曜日同じ年の恋人、今治美羽に家まで呼び出された。「拓海君、あれって何よ？」「美羽、決まっているじゃないか、チョコレートをもらう日のこと！」
「もらうって」美羽は少し笑いをこらえる。「何笑ってんだ」「だって、あれ、バレンタインデーは告白のためのものじゃなかった」「え？」思わず固まる拓海。
「私たちって告白も何も、いつも一緒じゃん。そんなの必要ないって」
「おい、ちょっと待てよ。お前さ、普通、そういうのって、一応やるものじゃないのか？」てっきり明日チョコをもらう気満々だったので、まさかの展開のためか、拓海はやや焦った言い方をする。
それを見て、必死に笑いををこらえる美羽。「う、ふっ、その、一方的に貰えるとかって、拓海君、ずいぶん虫がいいわね」
「な、何でだよ。普通これをもらったら、その来月のホワイトデーで、お返しをお前に渡せるんじゃないか。貰えないと渡せないよ！」
相変わらず焦った拓海、美羽は余裕の笑顔になると「だから、来月、別にもらわなくていいって」「え？」またしても驚く拓海。美羽はそういうとスーパーの袋に入ったものを見せる。
「なにこれ？」「チョコレートを作るキットよ」「作るキットって、まさか自分で作れって？」
「じゃなくて、今から一緒に作らないかって相談。私ひとりで作っても寂しいし、一緒に作った方が楽しいかなって」
拓海は一瞬考えるように首を斜め上に向けたが、すぐに美羽の方を見て「なるほど、それならわかる。今から作ろう」
こうして、美羽の家のキッチンでチョコレート造りが始まった。ちなみにこのふたりは高校こそ違うが、物心ついたころから知っている近所の幼馴染。元々双方の両親同士が仲が良いこともあり、交際そのものも事実上親が公認している。
また手作りといってもいたチョコレートを溶かして自分の好きな形に作るだけ。美羽が買ってきたいたチョコレートを砕くのは、拓海の作業。
「ずいぶん固いなこれ」包丁片手に、独り言をつぶやきながら、拓海は必死にいたチョコレートを砕く。「粗めででいいわよ。どうせ溶かすから」
美羽は型の準備をする。丸い形の型といろんな色をしたアルミ箔を用意していた。
「こんなものでいいかな」美羽は拓海が砕いたチョコを見る。「いいんじゃない。じゃあ溶かすわよ」
美羽は砕かれたチョコレートを耐熱ボウルに入れラップをすると電子レンジの中に入れる。セットしてから2分程度で中に入ったチョコレートは、見事に溶けていた。
「さて溶けたみたい。拓海君、熱いから注意して」「美羽、これくらい大丈夫だよ」と拓海はボウルを持つが「あ、あち、熱い！」と大声を出し、どうにかボウルをレンジから取り上げる。それを美羽が笑ったのは言うまでもない。
「あちち、火傷したかなあ」と言って耳たぶの冷たいところを触る拓海。「もし火傷してたら、正直に言ってね薬あるから」「大丈夫だって」と何故か拓海は、美羽の前は弱みを見せないように必死になる。
美羽はさっそくスプーンを使い、溶けたチョコレートを用意していた型に流し入れた。拓海は何もせず眺めたまま。「さ、溶けている間に全部型に入れたわ。あとは冷蔵庫に入れて固まるまで待って、あのカラフルな銀紙を巻き付けたら完成ね」
「固まるまでどのくらいかかりそうかな」「うーん1時間くらいかな」美羽はレシピを確認しながらつぶやく。「それまでどうするんだ？」「1時間の動画作品でも見る」美羽の言葉に拓海は小さくうなづいた。
動画を見終わった後、冷蔵庫を開けると、あれだけ熱くて溶けていたチョコレートが見事に固まり冷えている。「後はこの包み紙にくるんだら完成よ！」美羽はいろんな色がついたアルミ箔を拓海に見せた。ノーマルなシルバーを始め、ゴールド、ブルーやレッド、グリーンのものなどがある。それをふたりは片っ端からくるんでいく。こうして1枚の大きな板チョコから20個の一口サイズの手作りチョコレートが完成する。
20個のうち10個はその場でふたりが食べ、残りは5個ずつ持ち帰ることにした。
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「バレンタインデーのチョコもふたりで楽しく作ると、いつもと違った気分だなあ」拓海はバレンタインデー当日の朝、学校に行く前にゴールドのアルミ箔にくるまれたチョコレートを取り出して食べる。「やっぱり自分で作ったからか、いつものチョコレート良い美味しいわ」と、頭の中で昨日の忘れられないひとときを思い出すのだった。
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