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ビタミン 第690話・12.13

「エドワード、さっきからいったい何見ているの?」日本語が堪能な英国人のジェーンは、長い金髪をかき分けて、パートナーのエドワードこと江藤に話しかけてきた。
「いっぱい種類があるけど、どれがいいんだろう? あ、ジェーンわかる」「え、だから何見ているの?」「ビタミンなんだ。最近疲れやすい気がしてるんだが、多分俺ビタミン不足じゃないかと」
 江藤の表情は疲れているためか暗い。

「不足してるんだったら、ビタミンを補給すれば? いろんなサプリがドラッグストアにあるんじゃない!今から行こうか?」
「いや!」江藤はジェーンに向けて気難しい表情となる。
「ビタミンて調べたら、結構種類があるみたいなんだ。だからどれがいいんだろうね」
「Oh! It's a vitamin. え、と、種類ならビタミンA、C、あとは」ジェーンは斜め上を見て考えている。

「いや、種類ならわかっているんだ。13種類ある」「へえ、ビタミンが!」「そう、A、D、E」「エドワード!Cもあるよ。それからBはいくつか細かい種類が」
ジェーンが途中で話を入ってきたので江藤は咳払い。「それは知っているよ。今説明しているのは脂溶性(しようせい)というんだよ。Cとかは水溶性なんだって」「へえ」
「あ、えっとそうだビタミンK。ここまでの4種類が脂溶性といって、油と一緒に取ると吸収率が高くなるんだって」
「ふうん、じゃあ、油で炒めたり揚げたりだから、そのビタミンの多い食材を探さないと」
 ここでジェーンはポケットからスマホを取り出した。

「うん、だけどそのほかに水溶性というのがあって」「Cとかね」
「こちらはビタミンB1、B2、B6、B12」「あれ、途中で抜けてるわねB3とかは?」「あ、それは無いみたい。あとビタミンCとパントテン酸、葉酸、ビオチンと、ナイアシンで9種類。合わせて13種類だ」
 江藤はまじめにビタミンの種類をこたえるが、ジェーンは徐々に苛立っている。
「もうエドワード、そんなの覚えられないわ!それになんか順番がバラバラね。EからいきなりKに飛んでいるし。それに『何々酸』とかビタミンの名前すらついていない! そういうのにイライラする。get annoyed!」
「怒るなよ。俺に言われてもわからん。確かにジェーンの言うようにビタミンAから順番にMまで13種類割り振ればいいんだけどな」
 江藤はそういうと、大きくため息をつく。

「それでひとつずつ、どのビタミンが何に効くかだ。俺の疲れやすさと照合しないと」
「あ、エドワード!」突然ジェーンの大声。

「なんだよ、大声出して」「エドワードわかった。そんなビタミンのこと気難しく考えているから疲れてるのよ」「え?」
「ねえ、確かみかんはビタミンCよね」「え、ビタミンCと言えばレモンのイメージがあるから、みかんにも入っているとは思う。でもみかん1個当たりの含有量っていくらだ」

「含有量はいいけど、これ見て!」ジェーンはスマホを江藤に見せる。「みかん狩り?そうか、今がシーズンだな」

「でしょう。今度の休みここ行かない。天然のビタミン取りに」「い、いきなりだなあ。まあ休みだったらいいかな。ジェーン、わかった。天然のビタミンを取りに行くか!」ようやく江藤の表情が明るくなった。

ーーーーー

 こうして次の休日、ふたりはみかん狩りに出かけた。

「はあ、疲れた」江藤は疲れたのか顔色に疲れの表情。対して体育会系のジェーンはまだまだ元気そのもの。「エドワード。ダメね。私はまだまだ元気よ!」と家に戻っても体をリズミカルに動かしている。力が有り余っているようだ。
「最近運動不足だったからなあ。これ多分明日筋肉痛だ。リュックにいっぱいのみかんを持って帰ったし」疲れ切った江藤。ジェーンは元気なままさっそくみかん狩りで手に入れたみかんを手にとると、皮をむきはじめる。
 江藤はしばらく黙ってうつむいていたが、しばらくしてから、意外なことを言った。
「でもジェーンありがとう。今日はいい運動をした気がする。多分今晩よく眠れそうだ」
 それを聞いたジェーンは、みかんを口に含みながら笑顔でうなづき「エドワードもビタミン取ったら」とつぶやいた。


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