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ずっと前から知っていました (#月刊撚り糸 & #2021クリスマスアドベントカレンダー) 第684話・12.7

「ずっと前から知っていました。今日ははっきり言います。大輔君、あなたがサンタクロースだってこと」ここはとある冬のイルミネーション会場、大きなクリスマスツリーを中心にいろんなイルミネーションが、広がっている。そんな場所にデートに来ていたふたり。

 恭子はついに、大輔に向かって思いのたけをぶつけた。「ち、ちょっとまってよ。恭子ちゃん何で急に僕のことをそんな風に」恭子にサンタクロースと言われて戸惑う大輔、明らかに狼狽しているのか目が左右に動いている。

「もう、隠さなくていいの。もう」恭子の目は真剣にみつめている。12月だというのに、大輔の額から汗がにじみ出ていた。
「あの、恭子ちゃん。僕は本当に違うから、だれかと勘違いしているって」 
 大輔は否定するが、恭子は首を大きく横に振った。

「私は以前から『もしかしたら』と思ったわ。でも確信が持てなかった。まさかだけど、何年も会っていない父親かもしれないと思っていたから。でも昨年のプレゼントで直感したの。そして1年間、申し訳ないけど、大輔君がサンタクロースではないかと密かにチェックしていました。そしたらこのプレゼントが届く1週間前に、大輔君がひとりで時計屋に行ったのを、私見たの」

「え、まさか!」「これ、今年サンタクロースのプレゼントを買ってくれたのはあなたよね」
 恭子はそういうと、今年のサンタクロースからもらったという腕時計の入った箱を大輔に突き出した。

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 恭子と大輔は小学生の時に知り合った。大輔が小学六年のとき、すぐ隣に引っ越してきたのが小学1年の恭子とその母親である。別に女を作った父親とは別居中で、離婚調停をしている状況。
 大輔の両親は元来社交性があり、そのような境遇の恭子の母親といち早く打ち解けて仲良くなっていた。だから5歳離れている子供同士も仲良くなる。
 ひとりっ子の恭子は、あまり表に出るのを嫌がる小さな女の子だったが、両親同様に社交的な大輔が、いつもそばにいてくれて、優しく相談に乗ってくれる大輔をいつしか兄のように慕った。

 そして大輔が中学の頃には、京子の両親の離婚がようやく成立。別居していたとはいえ、それまで恭子の父親は、娘のためにクリスマスプレゼントを毎年贈っていた。しかし、恭子の親権を母親が持つことになり、この日を境に父親からとの連絡が途絶える。
「サンタクロースからのプレゼントは今年来るかなぁ」恭子は寂しそうに大輔につぶやいていたが、その年は結局プレゼントは来なかった。

 ところが、その翌年、恭子が小学6年生のときの冬、突然恭子宛に荷物が届いた。ただ住所が書いておらず「サンタクロース」としか書いていない。恭子は得体のしれない荷物だから気味が悪かった。
 こういうときに最初に相談したのが、高校生になっていた大輔。大輔は「多分、大丈夫、大丈夫」と言いながら「だったら恭子ちゃん、開けていい」という。恭子がうなづくと、大輔はパッケージを開ける。中は怪しいものではなかった。「うゎあ、これ欲しかったもの。パパがまたプレゼント」
 恭子の母親はその様子を見て、最初決していい顔をしていなかった。「宛先も書いていないのに......あの人が、まさか」
 母は首をかしげながらも、よくよく考えれば恭子の実の父親だ。それくらいしてもおかしくないと思いだした。「慰謝料さえもらえれば私には関係がない。あの人がこっそり恭子の父親をやるというなら、それは黙っておくべきね」

 その後大輔は高校を卒業するときに恭子と一時離れ離れになった。それは遠くの国立大学に進学したからだ。
 それでも年に数回連絡を取り合っていたふたり。思春期で母親との関係が不安定だった恭子を大輔が陰で支えていた。そして謎のプレゼントも同じように毎年届いている。
「もしかしてこれって」このころから恭子はプレゼントの主が大輔ではないかと思うようになっていた。だが証拠がない。本当に実の父親のものかもしれないのだ。
「言わない方がいいかも、サンタクロースからのものだし」恭子はあえて大輔に問いたださなかった。そして大輔が大学を卒業。就職先が実家と同じ町にしたために当時高校生だった恭子と久しぶりにリアルで再会した。
「恭子ちゃん子供だったのに、ずいぶん大人らしいね。でも可愛くなったなあ」大輔が再会したときに発した一言。

 同時に恭子も、近くに戻ってきた大輔に男性として意識しつつあった。しばらくは兄と妹のような関係が続いたが、恭子が高校を卒業したタイミングで、ついに大輔が告白。ふたりは正式に交際を始めた。

 あれから5年がすぎ恭子も社会人となった。そして去年のクリスマスの直前にも同じように住所不定、サンタクロースと書いた名前でプレゼントが届いた。
「私、社会人になったのにまだプレゼント? いくらなんでも、これってやっぱり。でもなぜ?」恭子は、サンタクロースの正体が大輔のような気がしてならない。父とは離婚後一度も会っていないから恭子の好みなど、もうわからないはず。「一度しっかりと確かめよう」
 恭子は付き合いだしてからは大輔からもクリスマスのプレゼントをもらっている。もしそうだとすれば2重にもらっていることになっていた。
「いつまでもサンタクロースからプレゼントなんて」

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「わ、分かった!」大輔は観念したかのように声を出すと突然その場で座り込み土下座をする。「どうしたの、こ、こんなところでやめて」
 恭子が周りを気にしながら、大輔を起こそうとする。七色に輝くクリスマスツリーそして、周りのイルミネーションの美しい光の闇の中、ふたりを気にしている人は誰もいない。
「白状します、そうです。恭子ちゃんのサンタクロースを僕が毎年やっていました」大輔は起き上がって白状。
「それはいつから」「僕が高校生のとき、恭子ちゃんサンタクロースが来ないと寂しそうだったから、僕が恭子ちゃんのパパの代わりにと思って」

「高校のときって、そんな!お金どうしたの」「バイトのお金で」大輔から聞く話をただ驚く恭子。思わず手の平を口の前に出した。「なんで、なんで、大輔君。今まで私にいってくれないのよ!」恭子の口調が強い、まるで何年も大輔にだまされたような気がしたから。
「あ、あのう、き、恭子ちゃんと付き合い始めて、いつか言おうと思ったけど、いつも恭子ちゃんがサンタクロースからのプレゼントを楽しみにしてたし。僕が名乗って恭子ちゃんが悲しそうになったら嫌だなって」
 小さな声で言い訳をする大輔。恭子は大輔の肩を軽くたたくと「そんなぁ。別にサンタクロースからもらわなくても、大輔君からもらった方が私うれしいのに」

「わかった。もうサンタクロースのプレゼントは終わりにしよう」「そうよ、そしたら代わりにこんどおいしいもの食べにレストラン行こうか」「うん、いいよ。でも」「うん?」

「そしたら、最後のサンタクロースをしてもいかな」「え?」驚く恭子、もう今年のサンタクロースからのプレゼントはもらっている。でも大輔はクリスマスツリーに一瞬視線を送ってからこう言った。「サンタクロースというより僕からのプレゼントだけど、恭子ちゃん、結婚しよう」



こちらの企画に参加してみました

加えて、今月は2021クリスマスアドベントカレンダーの12月7日の担当でもあるので、こちらにも参加ととなりました。

※日程が重なったのでふたつの企画同時参加とさせていただきます。

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シリーズ 日々掌編短編小説 684/1000

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