見出し画像

クリスマスの過ごし方 第1061話・12.25

「そ、そうだね。さすが!それで夕食も早く取ったんだ」と私は笑顔で返した。だがそれはもしかしたら彼に対する嫌味に感じたかもしれない。
「でも、ごめんね、クリスマスイブなのにひとりにして」私は慌てて彼に謝った。

------

「ごめん、24日のシフトお願い。他に誰も入ってくれないから」
 半月前、職場のリーダーに言われ、私は次の言葉が出ない。クリスマスイブはみんな休むから、結局私がしりぬぐいだ。私が職場でも古参でサブリーダー的な立場だから仕方がない。というわけでひき受けたが、つき合った彼と初めてのクリスマスなのにどう言えばよいか迷った。
「いいよ、25日は休めるだろう」「もちろん、だからごめん」ということで24日の仕事に出た。こうして夜遅くに帰ってきたときの会話。

「もう気にするな。だから俺も今日は短時間のバイトを入れたんだ。それで腹減ってな」と彼は白い歯を見せる。私はこれを見て少し救われた気がした。

------

 翌日、本当はクリスマス当日なのに、なんとなく周回遅れのような気がしたが、それでもふたりは仲良くクリスマスデートを楽しもうと考える。そして何の話し合いもしていないのに、自然にとある場所に足が向かった。

 そこは町の中心にあるアーケードの商店街だ。「ここで1年前に出会ったもんね」私は1年前を思い出す。
 彼は、視線をアーケードの天井に掲げられているサンタクロースを見つめながら、「そうだな。去年はサンタクロースだったんだな」と、ひとこと。

 ふたりは出会いは、昨年の12月のクリスマス。彼はクリスマスのバイトとしてサンタクロースのいで立ちをして商店をうろついていた。商店街全体のバイトとして商店街全体の盛り上げ役。アーケードの端から端まで行ったり来たりしながら通行人にチラシを配ってアピールする。日程と時間帯により配る店のチラシが変わった。こうして商店街全体に満遍なくセールス出来るようにしていたのだ。

「そうそう、あの日もクリスマス当日。イブじゃなかったね。私の仕事が終わった帰りに商店街、確かケーキを買おうと思ったのよ」
 私は「25日の遅い時間ならケーキが売れ残って安くなるはず」と、確信犯的にそのタイミングで商店街のケーキを買おうとしていた。
 ちなみに昨年のクリスマスは私はひとりである。夏に別れがあり、クリスマスもひとりで過ごす予定であった。

 彼は視線をアーケード中に向けながら一年前の出来事を思い出す。
「あれは12月1日から休みなしの25日連続のバイトだった。休みなかったし、本当に大変でさ、あの日は最終日。あと2時間でサンタクロースともお別れだななんて考えていたころだ」
「そうよね。嫌な思い出ところ来ちゃった?」彼は首を横に振り「いや、そうでないと、君と出会えなかったな」彼は笑顔をみせる。
 今年はサンタクロースではなく、客としての立場だから気持ちが楽なのだろう。

「通行人に片っ端から配っただけなのにな」彼はサンタクロースでチラシを配っていた。その時間はちょうど商店街の中ほどにあるケーキ屋さんのクリスマスケーキが半額セールを始めたということで、彼はその旨を伝えながら、道行く人にチラシを配っている。
「やっぱり」私はその時の彼の声を聴きながら、チラシをもらおうと近づいた。手を伸ばしたので彼が「どうぞ」と一枚のチラシをくれたが、私が手を滑らせてにチラシが地面に落ちてしまう。
「あ、すみません」「いえ、気にしないでください」そのとき彼は新しいチラシを私にくれたが、このときにお互いの目が合った。
 まさかとは思ったが、そのときに何か来るものが感じる。不思議な親近感というものであろうか?

 このときは、そのあと少し、2・3分の会話だけで終わった。ところが無意識のうちにお互い連絡先を交換し合っているではないか。
「先日のサンタです。もしよろしければ初詣とかご一緒しませんか?」3日後に彼からの連絡がきた。正月もひとりだと思っていた私は即OKと返答し、今年の初詣デートをきっかけに交際がスタート。
 こうして間もなく1年を迎えようとしている。3か月前からは同棲しているし、そのままゴールしそうな雰囲気だ。

「出逢ったのはクリスマスだけど、こうやってふたりで楽しむクリスマスは今年初めてだね」お互い1年前の出会いを思い出しながらもの思いにふける。
「だな、うん?」彼はすぐ目の前からサンタクロースがこっちに向かって歩いてくるのみ見つけた。「今からケーキがセールスです!」と、彼はサンタクロースからチラシをもらう。
「1年前の俺のようだ」と、チラシを手に取ってみると、今年もケーキが半額になっている時間。「去年はひとり用のショートケーキだったけど」「今年は2人用のホールケーキだな」と彼は言いながらチラシを右手に、左手をつないでいる私と共にケーキ屋に急いだ。

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C
------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 1061/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#クリスマスの過ごし方
#商店街
#出会い
#クリスマスケーキ

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?