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ローズの路地に引き込まれる? 第860話・6.2

「なんだかんだ言ってもローズの花は綺麗ね」とバラの花を見て喜んでいるのは木島優花。パートナーの太田健太は黙って後をついていた。ふたりはとある薔薇園に来ている。ここに来たのは、優花からのリクエスト。
「太田君、静かに見ているけどローズの花見るのつまらない?」「いや、別につまらなくはないけど、バラってさ、ほかの花と比べるとどうも苦手だな。だってトゲがあるだろう」と健太は一言。
 と言いつつも気になるバラがあれば、スマホで撮影しているが、優花ほどしっかりとバラを見ていない。
「しかしここは広いなあ」と言いながら薔薇園を見渡す健太。ふと左側をみると、ローズのゲートを見つけた。
「おい、優花あそこ!天井にもバラが咲いているぞ」「え!」優花が見ると確かにそこは天井にもカラフルにバラが咲いていて、園内のどこよりもひときわ目立っている。「いいねえ、行きましょう」

 こうしてゲートをくぐるふたり。「ほう、ずっとバラが続いているぞ。まるでバラのトンネルだな」健太はそう言いながらトンネルの奥に向かう。優花もその後ををついていく。「しかし、本当にこれずっと続くな」「すごいわね。こんなにすごい薔薇園とは思わなかったわ」とふたりは楽しそうに仲良く手をつなぎながら薄暗い薔薇のトンネル内を歩いていく。しかし、5分、10分経ったのに、一向にバラのトンネルが続く。「あれ?おかしいわね。いくらなんでもこのローズのトンネル長くない」
「ああ、でもまだずっと続いているようだよ」「けど、いい加減キリがないし、もう戻りましょうよ」ここでは優花の方がつまらなそうな表情で、むしろ健太の方が楽しそう。
 だけど優花が戻りたくて仕方がない表情をするので、健太はやむなく引き返すことにした。

「あ、あれ?」後ろを見ると優花が不思議そうな表情。そこはトンネルではない。でも両側には背丈よりも高い緑の葉の壁になっていて、そこにはぎっしりとバラの花。「本当だ、さっきまでここは赤いバラばっかりだったのに、白とオレンジと黄色のバラになっている。あれれ?」健太も異変に築いて目を大きく見開く。
「とりあえず、まっすぐよね」と優花は歩きだした。ここでもふたりは手をつなぐが、先ほどまでの楽しさはない。しばらく歩くと行き止まりになっていた。「おい、優花、さっきから迷っていないか?」「え、でもあれ、左右どっちだろう」優花も健太もますます余裕がない。直感で左に曲がる。
「あれ、まただ」しばらく歩くとまた突き当りではないか。まるで迷路のようにもみえるが、ふたりにとっては迷路というより、細長い薔薇の路地に紛れ込んだ気がする。

「とりあえず、左右交互に別の方向を曲がろう。同じ方向に曲がると一周する気がする」健太のこの発想は正しかったようだ。行き止まりになるたびに左と右を交互に曲がることで、斜めに前進する。だから同じ場所をぐるぐる回ることはない。ないが、いつまでたっても出口がないのだ。同じような路地が続いている気がしてならない。

「ちょっと、どうしよう」いつの間にか真っ青な表情の優花。ここで健太は男らしさを見せようと、優花を優しく抱きかかえる。そのままふたりは抱き合い目を合わせると、周囲に誰もいないことを良いことに目をつぶり......。

「あ、あそこ、今までと違う」優花が突然元気な声を出す。「おお、確かに出口が近いぞ」と健太。それまでの薄暗い雰囲気とは明らかに違っていて、太陽の日差しが見えてきた。
「さっきは左に曲がったから今度は右」何度目か忘れたが、行き止まりを右に曲がると、突然開けた空間。ゲートをくぐる前のバラ園の前に戻ってこれた。

「ふう、バラ園の路地みたいだったなあ」「うん、いくらバラが好きと言っても、加減があるわ」
 ふたりはいったいどのあたりで迷ったのか確認しようと、出入り口近くにあるバラ園の案内図を見た。「えっと、あ、ここにバラのゲートだって」と、優花は園の真ん中あたりにバラのゲートのイラストが描かれているのを発見。「だけど、おかしいなあ」健太は首をひねる。イラストを見る限りゲートはあるが、その前後にトンネルもなければ、その先に続いた路地のようなバラの場所がない。「ほんとうね。あんなに長く続いていたのに」と優花も首をひねった。
「ならもう一回確認してみるか」「い、いい、もう迷いたくないし」と優花は首を何度も横に振って必至に否定する。
「だな、帰ろう」と、内心健太も安心したのか顔の表情が緩み、出口に向かう。

 こうして楽しさと必死さが入り混じった薔薇園のデートは終わった。だが声には出さないが、健太も優花も内心うれしかった。その途中で誰もいないときにあったことで。


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シリーズ 日々掌編短編小説 859/1000

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