見出し画像

アホとバカの開放区 第707話・12.30

「そういえば、今更だけど、圭さん、アホとバカの違いって分かる」ベトナム人妻のホアがいつも通りに唐突な質問をしたために、石田圭は口に含んでいたお茶の飲み込み方がおかしくなり、思わずむせてしまった。

「ゲホッ、ち、ちょっと、急にホアちゃん。何言いだすんだ、フォー!ゲフォ!」
「ゴメン、何かやっぱり変なこと言ったかな」「い、いやいいんだ。ホアちゃん。そ、それはいつものことで慣れているから」圭はそういいながら、改めて水を飲み、気管の状況を改善した。
「て、いうかさ、何で急にアホとバカの違いなんか気にしたの。俺的にはアホは関西で、バカは関東というイメージしかないんだけど」

「そうか、よくわかんないね」ホアが真顔で落ち込む。「ち、ちょっとどうしたのホアちゃん、急に落ち込んで。まさかホアちゃんがアホとかバカとかじゃないよ。むしろ賢いと思う。だって文化も言葉も違う異国に来て頑張ってるじゃん」

「いや、わたしじゃなくて、その幸越が.....」「はあ?」圭の表情が固まる「 ホアちゃん!それは、聞き捨てならない。何、幸越って。ホアちゃん自分の子供がアホとかバカなんて、親が口が裂けても言っちゃだめだ!」
 珍しく圭が本気で怒る。ホアは即座に反論。「でも、だって、赤ちゃんて最初はだれでもそうじゃないの!」「え??」
「泣いているか笑っているか寝てるしかないし。言葉も理解できるのかできないのかわからない状況って、言ってみればアホかバカよね」
 圭はホアから発する言葉の破壊力の前に、強烈な鳥肌が立った。

「あ、あのう、ホアちゃん、まず落ち着いて話を聞いてくれる」いったん深呼吸した圭は真顔になり語りだす。
「赤ちゃんがアホかバカというレッテルなんだけど、まず貼っちゃダメ。あのキーワードはおそらく大人に対するものだと思う」「うん、それで」
「そうか、多分、ホアちゃん子育てで疲れているんだよ。幸越に限らず赤ちゃんは、確かに最初は鳴くか寝てるか笑うしかできない。でも親の存在は理解していると思うよ。
「本当かなあ」ホアは首をかしげる。「だと思う。ちゃんと母乳は」「それは飲んでるけど、本当にその意味わかってるのかわからなくて」
「飲んでいるということはわかっていると思うよ。わかってなかったら飲まないし」

 圭は必死に説明する。「そうか。だったらいいけど、今の状態だと確かに生まれたときよりは大きくなっているのはわかるけど、言葉もまだ話せないし、自分で立てそうもないし」
「いや、それはあと1・2年たてば多分変わると思う。もう少し待たないと、確か言葉は早くて9ヵ月、立つのは1年くらい経ってからだって書いてあったよ。幸越は生まれてまもなく半年だよ。もし、いきなり立ち上がって、ベラベラ流ちょうな言葉をしゃべったら、その方が気持ち悪いと思うけどな」

 ここまで説明を聞いたホアはようやく納得したようだ。「そうか、圭さん、分かった。もう少し様子を見るよ」「うん。そうして、ゆっくりとね」ようやく圭にも表情に余裕ができた。


「そうだ、アホとかバカって日本語をベトナム語に訳したらどうなるかな」ホアは自分のスマホを取り出すと、いきなり翻訳をしてみた。
「あ、圭さん。ベトナム語に訳したらアホは、Dốt nátで『愚か者』、バカは、lừa gạtで『バカ』と出てきたんだ。ということは似て非なるものかなんて」
 ホアが真顔で言いだす。圭は口を緩めながらうなづく。「うーん、そうなんだ。翻訳機能がという問題もあると思うけど、それ以上は俺わからないわ。ということは、もしかして俺がアホなのかバカなのかなぁ」

「そんな、圭さんはそんなことないよ!」
「いや、わからないよ。だって『馬鹿とハサミは使いよう』とかいうし。あ、そうだ『馬鹿と天才は紙一重』というのもあるぞ」圭は腕を組んで考え込む。
「ちょっと、圭さんさっきからバカばっかじゃん。アホはないの?」
「え、アホ? アホでは あ『アホにつける薬なし』というのはあった!」思い出したのがうれしかったのか圭の表情は明るい。

「じゃあもし幸越がずっとあのままだったら、つける、く」「ホアちゃん!ダメ!!その話したら」と圭は再び真顔になるのだった。



※こちらの「あほあほ祭り」という企画に参加してみました。


------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 707/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#あほあほ祭り
#アホ
#バカ
#圭とホア
#つくってみた

この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,761件

#つくってみた

19,199件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?