見出し画像

トイレに行きたい。/ぎりぎり間に合った。 第915話・7.28

「トイレに行きたい。」
 車を運転しながら俺は心の中で叫んだ!トイレに行きたいのは理由がある。

 今日、俺は高速道路を運転していた。お昼になったのでサービスエリアに車を停めて、レストランで昼食を採る。そのあと予定より少し時間があるから少し休憩しようと探していたら、サービスエリア内にある緑地を見つけた。今日は暑いから少しでも日陰があるところと思い、緑地の中に入る。日陰で過ごしていた矢先のこと、右腕に何な液体のようなものが付いた感覚がした。見るとそれは腕に白っぽくて、少し粘り気のあるものがついている。

「あ、鳥の糞だこれ、やられた!」木の上にいた小鳥が落とした糞のようだ。だがこのときはすぐに対応。すぐに持っていたティッシュでふき取る。そのままトイレで洗い流し、糞がついたところの腕も洗った。だがこの時、鳥の糞ばかり気になったので、トイレで用を足すのを忘れてしまう。

「ち、不愉快だ、もう次に行くぞ」俺は、不快だからと急いで車に乗り込み、サービスエリアを後にする。だがそれがこの後の不幸の始まりとは想像もつかない。
 サービスエリアをでて5分もたたないときにその悲劇が始まった。急にお腹に痛みが走る。「う、これは......。さ、さっきデザートで食べたジェラートで腹冷やしたな」俺はそのときに大きく後悔した。それはジェラートを食べたことではない。急いでサービスエリアを出たことだ。
「鳥の糞さえなければ、サービスエリアのトイレでゆっくりしたのに......」後悔しても始まらない。こうなれば次のパーキングエリアを目指すのみ。

 俺はウインカーを点滅させ追い越し車線に入った。いつも以上に車のアクセルを全開。車体が揺れるほどの速度で、走行車線の車を次々と抜く。
「これじゃあ煽り運転をしているようだ」と思った矢先、俺の運転している車より明らかに性能がよさそうな車が、急速に追い越し車線の後ろから近づいてくる。「やばい!煽られる」俺は、すぐにウインカーを動かし、トラックの目の前で空いていた走行車線に入った。そのあと後ろの車は圧倒的な速度で、俺の車の横を追い抜いて行く。

「やばいな、やっぱ慣れないことはやめておこう」俺は間一髪、煽り運転の厄介なことに巻き込まれずに済んだことで、思わず胸をなでおろす。緊張していたのか後頭部から背中にかけて汗が流れる。
 また後ろから煽られかけたのが幸いしたのか、お腹の痛みが小康状態。ここは安全運転に戻り、パーキングエリアが現れるのを待つ。だが普段ならすぐに見えそうなパーキングエリアの「p」のマークがなかなか見えない。現れるのはインターチェンジの出口ばかり。

 しばらくするとまたお腹に痛みが走る。「うう」今度は腸からさらに後方、肛門近くまで迫っているようだ。無意識に肛門に力が入る。だが目の前には、パーキングエリアを表す標識が見えてきたのだ。
「あと、3kmか、どうにかなりそうだ」俺はちょっと安心した。パーキングエリアにさえ入ればトイレに入れる。
 また肛門に違和感が走った。俺は力を入れる。先ほどの汗が、腰からお城の谷間に到達した。「頑張ってくれ!」俺は心の中で何度も叫ぶ。ところが、ここで想定外の事象が起こってしまった。

 それまで高速走行をしていた前方の車が突然速度を落とし、ハザードランプをつけ始める。「え、渋滞!」俺は次の言葉がない。パーキングエリアまであと1kmのところで突然現れた渋滞。車が止まってしまう。
「ま、待ってくれ、パーキングだけ行かせてくれ!」俺は心の中で叫ぶ。重体といってもほんの僅かは動く、十数メートル動いては止まり、また十数メートルといった具合に、わずかではあるが車は動くのだ。

 俺は前を見ながらハンドルやアクセルブレーキといった運転操作を行いながら腰からお尻にかけては、ダンスをするかの如く上下左右に動かした。
 腹の痛み見さることながらおしりから今まさに出ようという圧迫感。先ほどの煽られかけたときよりも、数倍の汗がしたたり落ちる。

「う、ううううう、」だんだん声にならない苦しみ。「お産のときはこういうものか?」俺は女性ではないから知らないが、頭の中で勝手に想像する。こんなことをしながら気を紛らわせていると、ようやくパーキングエリアの入り口に入った。
 すべての車はここには入らないが、俺と同じ理由だろうか、トイレなど最低限の設備しかないパーキングエリアなのに意外に多くの車が吸い込まれていく。それでも平日であったのが幸いしたのか、車を駐車するのに問題はない。

「ついた、と、トイレ」俺は慌てて車を出て鍵を閉める。そのままぎこちなく歩く。走りたいのは山々だが走れる状況にはない。痛みと苦しみ、またいよいよトレイに近づいたことを腸や肛門も察知したのか、それに反応し、いよいよ出ようとしている中身......。

 どうにかトイレの入り口に到着した。だがどれもドアに鍵が締まっている。「え、え!」俺はだんだん気が遠くなる気がした。が、かろうじてひとつの便器で流れる水の音。「もう少しだ!」流れる音から人が出てくるまでの数秒間が、数分間のような長さに感じる。
 ドアから人が出た。その人が出るのを見計らって慌てて入る。すぐにカギをかけた。「だめだ、あと10秒待ってくれ」俺は即座にズボンとパンツを下す。
 肛門たちはその時間をも待てないように、モノが本格的な降下を始めた。肛門が今にも空きそうな緊迫した状況。取り急ぎ俺はパンツを外した。いよいよ便器にお尻を近づける。便器の上にお尻が接触する前に肛門が開き、モノが勢いよく便器に投下。何とも言えない肛門の口から空気とともに出てくる落下の音が便所に響く。それがしばらくすると、第一波の中身の降下と音が消えた。まだお腹の中では第二派が降下しそうな状況。ここで俺は大きく深呼吸。そのあと頭の中でこうつぶやく。
「ぎりぎり間に合った。」


こちらの企画に参加してみました。


https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C
------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 915/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#たいらとショートショート
#トイレに行きたい
#ぎりぎり間に合った
#再現してみた
#高速道路
#煽り運転
#サービスエリア
#パーキングエリア

この記事が参加している募集

スキしてみて

再現してみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?