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イチオシのおいしい一品 第1101話・2.8

「うーん、どこか旅行に行こうか?例えば海外とかさ」のデートを楽しむ男女がいる。それをいつも冷静な表情で見ているのは、全身がグレー色をしたとある野良猫。「ふん、相変わらず夢を語らる奴だニャー」といつもなら彼はそう思って少しやっかんだりするが、今日は違った。「い、ヒヒヒイ!今日はご馳走なのニャー」と隠れるようにして笑う。
 
 彼は自分の家に戻ってきた。目の前にはご馳走がある。彼の外見は猫だが厳密は猫とは違う。人間が「エイリアン」とでも呼びそうな異星生物である。外見は猫でありながら人間よりもはるかに高度な知能を持つ彼は、地球を支配しているホモサピエンス。つまり人類の様子を探りに来た。

「良く間違えられるが、侵略じゃニャイのら。そんなことをしたら異星生物愛護法違反で当局に捕まるのニャー。おいらは観察なのニャーだからな」どうやら地球に住む人の研究をしているようで、そのために地球に移住している。

 彼が住んでいるのは町から離れたところにある結界の中。人間たちは神々が住むと信じている結界で、この中に迷い込むと二度と元の世界には戻れないと信じている森であった。だから誰も入ってこないが、逆に異性生物である彼らにすれば都合が良い。森の中にある小高い丘の中に穴を掘り、そこに家を建てて研究所兼住居としていた。

 普段は野良猫に成りすまして街を歩きながら人類の様子を見る。もちろん人間からは野良猫にしか見えない。通常は巷の猫と同じ速度で行動をとる。そして彼は猫とはコミュニケーションが取れた。猫語というのだろうか?人間からすれば「ニャー」としか聞こえないこのやり取りを、完全に理解できる。猫の中には何匹もの協力者がいて、いつも人間の様子を教えてくれた。 
 猫の好きそうなものをはわかっているので、情報を聞いた彼は猫に報酬として食べ物を渡せば、喜んですぐに別の情報を教えてくれる。

 だが彼の知能は人間より高いからには捕まることはない。仮に野良猫駆除のような行為に人間が入ったときには本気を出す。そうすれば人間の用意した駆除の道具では捕まらない。瞬間移動能力を持つ彼らはあっという間にそのエリアから全く別のエリアに移動できるのだ。

 そんな毎日を過ごしていた彼であるが今日は特別な日である。「今日はおいらの誕生日にゃのニャー」そういうと彼はご馳走を目の前にスプーンとフォークを用意した。
「さて、えっと何歳にゃっけ」地球に来てずいぶん経つ。いつの間にか自分の年齢も忘れてしまったようだ。ちなみにこの異星生命体の寿命は人間の10倍はある。

「ここにきてちょうど8年にゃりー」と言って彼はひとりでご馳走を食べようとした。彼らの観察チームは10年で交代して地球上の様子をチェックする。観察メンバーは基本はひとり。もちろん緊急事態に備えて本星といつも連絡が取れる体制は引いていた。一応彼らの宇宙船を使えばワープ航法を用いて地球まで3日で行けるのだ。
「お、みんなきたニャー」いつの間にか彼の前には近所の野良猫が集まった。野良猫にとってもこの禁足地の中にある洞窟に行くのは何の問題もない。むしろ彼が定期的に主催する食事会に足を運ぶのが猫たちの楽しみのひとつだ。


「旦那、今日はお誕生日なのだそうで」一匹の野良が話しかけてきた。「そうだ、だけどおいら年齢忘れたニャー」と彼はつぶやく。「そんな、旦那、自分の年齢忘れたらいけませんぜ。俺たちは月でカウントしますが、旦那は人間どもと同じ年ですからな」
「いや人間よりも10倍の単位なのにゃ。だからえっと」彼は別の猫からの質問に答えながら自信の年齢を思い出す。あ、思い出したニャー。今年で190歳にゃ」これは人間でいう19歳と同じ。実は彼はまだ若い。若いからこそ母星から遠く離れた異星の地から単身地球観察に来れるのだ。
「で、旦那はあとどのくらいここに」「えっと、2年きゃニャー」と彼は丁寧に答える。こうして猫たちの質問を終えると彼は、「ようし、みんなでご馳走を食べるのニャー」と一言発すると、一斉に食事にありつく。

「地球の猫も食べられる、わが母星イチオシのおいしい一品のご馳走だからにゃ、でもみんな下品じゃニャー。でもこれは仕方にゃいね」彼はそう言っ て猫たちが手、つまり前足を使わずに口からむしゃむしゃ食べる様子を眺めている。「さてこっちで食べよう」同じものが目の前にあった。
 彼はフォークとスプーンを使い、人間と同じようにして食べる。「うん、うまい。懐かしい味じゃニャー。でもあと二年。もうすぐなのニャー」人間でいえば2か月弱くらいの感覚だろうか?彼は残り少ない地球での観察機関、これまで以上に観察に力を入れないと思いつつ食べながら身構えた。


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シリーズ 日々掌編短編小説 1101/1000
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